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三十一話
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2日後、魔道皇帝との戦いで死んだ者達の合同葬儀が行われた。
痛々しくなる程の深い深い傷跡が街中に残る中、粛々と葬儀は行われ、ある者は亡くなった人に別れを言い、ある者は亡くなった人の分まで生きるのだと誓い、ある者は愛しい人が亡くなった事を受け入れられずにただただ涙を流す。
その中で俺は……明弘さんの前に居た。正確には、明弘さんの埋葬されたお墓の前に。
………色々伝えたい事とか、言いたい事とか、言わなきゃいけない事とか、いっぱいある筈なんだけど……それを上手く言葉にする事が出来ない。
頭の中を整理するつもりで空を見る。
高い…高い空。俺がコッチに来て初めて目にした時と同じ、雲一つないどこまでも続く青い空。
あー、空だけ見ればここが異世界だなんて思えねえなあ。けど、ここは確かに俺達の居た世界とは全く別の世界なんだ。
明弘さんは、勇者としてコッチの世界で死んだ。もう、元の世界にトラック運転手の渡部明弘が戻る事はない……。
蘇生の方法があれば、もしかしたら……とは思うが、どうだろう? 少なくても、そう簡単に見つかる物じゃないだろうしな。
いっぱい言いたい事はあるけど、それは今度来た時までに整理しておく事にする。今は一言だけ伝えて終わりにしよう。あんまりここに居ると泣きたくなるからな……。
「ありがとうございました」
街の人達が供えて行った花畑かと見間違う程の花の中に、花弁の形が綺麗な赤い花を1輪だけ置く。
「じゃあ、行ってきます」
立ち上がって墓地をあとにする。
さて、行くか!
* * *
1時間後、旅支度をした俺とアルトさんとレイアさん、そして見送りのイリスが南門の前に居た。
「アルトさん、レイアさんスイマセン、付き合って貰って」
「良いって、良いって。一緒するって言っても俺等の住処のソグラスまでだし」
「元々ルディエの用事も終わったから、そろそろ戻ろうと思ってたしね? 勇者様の御見送りもしたし、これ以上はソグラスの皆が心配するし」
「じゃあ、ちゃっちゃと出発するか。今日の内に大森林の向こう側に抜けておきたいし」
「そうね。じゃあイリスちゃんまたね? そのうちユグリ村の方に遊びに行くから」
「はい、御2人とも本当に色々ありがとうございました」
イリスがペコっと頭を下げると、先輩冒険者の2人は先に歩き出す。でも歩く速度はまだユックリだ。多分、俺とイリスが話せるように気を使ってくれたんだろう。
「…俺も行くよ」
「うん」
「じゃあ…」
気を使って貰ったけど、全然話せねえ…。
言ってみりゃあイリスはロイド君の恋人だからなあ(まだ未満っぽいけど)。コッチとしては色々対応に気を使う。
うーん…別れの挨拶もまともに出来ないとは情けない……。自分の会話術のザコッっぷりにガッカリしながら、2人の後を追おうとすると…。
「待って!」
「うん?」
何? と続けようとしたところでイリスに、いつかのように抱きしめられる。
「あ…イリス?」
肩に顔を埋めて泣いているのが分かった。
ああ、くそ…俺はとんだ大馬鹿野郎だった。
イリスが俺の事情を理解してくれたからと言って、ロイド君と離れ離れになるのが寂しくない訳ねえじゃん…。
あの小さなユグリ村でずっと一緒に居た2人が離れ離れになるのは、どれだけの痛みと辛さを伴うのか、俺はまったく理解出来ていなかった。
「………ロイド……聞こえてる? ……きっと、きっと無事に帰って来て…」
俺は何も言わず、何も聞かず、ただ抱きしめられるまま立っている。
イリスの言葉は、赤の他人の俺が聞くべき言葉じゃないから…。それに、俺が聞いてなくてもロイド君がちゃんと聞いてる。表に意思表示が出なくても、ロイド君は中にちゃんと居るから。だよな? ロイド君。
「……ごめんなさい。もう大丈夫です」
「うん、そうか」
イリスの温もりが離れる。
「村に帰る時は気を付けろよ? って、転移魔法で一瞬だから関係ねえか?」
イリスが手に持っていた巻物のような物を揺らして見せる。
スクロールって言ったっけか? 何やら魔法を発動待機状態のまま保存しておける物らしく、あとは誰でも魔力を通すだけでその魔法を発動できるって事らしい。インスタントラーメン見たいで便利だな…。まあ、魔法の使えない俺にはやっぱり意味の無い物だが。
「それと、村の皆に宜しく言っといてくれ。結局コッチで勝手に決めて勝手に旅立つ事になっちまったからな」
「任せて下さい」
「うん。じゃあ、今度こそ行くわ」
「はい…いってらっしゃい」
振り返って歩き出す。
俺にとっては全く未知の異世界の旅、これがその一歩目。
何時までかかるか分からない。もしかしたら旅の終着点は俺の死かもしれない。色々な不安はある。けど、とにかく歩いてみるしかない。
先を歩く2人の背中を駆け足で追う。
こっから先は、阿久津良太の名前は一時捨てて、冒険者のアークとして生きる。
まあ、自分の名前を捨てるってのは言うほど簡単じゃないよな? だって、俺が17年間ずっと名乗って来た名前なんだ。親が俺の為につけてくれて、皆がずっと呼んでくれた俺の名前。
父さん、母さん、クラスの連中……それにカグ…。
皆、心配してるかな? …してねえか、アッチじゃ俺死んでるし。
はぁ…アッチの皆にも俺が生きてるって伝える方法とかねえかな? 手紙とかメールとか、1通だけでも良いんだが…。
書き出しは、そうだな……
『拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます』
で、いいかな?
苦笑してから頭を振ると、俺は足を動かす。ただ前に進む為に、まっすぐまっすぐ……
痛々しくなる程の深い深い傷跡が街中に残る中、粛々と葬儀は行われ、ある者は亡くなった人に別れを言い、ある者は亡くなった人の分まで生きるのだと誓い、ある者は愛しい人が亡くなった事を受け入れられずにただただ涙を流す。
その中で俺は……明弘さんの前に居た。正確には、明弘さんの埋葬されたお墓の前に。
………色々伝えたい事とか、言いたい事とか、言わなきゃいけない事とか、いっぱいある筈なんだけど……それを上手く言葉にする事が出来ない。
頭の中を整理するつもりで空を見る。
高い…高い空。俺がコッチに来て初めて目にした時と同じ、雲一つないどこまでも続く青い空。
あー、空だけ見ればここが異世界だなんて思えねえなあ。けど、ここは確かに俺達の居た世界とは全く別の世界なんだ。
明弘さんは、勇者としてコッチの世界で死んだ。もう、元の世界にトラック運転手の渡部明弘が戻る事はない……。
蘇生の方法があれば、もしかしたら……とは思うが、どうだろう? 少なくても、そう簡単に見つかる物じゃないだろうしな。
いっぱい言いたい事はあるけど、それは今度来た時までに整理しておく事にする。今は一言だけ伝えて終わりにしよう。あんまりここに居ると泣きたくなるからな……。
「ありがとうございました」
街の人達が供えて行った花畑かと見間違う程の花の中に、花弁の形が綺麗な赤い花を1輪だけ置く。
「じゃあ、行ってきます」
立ち上がって墓地をあとにする。
さて、行くか!
* * *
1時間後、旅支度をした俺とアルトさんとレイアさん、そして見送りのイリスが南門の前に居た。
「アルトさん、レイアさんスイマセン、付き合って貰って」
「良いって、良いって。一緒するって言っても俺等の住処のソグラスまでだし」
「元々ルディエの用事も終わったから、そろそろ戻ろうと思ってたしね? 勇者様の御見送りもしたし、これ以上はソグラスの皆が心配するし」
「じゃあ、ちゃっちゃと出発するか。今日の内に大森林の向こう側に抜けておきたいし」
「そうね。じゃあイリスちゃんまたね? そのうちユグリ村の方に遊びに行くから」
「はい、御2人とも本当に色々ありがとうございました」
イリスがペコっと頭を下げると、先輩冒険者の2人は先に歩き出す。でも歩く速度はまだユックリだ。多分、俺とイリスが話せるように気を使ってくれたんだろう。
「…俺も行くよ」
「うん」
「じゃあ…」
気を使って貰ったけど、全然話せねえ…。
言ってみりゃあイリスはロイド君の恋人だからなあ(まだ未満っぽいけど)。コッチとしては色々対応に気を使う。
うーん…別れの挨拶もまともに出来ないとは情けない……。自分の会話術のザコッっぷりにガッカリしながら、2人の後を追おうとすると…。
「待って!」
「うん?」
何? と続けようとしたところでイリスに、いつかのように抱きしめられる。
「あ…イリス?」
肩に顔を埋めて泣いているのが分かった。
ああ、くそ…俺はとんだ大馬鹿野郎だった。
イリスが俺の事情を理解してくれたからと言って、ロイド君と離れ離れになるのが寂しくない訳ねえじゃん…。
あの小さなユグリ村でずっと一緒に居た2人が離れ離れになるのは、どれだけの痛みと辛さを伴うのか、俺はまったく理解出来ていなかった。
「………ロイド……聞こえてる? ……きっと、きっと無事に帰って来て…」
俺は何も言わず、何も聞かず、ただ抱きしめられるまま立っている。
イリスの言葉は、赤の他人の俺が聞くべき言葉じゃないから…。それに、俺が聞いてなくてもロイド君がちゃんと聞いてる。表に意思表示が出なくても、ロイド君は中にちゃんと居るから。だよな? ロイド君。
「……ごめんなさい。もう大丈夫です」
「うん、そうか」
イリスの温もりが離れる。
「村に帰る時は気を付けろよ? って、転移魔法で一瞬だから関係ねえか?」
イリスが手に持っていた巻物のような物を揺らして見せる。
スクロールって言ったっけか? 何やら魔法を発動待機状態のまま保存しておける物らしく、あとは誰でも魔力を通すだけでその魔法を発動できるって事らしい。インスタントラーメン見たいで便利だな…。まあ、魔法の使えない俺にはやっぱり意味の無い物だが。
「それと、村の皆に宜しく言っといてくれ。結局コッチで勝手に決めて勝手に旅立つ事になっちまったからな」
「任せて下さい」
「うん。じゃあ、今度こそ行くわ」
「はい…いってらっしゃい」
振り返って歩き出す。
俺にとっては全く未知の異世界の旅、これがその一歩目。
何時までかかるか分からない。もしかしたら旅の終着点は俺の死かもしれない。色々な不安はある。けど、とにかく歩いてみるしかない。
先を歩く2人の背中を駆け足で追う。
こっから先は、阿久津良太の名前は一時捨てて、冒険者のアークとして生きる。
まあ、自分の名前を捨てるってのは言うほど簡単じゃないよな? だって、俺が17年間ずっと名乗って来た名前なんだ。親が俺の為につけてくれて、皆がずっと呼んでくれた俺の名前。
父さん、母さん、クラスの連中……それにカグ…。
皆、心配してるかな? …してねえか、アッチじゃ俺死んでるし。
はぁ…アッチの皆にも俺が生きてるって伝える方法とかねえかな? 手紙とかメールとか、1通だけでも良いんだが…。
書き出しは、そうだな……
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