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三十話
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明弘さんを連れて城に向かう。
城に着くなり囲まれて事情を説明させられた。勇者の遺体を背負って現れたら、そりゃそうだよな…。
勇者アキヒロは、ルディエを護って魔道皇帝と相討った。
それが、俺が皆に聞かせた話。少し事実とは違うが、間違ってはいない。俺自身がした事については語る事はなにもない。俺はただ後始末をしただけで、それを皆に話す必要はないだろう。
騒ぎを聞き付けて避難していた街の住人が出て来て、明弘さんの遺体を見るなり皆が一様に涙を流している。見ると、騎士や衛兵達まで涙を流していた。明弘さんがルディエに居た日数の短さを考えれば、あの人がどれだけこの街の人達を大切にしていて、どれだけ大切にされていたのかが分かる。
それと、折れたブレイブソードは副団長さんに預けた。国宝だと聞いていたから、トンデモナイ賠償金請求されるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたが、「ルディエを護る為に振るい、その結果折られたのなら、それを罪と感じる必要はない」と言ってくれた。ブレイブソードの事に関しては、副団長さんが上手い事やっといてくれるらしい。上手い事って…? とは思ったが、知らない方が身の為の気がしたので華麗にスルーする。
城から出て来た人間の中にイリスを見つけて、皆から離れた場所に連れ出す。
「終わった、の?」
「ああ」
「うん、そっか…」
安心したように息を吐くイリスを見て、俺もなんだか安心してしまった。
さて、約束果たさないとな。
「俺の話を聞いてくれるか?」
「はい」
「うん。俺の本当の名前は阿久津良太。この世界の人間じゃない。明弘さん…勇者様と一緒の世界の異世界人なんだ…ってのは、もう聞いたか」
黙ってイリスが頷く。
「俺は、アッチ側で死んで、気付いたらこの体…ロイドの体に入ってたんだ」
「……死んで? 貴方の世界では死んだ人は皆そうなるものなんですか?」
「いや。俺だけが物凄い例外なだけだよ。人が死んだらそこで終わりなのはアッチも同じ」
「じゃあ、ロイドは? ロイドは今どうなっているんですか!?」
「うん。俺も詳しくは分からないけど、少なくてもちゃんとココに居るよ」
自分の心臓の辺りに手を置いて見せる。
「本当に?」
「ああ。さっきも助けられたしね」
おっと、忘れないうちにロイド君との約束も果たさないと。
「そうそう、ロイドからの伝言がある「大丈夫だから心配しないで」ってさ」
「ロイド…ちゃんと…ちゃんと無事なんだ……良かった…良かったよぉ」
ああ、また泣かせてしまった。けど、今回は半分君の責任だから、謝らないでいいかな?
思わず苦笑してしまう。
「それでイリス。これからの話なんだけど」
「これから?」
「俺とロイドのこの状態は時間が経てば元に戻る物じゃないってのは分かるよな?」
「うん」
「だから、その方法を探しに旅に出ようと思う」
「えッ!? そ、んな………」
思った以上にショックを受けてるな。でも、だからって止める訳にはいかない。
「イリスだって、いつまでもロイドの中に俺が居たら困るだろ?」
「………」
俺を困らせない為に「うん」とは言わない辺り、お前は本当に優しいな。
「だからさ…」
「だったら! だったら、私も連れて行っ―――」
瞬間、頭の中に皇帝の最後の言葉が過ぎる。
近しい者も、大切な物も、全てを巻き込んで―――…。
「ダメだ!」
だから、俺は即答した。
ああ、クソ! キッチリあの野郎が残した呪いを貰っちまってんじゃねえか…。
「…どうして…?」
「ゴメンな。でも、多分危険な旅になる。イリスになんかあったら、ロイドに怒られちまうよ。だから、ユグリ村で本当のロイドが帰って来るのを待っててくれないか?」
「本当にダメなの…?」
「本当にダメだ」
「絶対にダメなの…?」
「絶対にダメだ」
「だって、危険なんでしょ!? 1人でなんて…」
「それは心配ねえよ。だって、俺にはロイド付いてる。ロイドには俺が付いてる。俺達は1人じゃない2人だ」
イリスを納得させられる言い分だ! と内心ドヤァと含み笑いをしたが、当のイリスはプッと吹き出して笑いだした。
「フフフ、何それ、体は1つじゃない!」
「良いんだよ、体は1つでも2人分の働きすっから」
またクスクス笑う。
そんなにおかしい事言ってるかな…? なんか、自分の思考に自信が持てなくなりそう…。
「大丈夫だって信じていいの?」
「おう。心配ならちゃんと約束しとくか? ほら」
右手の小指を差し出す。
「なあに、これ?」
あ、そっか。コッチの世界の指切りなんてある訳ねえか。
イリスの手を取って、その小指に俺の小指を絡ませる。
「こうやって、小指を結んで約束すると、その約束は破られないんだ」
「異世界のおまじない?」
「まあ、そんな感じ。じゃあ約束、ロイドはちゃんとイリスの所に無事に帰す」
「はい。きっと…きっとですよ?」
頷いてから、イリスの細い指を解く。
タイミングを見計らったように、遠くから俺達の方に駆けてくる人影が。
「ロイド君! イリスちゃん!」
「ああ、アルトさん、レイアさん!」
2人とも余程俺達の事を心配してくれていたのか、レイアさんなんてイリスの事を抱きしめている。……ちょっと羨ましいです…はい、俺も健全な男の子ですので…はい。
「ロイド君、無事だったのか?」
「ええ、アルトさん達こそ。気付いたらここの広場から居なくなってたから、どこに行ったのかとちょっと心配してたんですよ」
「俺達冒険者は、ずっと遊撃。それと逃げ遅れた人達を城に避難させてた。ロイド君は?」
「俺はVIPの応対してました」
「ぶ、ぶいあいぴー?」
「あ、そうだ! それで、話変わるんですけど、旅に出るのに何が必要ですか?」
「旅? 誰か旅に出るのかい?」
「俺です」
アルトさんとイリスを抱きしめたままのレイアさんが目を見開いて俺を見る。
「マジなの?」「本気なの?」
「ええ。探さなきゃならない物があるんで」
「…まあ、本気だって言うなら旅支度にも協力するけどさ」
「イリスちゃんは、それで良いの?」
「はい」
躊躇なく即答するイリスを見て安心する。
「旅するって目的地は?」
「いや、どこにあるのかも分からない物探すんで、特に目的地は決めてないです」
「それなら、とりあえずは国内限定って事でいいか。なら、まず用意するのはアレだなレイア?」
「そうね。まずは、冒険者のクラスシンボルね」
* * *
魔道皇帝に端を発した騒動は、一応終息。
現在も一応街中を兵士や騎士達が巡回しているが、多分街中でこれ以上の戦闘は起こらないだろう。魔道皇帝が勇者によって討ち取られた事はすでに街中に知らされている。残党がこれ以上抵抗するなら、もうとっくに動いているだろうし、そうでないならルディエに留まっている理由はない。
ルディエの住人は戦闘の終結に安堵し、あるいは亡くした者の為に悲しみ、怒り、戻らない日常を取り戻す為に動き出している。
そんな中、俺は冒険者2人の案内で噂の冒険者達の集会場、冒険者ギルドに来ていた。イリスは、もしかしたら…の展開があるかもしれないので、城で避難住民達と一緒に居て貰い、3人でやってきたのがここだ。
何だかやたら大きい建物で、中に居る人間がむさ苦しい。戦闘が終わったばかりだからだろうか、なんか皆テンション高くて…若干怖い。
俺がビビっているのに構わず、2人はズンズン中へ進んでいき受付らしきカウンターの所に座っていたお姉さんの前に立つ。
「あら、アルトさんとレイアさん。ルディエの防衛依頼御苦労さまでした、報酬の受取ですか?」
「いや、その前に冒険者登録をお願いします」
「そちらの方ですか?」
受付のお姉さんのジッと俺を見る。その顔には「この小さい子供が?」と出ていた。あからさまにそう言うの顔に出るって、受付としてどうなのよ…。
「では。冒険者登録にはギルドから出された課題のクリアが条件となります。様々な課題がありますが、大抵は戦闘に関するものですので、戦闘力に自信がないのであれば―――」
「いやいや、彼ならそれは大丈夫。ね?」
「まあ、多分。無茶苦茶な課題でない限りは」
「そうですか? 課題を聞いた後でも辞退は可能ですから、無理と判断されたら迷わず止める事をお勧めします」
あーなんか暗に「ガキには無理だから帰れ」って言われてる気分…。いや、気分じゃなくて本当にそう言われてんのか…。
「課題ですが…そうですね『ポーン級の魔石6つ回収』でどうでしょうか?」
魔石の回収ね。ようはポーン…一番低級の魔物6体倒して来いって事か。ん? あれ? でも魔石か…。
「あの、今手持ちの魔石があるんですけど、それも勘定に入れて貰えますか?」
「それを討伐したのが貴方自身なら問題ありません」
良かった。なら1匹分手間が省けたな。
皇帝の魔石を懐から取り出してカウンターに置く。
「それじゃ、コレ1つ目でお願いします」
それを見た途端、受付のお姉さんの顔色が青褪めて小刻みに震えだした。何事かと思ったら、アルトさん達2人も同じように震えていた。
え? え? 何この反応?
「あ、あ、あの…失礼ですが……コレは、本当に貴方が討伐して手に入れた物ですか? いえ! でしょうか!?」
何でいきなり口調が丁寧になったし…?
「そうですけど?」
「で、でででででは、か、かく、確認さえて頂きます」
何でそんなとてつもないカミカミに…? それに確認って?
「【メモリスキャン】」
俺の置いた魔石に手を当てて何かの魔法を唱える。一瞬顔を苦しみに歪ませると、再びまっすぐ俺を見る。
「はい……失礼しました。たしかにこの“魔晶石”は貴方が討伐したものです」
「魔晶石? 魔石じゃなくて?」
「はい、通常の魔石がコチラです。透明度が違うのが分かりますか?」
親指サイズの黒い石をカウンターの下から取り出して並べて置く。ああ、確かに、皇帝の魔石…じゃない、えーと魔晶石? はお姉さんが置いた物に比べて透明度が格段に高く、内側でエネルギーが渦巻いているのが分かる。
「どう違うんですか?」
「根本的には同じ魔物の核ですが、内包しているエネルギー量の桁が違います。同じ大きさの魔石と魔晶石なら、およそ30倍の差があります」
凄い! どれぐらい凄いのか良く分からなくて反応に困るくらい凄い。
「それと、魔晶石を核にした魔物は例外なくクイーン級以上の魔物になります。つまり、貴方はクイーン級の魔物を討伐した…と言う事です」
「…へぇー」
クイーン級ねえ…。魔物のランクも良く分からんから、それがどの程度の凄さなのか理解できないんだが…。まあ、魔晶石を見た時のお姉さんとアルトさん達の反応を見る限り、相当凄い事なんだろう…多分。
「魔晶石を持ってこられたのあれば、課題は問題なくクリアとなります」
おお、街の外まで魔物探しに行く必要がなくなったぞ。お前の核が役に立ったぞ皇帝、感謝はしないけどな。
「ですが、冒険者としてのスタートは例外なくポーンの白からとなりますのでご容赦下さい」
「へーい」
お姉さんが手元の木箱の中に綺麗に並べられた駒の中から、白いポーンを取って机の上に置く。
「【ブラッドサイン】。では、このクラスシンボルに貴方の血を垂らして下さい」
何の黒魔術の儀式だ。とツッコミを入れたい気持ちを抑えて言われた通りにする。血を流せる丁度いい傷がなかったので、仕方なく指先を噛んで血を出す。
血の滲む指を駒に擦り付けると、一瞬駒が血の色で赤く染まり、次の瞬間には色が消えて真っ白な駒に戻った。
えーと…これはどう言う事だ?
「貴方の血をクラスシンボルに覚えさせたので、他人が触れると今のように赤くなります。これでこの駒が、貴方を冒険者だと証明してくれますので無くさないように気をつけて下さい。では最後に、貴方の名前をシンボルに刻みます。お名前を」
名前か…。ロイド君の名前を使う訳にはいかないよな? 体借りてるのに、名前まで借りる訳にはいかんだろ流石に。
じゃあ、自分の名前で―――
「阿久―――」
いや、待てよ! 人の体使って自分の名前名乗るってのもどうなんだ?
……それに、これから旅をする上で俺と同じ異世界人に出会う事があるかもしれない。でも、それが明弘さんのように友好的な相手だけとは限らない。だとすれば、不用意にアッチの人間だと悟られる和名は避けた方がいいんじゃないのか?
だったらいっそ阿久津良太の名前は、ここで1度捨てるか…。
「アク…なんでしょうか?」
お姉さんに先を促されて焦った。
ちょっと待ってよ! えーとえーとえーと……。
その時、天啓のようにピンっと閃いた。
「いや、違う。俺の名前は――――…」
これから俺が名乗る名前。
俺がこの世界で生きていく為の新しい名前。
「アークだ!」
城に着くなり囲まれて事情を説明させられた。勇者の遺体を背負って現れたら、そりゃそうだよな…。
勇者アキヒロは、ルディエを護って魔道皇帝と相討った。
それが、俺が皆に聞かせた話。少し事実とは違うが、間違ってはいない。俺自身がした事については語る事はなにもない。俺はただ後始末をしただけで、それを皆に話す必要はないだろう。
騒ぎを聞き付けて避難していた街の住人が出て来て、明弘さんの遺体を見るなり皆が一様に涙を流している。見ると、騎士や衛兵達まで涙を流していた。明弘さんがルディエに居た日数の短さを考えれば、あの人がどれだけこの街の人達を大切にしていて、どれだけ大切にされていたのかが分かる。
それと、折れたブレイブソードは副団長さんに預けた。国宝だと聞いていたから、トンデモナイ賠償金請求されるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたが、「ルディエを護る為に振るい、その結果折られたのなら、それを罪と感じる必要はない」と言ってくれた。ブレイブソードの事に関しては、副団長さんが上手い事やっといてくれるらしい。上手い事って…? とは思ったが、知らない方が身の為の気がしたので華麗にスルーする。
城から出て来た人間の中にイリスを見つけて、皆から離れた場所に連れ出す。
「終わった、の?」
「ああ」
「うん、そっか…」
安心したように息を吐くイリスを見て、俺もなんだか安心してしまった。
さて、約束果たさないとな。
「俺の話を聞いてくれるか?」
「はい」
「うん。俺の本当の名前は阿久津良太。この世界の人間じゃない。明弘さん…勇者様と一緒の世界の異世界人なんだ…ってのは、もう聞いたか」
黙ってイリスが頷く。
「俺は、アッチ側で死んで、気付いたらこの体…ロイドの体に入ってたんだ」
「……死んで? 貴方の世界では死んだ人は皆そうなるものなんですか?」
「いや。俺だけが物凄い例外なだけだよ。人が死んだらそこで終わりなのはアッチも同じ」
「じゃあ、ロイドは? ロイドは今どうなっているんですか!?」
「うん。俺も詳しくは分からないけど、少なくてもちゃんとココに居るよ」
自分の心臓の辺りに手を置いて見せる。
「本当に?」
「ああ。さっきも助けられたしね」
おっと、忘れないうちにロイド君との約束も果たさないと。
「そうそう、ロイドからの伝言がある「大丈夫だから心配しないで」ってさ」
「ロイド…ちゃんと…ちゃんと無事なんだ……良かった…良かったよぉ」
ああ、また泣かせてしまった。けど、今回は半分君の責任だから、謝らないでいいかな?
思わず苦笑してしまう。
「それでイリス。これからの話なんだけど」
「これから?」
「俺とロイドのこの状態は時間が経てば元に戻る物じゃないってのは分かるよな?」
「うん」
「だから、その方法を探しに旅に出ようと思う」
「えッ!? そ、んな………」
思った以上にショックを受けてるな。でも、だからって止める訳にはいかない。
「イリスだって、いつまでもロイドの中に俺が居たら困るだろ?」
「………」
俺を困らせない為に「うん」とは言わない辺り、お前は本当に優しいな。
「だからさ…」
「だったら! だったら、私も連れて行っ―――」
瞬間、頭の中に皇帝の最後の言葉が過ぎる。
近しい者も、大切な物も、全てを巻き込んで―――…。
「ダメだ!」
だから、俺は即答した。
ああ、クソ! キッチリあの野郎が残した呪いを貰っちまってんじゃねえか…。
「…どうして…?」
「ゴメンな。でも、多分危険な旅になる。イリスになんかあったら、ロイドに怒られちまうよ。だから、ユグリ村で本当のロイドが帰って来るのを待っててくれないか?」
「本当にダメなの…?」
「本当にダメだ」
「絶対にダメなの…?」
「絶対にダメだ」
「だって、危険なんでしょ!? 1人でなんて…」
「それは心配ねえよ。だって、俺にはロイド付いてる。ロイドには俺が付いてる。俺達は1人じゃない2人だ」
イリスを納得させられる言い分だ! と内心ドヤァと含み笑いをしたが、当のイリスはプッと吹き出して笑いだした。
「フフフ、何それ、体は1つじゃない!」
「良いんだよ、体は1つでも2人分の働きすっから」
またクスクス笑う。
そんなにおかしい事言ってるかな…? なんか、自分の思考に自信が持てなくなりそう…。
「大丈夫だって信じていいの?」
「おう。心配ならちゃんと約束しとくか? ほら」
右手の小指を差し出す。
「なあに、これ?」
あ、そっか。コッチの世界の指切りなんてある訳ねえか。
イリスの手を取って、その小指に俺の小指を絡ませる。
「こうやって、小指を結んで約束すると、その約束は破られないんだ」
「異世界のおまじない?」
「まあ、そんな感じ。じゃあ約束、ロイドはちゃんとイリスの所に無事に帰す」
「はい。きっと…きっとですよ?」
頷いてから、イリスの細い指を解く。
タイミングを見計らったように、遠くから俺達の方に駆けてくる人影が。
「ロイド君! イリスちゃん!」
「ああ、アルトさん、レイアさん!」
2人とも余程俺達の事を心配してくれていたのか、レイアさんなんてイリスの事を抱きしめている。……ちょっと羨ましいです…はい、俺も健全な男の子ですので…はい。
「ロイド君、無事だったのか?」
「ええ、アルトさん達こそ。気付いたらここの広場から居なくなってたから、どこに行ったのかとちょっと心配してたんですよ」
「俺達冒険者は、ずっと遊撃。それと逃げ遅れた人達を城に避難させてた。ロイド君は?」
「俺はVIPの応対してました」
「ぶ、ぶいあいぴー?」
「あ、そうだ! それで、話変わるんですけど、旅に出るのに何が必要ですか?」
「旅? 誰か旅に出るのかい?」
「俺です」
アルトさんとイリスを抱きしめたままのレイアさんが目を見開いて俺を見る。
「マジなの?」「本気なの?」
「ええ。探さなきゃならない物があるんで」
「…まあ、本気だって言うなら旅支度にも協力するけどさ」
「イリスちゃんは、それで良いの?」
「はい」
躊躇なく即答するイリスを見て安心する。
「旅するって目的地は?」
「いや、どこにあるのかも分からない物探すんで、特に目的地は決めてないです」
「それなら、とりあえずは国内限定って事でいいか。なら、まず用意するのはアレだなレイア?」
「そうね。まずは、冒険者のクラスシンボルね」
* * *
魔道皇帝に端を発した騒動は、一応終息。
現在も一応街中を兵士や騎士達が巡回しているが、多分街中でこれ以上の戦闘は起こらないだろう。魔道皇帝が勇者によって討ち取られた事はすでに街中に知らされている。残党がこれ以上抵抗するなら、もうとっくに動いているだろうし、そうでないならルディエに留まっている理由はない。
ルディエの住人は戦闘の終結に安堵し、あるいは亡くした者の為に悲しみ、怒り、戻らない日常を取り戻す為に動き出している。
そんな中、俺は冒険者2人の案内で噂の冒険者達の集会場、冒険者ギルドに来ていた。イリスは、もしかしたら…の展開があるかもしれないので、城で避難住民達と一緒に居て貰い、3人でやってきたのがここだ。
何だかやたら大きい建物で、中に居る人間がむさ苦しい。戦闘が終わったばかりだからだろうか、なんか皆テンション高くて…若干怖い。
俺がビビっているのに構わず、2人はズンズン中へ進んでいき受付らしきカウンターの所に座っていたお姉さんの前に立つ。
「あら、アルトさんとレイアさん。ルディエの防衛依頼御苦労さまでした、報酬の受取ですか?」
「いや、その前に冒険者登録をお願いします」
「そちらの方ですか?」
受付のお姉さんのジッと俺を見る。その顔には「この小さい子供が?」と出ていた。あからさまにそう言うの顔に出るって、受付としてどうなのよ…。
「では。冒険者登録にはギルドから出された課題のクリアが条件となります。様々な課題がありますが、大抵は戦闘に関するものですので、戦闘力に自信がないのであれば―――」
「いやいや、彼ならそれは大丈夫。ね?」
「まあ、多分。無茶苦茶な課題でない限りは」
「そうですか? 課題を聞いた後でも辞退は可能ですから、無理と判断されたら迷わず止める事をお勧めします」
あーなんか暗に「ガキには無理だから帰れ」って言われてる気分…。いや、気分じゃなくて本当にそう言われてんのか…。
「課題ですが…そうですね『ポーン級の魔石6つ回収』でどうでしょうか?」
魔石の回収ね。ようはポーン…一番低級の魔物6体倒して来いって事か。ん? あれ? でも魔石か…。
「あの、今手持ちの魔石があるんですけど、それも勘定に入れて貰えますか?」
「それを討伐したのが貴方自身なら問題ありません」
良かった。なら1匹分手間が省けたな。
皇帝の魔石を懐から取り出してカウンターに置く。
「それじゃ、コレ1つ目でお願いします」
それを見た途端、受付のお姉さんの顔色が青褪めて小刻みに震えだした。何事かと思ったら、アルトさん達2人も同じように震えていた。
え? え? 何この反応?
「あ、あ、あの…失礼ですが……コレは、本当に貴方が討伐して手に入れた物ですか? いえ! でしょうか!?」
何でいきなり口調が丁寧になったし…?
「そうですけど?」
「で、でででででは、か、かく、確認さえて頂きます」
何でそんなとてつもないカミカミに…? それに確認って?
「【メモリスキャン】」
俺の置いた魔石に手を当てて何かの魔法を唱える。一瞬顔を苦しみに歪ませると、再びまっすぐ俺を見る。
「はい……失礼しました。たしかにこの“魔晶石”は貴方が討伐したものです」
「魔晶石? 魔石じゃなくて?」
「はい、通常の魔石がコチラです。透明度が違うのが分かりますか?」
親指サイズの黒い石をカウンターの下から取り出して並べて置く。ああ、確かに、皇帝の魔石…じゃない、えーと魔晶石? はお姉さんが置いた物に比べて透明度が格段に高く、内側でエネルギーが渦巻いているのが分かる。
「どう違うんですか?」
「根本的には同じ魔物の核ですが、内包しているエネルギー量の桁が違います。同じ大きさの魔石と魔晶石なら、およそ30倍の差があります」
凄い! どれぐらい凄いのか良く分からなくて反応に困るくらい凄い。
「それと、魔晶石を核にした魔物は例外なくクイーン級以上の魔物になります。つまり、貴方はクイーン級の魔物を討伐した…と言う事です」
「…へぇー」
クイーン級ねえ…。魔物のランクも良く分からんから、それがどの程度の凄さなのか理解できないんだが…。まあ、魔晶石を見た時のお姉さんとアルトさん達の反応を見る限り、相当凄い事なんだろう…多分。
「魔晶石を持ってこられたのあれば、課題は問題なくクリアとなります」
おお、街の外まで魔物探しに行く必要がなくなったぞ。お前の核が役に立ったぞ皇帝、感謝はしないけどな。
「ですが、冒険者としてのスタートは例外なくポーンの白からとなりますのでご容赦下さい」
「へーい」
お姉さんが手元の木箱の中に綺麗に並べられた駒の中から、白いポーンを取って机の上に置く。
「【ブラッドサイン】。では、このクラスシンボルに貴方の血を垂らして下さい」
何の黒魔術の儀式だ。とツッコミを入れたい気持ちを抑えて言われた通りにする。血を流せる丁度いい傷がなかったので、仕方なく指先を噛んで血を出す。
血の滲む指を駒に擦り付けると、一瞬駒が血の色で赤く染まり、次の瞬間には色が消えて真っ白な駒に戻った。
えーと…これはどう言う事だ?
「貴方の血をクラスシンボルに覚えさせたので、他人が触れると今のように赤くなります。これでこの駒が、貴方を冒険者だと証明してくれますので無くさないように気をつけて下さい。では最後に、貴方の名前をシンボルに刻みます。お名前を」
名前か…。ロイド君の名前を使う訳にはいかないよな? 体借りてるのに、名前まで借りる訳にはいかんだろ流石に。
じゃあ、自分の名前で―――
「阿久―――」
いや、待てよ! 人の体使って自分の名前名乗るってのもどうなんだ?
……それに、これから旅をする上で俺と同じ異世界人に出会う事があるかもしれない。でも、それが明弘さんのように友好的な相手だけとは限らない。だとすれば、不用意にアッチの人間だと悟られる和名は避けた方がいいんじゃないのか?
だったらいっそ阿久津良太の名前は、ここで1度捨てるか…。
「アク…なんでしょうか?」
お姉さんに先を促されて焦った。
ちょっと待ってよ! えーとえーとえーと……。
その時、天啓のようにピンっと閃いた。
「いや、違う。俺の名前は――――…」
これから俺が名乗る名前。
俺がこの世界で生きていく為の新しい名前。
「アークだ!」
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草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
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