無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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十三話

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 イリスと再会してから一夜明けた。

 昨日は結局、明弘さんが帰った後はずっと部屋に引きこもっていた。

 いや、一応言っておくが、俺が率先して引きこもっていたわけではない。むしろ、明弘さんに着いて行ってもう少し話をしたかったのだが、イリスが横になっていろと口うるさいので仕方なく宿でゴロゴロしていた。

 イリスが何かと世話を焼いてくれるので不便はないのだが、過保護に扱われ過ぎて正直

ちょっと息苦しい……。必要な時だけ助けてくれて、ほかは基本ずっと放置されているくらいでちょうど良いんだ俺は。



「ロイド、起きてる?」



 扉の向こうから声がかかる。

 短く「おう」と返事をすると、イリスが遠慮なしに部屋に入ってくる。



「ちゃんと寝れた?」

「それなりに。イリスは?」

「うーん。私もそれなりに、かな?」



 昨日の酷い姿に比べれば、幾分か平常のイリスに戻っている。俺…というか、ロイド君が生きていた事に安心したからかな?



「それで、今日は薬学所に行くわよ」



 薬学所って、ああ、そう言えば当初の目的はそこに薬草だか、ハーブだかを届けに来たんだっけか。

 薬学所の説明は村を出る時にされたから覚えてる。

 ポーションを始めとする傷の治癒薬や、魔物や植物の毒への治療薬、その他毛生え薬やら精力剤、効能は人によりますな惚れ薬ets…。薬に分類される物なら、何でもござれな国に雇われている薬師の集まり。

 この世界には勿論回復魔法がある。が、当然皆が皆使える様な魔法ではなく、使えない人間にはこの手の回復薬は必須と言っていい、らしい。

 それに、魔法での回復は肉体へ負担をかける為、老人や子供、生命力の落ちている人間相手には効果が弱かったり、逆に体を壊すような事にもなるらしい。

 なんでもありの魔法のあるこの世界でも、やっぱり薬ってのは世界に無くてはならない物なんだなあ、うんうん。



「それは良いけど、今まで時間あったのに行ってなかったのか?」

「だ、だって……ロイドが…死んじゃったと思って……」



 いかん。ちょっと泣きそうになってる、話題を変えよう。



「そ、そう言えば! 村の人達心配してないと良いけど?」

「……そうね。予定じゃ2日で帰れる筈だったし、きっと心配してるわ」

「とは行っても、連絡のしようもないし。封鎖が解かれるまでは心配しててもらうしかないけどな」

「うん。早く終わると良いんだけどね…」

「それは、まあアレだろ。アンチポータルとか言うのを張ってる魔法使いの方々に頑張ってもらうしかないでしょ」

「それもだけど、この戦いも…ね……」

「ああ、そうだな。確かにそりゃあ、そうだ…」



 泣く人、苦しむ人、哀しむ人、絶望する人。

 通り一つ歩くだけでもシンドくなる程重苦しい空気が漂っている今のルディエ。このまま魔道皇帝との戦いが進めば、あの空気が街全体に広がるのも時間の問題だ。

 それに、ルディエが落ちるような展開になれば、ここから程近いユグリ村だって無事で済む保証はない。いや、十中八九その影響は村に直撃するだろう。むしろ、今までの平穏な生活が奇跡的だったのかもしれない。

 勘弁してよ本当に…。コッチは異世界で別人の体だってだけでいっぱいいっぱい何だから、これ以上問題を投げてこないで欲しい。

 とは言っても、一般人の俺等には何か出来る事もない。戦いは明弘さんやら兵士の方達に任せて、村人は村人らしく自分の生活を守るのに一生懸命やる事にしよう。

 さしあたって、村長に頼まれてる何とか草を届けに行こう。



「(グー)あ…えっと、今のは違うからね! お腹の音じゃないから!」



 ……朝飯を食ってからにしよう。





*  *  *





 薬学所。

 名前から察するに、ジメジメーっとして陰気なボサボサ頭のオタクっぽいのが出入りする人の寄りつかない魔窟。

 まあ、概ね当たっていたのだが、「人の寄りつかない」という点に関しては違った。頻繁に建物を人が出入りしている。

 考えてみれば当然か。こんな状況だし、どこもかしこも薬がどんなにあっても足りないか。

 あ、また兵士らしき数人が入っていった。

 薬学所は国の経営らしいから、ここで作られた薬がどういう経路を辿って国民の手に渡るのかは俺には分からないが……うん。国のお偉いさんが私腹肥やす為に変な事をしていないのを祈るばかりだ。



「じゃあ、ロイド。ちょっと行ってくるからここに居てね?」

「ここまで来て御留守番なのかよ…」

「入る時に厳しくチェックされるけど、ロイド絶対ボロ出すでしょ?」



 それは否定できない。



「すぐ戻ってくるから、ちゃんとここで待っててね」

「はいはい」



 軽く返事をすると、服の裾をグッと掴まれる。



「絶対、どこかに行っちゃダメだからね!」

「分かってるっつーに」

「絶対! 絶対だからね!」



 念押し過ぎだバーロー。押すな押すなの振りかと思ったわ。

 その後、3度ほど念押しされてから、イリスはようやく薬学所に入って行った。

 うーん。心配かけた張本人の俺が言えた事じゃないけど、イリスは本当にロイド君が大切なんだなあ。

 なんだか、弟とその幼馴染を見守る兄な気分。いや、一人っ子だから良く分かんないけどさ…。

 ………幼馴染か。カグ、無事なのかな?

 秋峰カグヤ。俺の大切な幼馴染。言っておくが恋人ではない、断じて違う。まあ……その、何も無かった訳ではないが、少なくてもそういう関係ではない。

 アイツもイリスと似て、気が強いくせに妙に打たれ弱くてすぐ泣くからなあ…。無事だったら絶対泣いてるよ…。

 はぁ…ダメだ。異世界に居るんじゃ心配しても仕方ないって、今までは出来るだけ考えないようにしていたけど、1度アイツの顔を思い出したら、アッチの世界に帰りたいって気持ちが後から後から湧いてくる。

 ……帰るったって、もうアッチに残ってる俺の体は死んでるじゃんか……。 

 …死人の俺にとって、今のこの状況は人生のロスタイム。ロスタイムが終われば試合終了、フィールドにはもう戻れない。



「………死んだなら死んだで、静かに寝かしといてくれりゃあいいのに…」



 道の真ん中で暗くなってても邪魔なだけなので、とりあえず近くの木陰に移動する。

 木に体を預けて一息つく。



「……結局、なんで俺こんな状況になってんだろ……?」



 いっそ元の世界の別の誰かの体に乗り移ってるとかなら…まあ、受け入れがたいが一応事実として呑み込む事も容易だったかもしれない。

 だけど、異世界ってアンタ…。もう、コレ神様の嫌がらせですよね? その上、その見えない意思が俺を殺そうとしてくるんだから、笑い話にしたって笑えない。

 ウダウダ悩んでいると、遠くから黒髪の勇者が手を振りながら近付いてきた。



「明弘さん、なんかエンカウント率高いッスね?」

「エンカウント率って君ね…ま、いいや。良太君と話したくて探してたんですよ。宿に行ったら薬学所だって聞いたので」

「あ、そうなんですか? それはわざわざスイマセン」

「いえいえ、僕が勝手に探していただけなのでお気になさらず。それより、何か悩んでましたか? 物凄く難しい顔をしていましたけど」



 話すかどうか一瞬迷う。

 実は自分は死人で、魂だけが別人の体に入っているんだと。こんなバカな話、言ったところで信じてもらえるか…?

 ……いや、とにかくちゃんと話そう。

 明弘さんは俺を信用してくれている。それに、俺にはこの世界で、この状況で頼れる人はこの人以外にいないしな。



「ああ…いえ、ちょっと。俺、なんでコッチの世界に居るのかなって…?」

「なんでって…それは、召喚されたからじゃないんですか?」

「……召喚とは、なんぞですか?」

「うーん、詳しくは分からないですけど、物凄い大掛かりな儀式魔法の1つで『異世界から勇者になりうる素質を持った人間を呼び出す魔法』らしいですよ? 良太君もそれで呼び出されたんじゃないんですか?」

「多分、違うと思いますけど…」

「コチラの世界に来る前に不思議な声が聞こえた、とか。目の前が霞んで、気付いたらたくさんの人に囲まれてた、とか」

「いや、どっちも心当たりないです」

「あれ? じゃあ、まったく別の方法で来たのかな? って言っても、全然心当たりなんてないんですけどね。そもそも知識が不足し過ぎで御話にならないんですけど」

「そりゃあ、まあ、俺達2人揃って異世界人ですからね」



 正直、俺は油断していた。

 いや、俺だけでなく明弘さんも油断していた。

 しかし、それも仕方ない事だった、と言い訳しておく。知り合いの居ない異世界で境遇を共有できる同郷の人間と話していたのだから。

 俺達は完全に油断していた。



「異世界…人…?」



 そう、いつの間にか戻って来ていたイリスが、俺達の話を聞いていた事にも気付かないくらいに…。

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