無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

文字の大きさ
12 / 62

十二話

しおりを挟む
「ロイド……?」



 宿の一室で、2日ぶりに再会したイリスは随分と弱って見えた。

 髪も肌もどこか色褪せて艶をなくしたように思える。

 泣き腫らした痛々しい青い眼が、真っ直ぐに俺だけを見つめる。



「イリス、無事だ―――」



 言葉の途中で駆け寄って来たイリスに抱きしめられた。



「っと、危ないって!」

「ロイド! ロイドッ、死んじゃったかと…死んじゃったんじゃないかって心配したじゃない!!」



 ポロポロと涙を流しながら、ギューっと背中に回された手に力がこもる。

 何かに怯えるように、何かを恐れるように震えているイリスの体。身長は大して変わらないのに、イリスはこんなに小さいくてか細いんだな…。そりゃ、そうだよな? 相手は女の子なんだ。

 そんな普通の女の子を一杯不安にさせて、一杯心配かけちまったな…。あの場でイリスを助けるにはアレ以外選択肢が無かったとは言え少し反省。



「ゴメン。でも、ちゃんと生きてるから」



 ちゃんと抱きしめ返して安心させてやりたいけど、それは本当のロイド君がやるべき事で、偽物の俺に出来るのは背中を軽くポンポンっと叩いてやるのが精一杯だ。



「うん……良かった。良かったぅ…」

「イリスも大丈夫だったか?」

「ロイドが護ってくれたから、大丈夫」

「そうか、なら安心した」

「あー、ゴホンゴホン」



 部屋の入り口に立っていた弘明さんが、わざとらしい咳払いで「私居ますよ」アピールをしてくる。そういや、いたんだっけ……。人にこういう姿見られるのは恥ずかしいな…。そして、それはイリスも同じだったらしく、小動物のような俊敏さで俺から離れる。



「ゆ、勇者様!? い、い、いらしてたんですね…」

「はい。なんか、スイマセン…感動の再会を邪魔したみたいで」

「いえ! そ、そういうんじゃないですから!?」

「あー、言う事言ったら僕は退散するので、続きはその後でお願いします」

「だから、違いますから!!」

「で、何ですか?」



 話が進まないので促す。

 イリスが居るから異世界関連の話じゃないだろうけど、あの顔を見る限りあんまり聞いて面白い話じゃなさそう。



「ようやく他国から高位の魔法使いの方達が到着したので、現在急ピッチでアンチポータルと言う転移魔法を無効にする結界をルディエ周囲に展開しています」



 ここに至って、やっとこさ魔道皇帝側の最大のアドバンテージだった転移魔法への対策か。流石に王都を良い様に攻められてたんだ、ノンビリしていたわけじゃないだろうけど、随分時間がかかったな。

 いや、転移魔法の使い手自体が相当希少っぽいし、だとすればその対抗術の使い手も同じくらい希少なのかも。だから呼ぶのに時間がかかった…とか?



「ただ…」



 明弘さんが口を開きかけて止まる。

 その先を言うべきか迷っているって顔。

 勇者として一般人の俺等に言うべきか…。大人として子供の俺等に言うべきか…。戦う者として戦わぬ俺等に言うべきか…。

 数秒迷って、俺の顔を見る。同じ異世界人の俺を。

 視線を俺に固定したまま数秒の葛藤。そして、どうやら言うと決めたらしく、改めて口を開く。



「今まで見つからなかったアンチポータルの使い手がこのタイミングで偶然見つかったと言うのがどうにも引っかかっています。敵が転移魔法で自在に兵を送り込んで来る以上その対策が必須なのは理解していますが……」

「この流れが魔道皇帝側、ないし誰かの策略の上って事ですか?」

「うーん…考えすぎでしょうか? 勇者とは言っても僕は所詮……」



 元はただのトラックの運転手だから…ってか。

 勇者を演じている間は、元の経歴…一般人だった姿は欠片も見せなかったのに。

 同じ異世界人の俺の前だからか。



「だったらそのアンチポータル? とかいうのを使う魔法使い達の事探ってみたらどうですか? 裏があるなら叩けば埃の1つや2つ出るかも」

「いえ、それが結界を張る為に街の外に出ているらしくて。それに、結界維持の支柱を立てるとかでいつ戻るかも分からないし、支柱の場所を秘匿するから暫く誰も街の外に出るなって」

「え!? それ俺等もですよね!?」

「勿論そうです」

「ええっと、それは勇者様、私達村に帰れないって事ですか?」

「はい、少なくても魔法使いの方達が戻るまでは。まあ、2日か3日で終わると聞きましたからすぐですよ」



 転移魔法はそのアンチポータル? とか言うので無効になってるし。徒歩の出入りは禁止じゃもうどうしようもないな。



「諦めて暫くルディエに留まるしかないな」

「そうは言うけどねロイド! ここの宿代だってただじゃないのよ!?」



 ああ、そりゃそうか…。

 しかも俺等、あの収入の少ないユグリ村の人間だしなあ。財源問題は洒落になんねえよ。



「最悪野宿ね…」

「勘弁してくれよ」



 最悪俺は我慢するけど、イリスに野宿なんてさせたらロイド君に合わせる顔がねえ。いや、そもそもロイド君に会う事自体あるのか知らんけど。



「あはは、それは心配しなくても良いですよ。君達の滞在費は僕の方でなんとかしますから」

「ほ、本当ですか!?」

「明弘さん、太っ腹ー! 流石勇者様!! 最高、一生着いていきます!!」

「ロイド君…現金な人間だって言われないかい…?」

「言われた事はないけど、少しは自覚があります」

「それは…アレだね? 一番、たちの悪い奴だね?」



 苦笑する明弘さんと、俺と勇者様が仲良さそうにしているのに疑問符を浮かべているイリス。

 俺は……とりあえず、溜息でも吐いておこう
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

処理中です...