無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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三十二話

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 いつもの午後、いつもの公園、そして俺はいつものブランコで遊んでいた。



「良ちゃん!」



 また懐かしい呼び方だなあ…。と思いつつも、そんな俺の思考とは関係なくブランコで遊んでいる小さい俺はブランコから飛び降りる。



「カグ遅い! 昼ご飯食べたら集合って言っただろ!」

「ご、ゴメン。だって私、食べるの遅いんだもん……」



 知ってる。今でこそ牛丼3分で食べるけど、昔はカレー1杯食うのに30分くらいかけてたからな。

 小さい俺に怒られて若干涙目の小さいカグ。ああ、そういやこの時はアイツの方が背高かったんだっけか…。



「今度遅れたら叩くからな!」

「も、もう遅れないもん…!」



 幼馴染相手とは言え、女の子に叩くとか言うなよ俺……過去の自分とは言え若干引くわ。まあ、今は立場逆転して俺の方が引っ叩かれてるから良いか…時効だ時効。



「それで今日は何して遊ぶの?」

「決まってるだろ! ヒーローごっこだ!」

「またぁ? 良ちゃんそればっかりじゃない…」

「良いんだよ! いつか本当のヒーローになる為の…えーと、くんれん? だから!」



 残念ながらお前がヒーローになる事はない。何故なら後10年もしたらトラックに轢かれて死ぬからだ。



「ねえ、良ちゃん?」

「なんだ」

「良ちゃんがヒーローになったら、私の事も護ってくれる…?」

「えー、どうしよっかなー」

「うー…意地悪」

「しょうがないな! カグは泣き虫だからな、僕が護ってやる」



 偉そうによう言うわ俺。



「本当に?」

「僕は嘘吐かないよ」

「うん!」



 花が咲いたように幼いカグが笑う。

 ああ、そんな約束してたっけか…。スッカリ忘れてたな。



「じゃあ、じゃあ、良ちゃん早くヒーローになってね?」

「当たり前だろ、すぐだよ! すっごい強くなって悪い奴をいっぱいやっつけるんだ!!」



 まあ、実際に強い力は手に入れたけどさ……。



「うん、私いっぱい応援するね! 良ちゃんがすぐにヒーローになれるように!」



 カグ…ゴメンな。俺は、もう真っ当なヒーローにはなれそうにない…。

 いっぱい人を殺して、いっぱい人を焼いた。状況が仕方なかったとは言え、それは事実なんだ…。多分、これから先も必要になれば人を殺す事になる…と思う。



「よーし! それなら、カグが危なくなったら僕の事を呼べよ? すぐに助けに行くからな!」

「うん」



 悪いな。もう助けに行く事はできねえんだ……だって、俺が居るのは―――…。





『ア……君』





*  *  *





「アーク君」



 体を揺すられて目を覚ます。

 周りは夜の闇が包み込む森の中。木や土の匂い、そして近くで燃える火と木の焦げる匂い。

 どこだっけ、ここ? なんて事は思わない。いい加減俺も“コッチ”の生活に慣れたからな。

 ルディエを発って3日目。ここは、アルトさん達が拠点にしているソグラスに向かう道中の森の中。明日の昼過ぎには着くって話だから、もうちょいだな。



「レイアさん…交代ですか?」

「うん。じゃあいつも通りに、火の番と周辺の警戒、ヨロシクね」

「了解」



 眠い眼を擦りながら体を起こす。

 うー…多少柔らかい土の上つっても、やっぱ快適な寝床とは言い辛いな。体バッキバキだわ…。

 体を伸ばすと筋が伸びて、チョー気持ちいいー!

 おっと、そろそろ火入れとくか。

 暗くなる前に拾っておいた木の枝の山から何本か焚き火に投げて、もう1本…と手に取った枝の先に意識を集中、発火のイメージを枝に当てる。

 頭の中で思い描いた通りに火が灯る。



「本当に自由に火を操れるのね?」

「ああ、スイマセン寝るのに邪魔でした?」

「ううん。今日はなんだか目が冴えちゃって。ちょっと話して良いかしら?」

「ええ、俺も暇つぶしできるんで有り難いです」



 寝る時の警戒と火の番は3人で交代制でやっているが、もう本当に暇なのよ。いや、真面目に警戒しろとか思うかもしれんが、ここら辺は原生生物にも魔物にも人を襲うようなものに夜行性なの居ないし、俺の場合【熱感知】のスキルがあるから適当に視線巡らすだけでもそこそこ広範囲カバーできるし。



「魔法……じゃないわよね?」

「ええ、スキルです」



 言いながら、程良く燃えた木の枝を火の中に放り込む。



「突然スキルが目覚める事ってあるのね? 私等だってそこそこ冒険者として経験積んでるけど、1つもスキルなんて持ってないのに」

「まあ、そう言う事もありますよ…」



 本当は俺の…この体の中に宿した≪赤≫がくれたんだけど。コレについては話すつもりはない。どうやらこの力を狙う連中が居るらしいから、下手に情報を渡すと巻き込んじまうかもしれないしな…。



「じゃあ、名前変えたのもその辺に理由があるのかしら?」

「いや、それとこれとは別の話です。名前は……何て言うか、俺の記憶が戻るように願掛けって奴です」



 アルトさんとレイアさんには、“俺が異世界人”だとは話してない。勿論、体と中身がまったくの別人だと言う事も、だ。だから、2人には俺が本当のロイドで、記憶喪失をどうにかする方法を探す為に旅に出た、と説明してある。

 嘘を吐くのは少し良心が痛むが、コッチの事情に巻き込まないようにする為だと思ってその罪悪感は呑み込む。



「ふあぁ…あ、ゴメン。ちょっと眠気がきたみたい」

「良いですよ。今まで起きてたんですから次の番まで寝て下さい」

「うん。それじゃあ横にならせて貰うね」



 毛布代わりの皮布を包まって横になるレイアさん。ほどなくして規則正しい寝息が聞こえて来た。



「ふぅ…」



 夜の静けさが辺りに満ちる。遠くで鳥っぽい鳴き声が聞こえる。梟みたいに夜行性の鳥が居るみたいだな…。

 異世界の夜。

 俺のあるべき日常は…、学校に通う平凡な毎日はこの世界にはない。

 阿久津良太、それが俺の本当の名前。だけど、旅をする間にこの名前を名乗る事はない。何故なら今の俺はアークだから。

 名前を変えれば別人って訳じゃないけど、いつかこの名前で呼ばれる事が当然と思う日が来るのかな? その時に俺は…体の中で眠っているロイド君はどうなっているだろうか。

 静かな夜の闇の中、焚き火に照らされながら俺はそんな取り留めない事を考えていた。





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