無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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三十五話

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 ソグラスの大通りを2人で歩く。

 ギルドで「まだ話があるから」と言うアルトさんと別れ、レイアさんに連れられてこの町を案内がてら一回りしている。



「あの赤い屋根の道具屋は近寄っちゃダメよ、愛想は良いけど物凄く金額ふっかけてくるから」



 あの赤い屋根の道具屋はボッタクリっと。頭の中にしっかりメモをしておく。



「にしても、アーク君……」

「はい?」



 レイアさんの視線が俺の首から下げられたクラスシンボルに向く。俺の“黒のビショップ”の駒に。



「……強い強いとは分かってたけど、こんなにアッサリと追い付かれるなんて…ちょっと自信無くすわ…」



 はい、昇級しました。

 なんか、上位ランクの魔物複数討伐したからって事らしい。元のクラスが1番下のポーンの白だったから、ポーンの黒と、ビショップの白を飛び越して3階級特進です。ついでに言うとレイアさんと同じ等級。もう1つ上げればアルトさんと同じになる。



「まあ、俺はちょっと普通じゃないんで、あんまり気にしないで下さい」

「そうは言っても気にするでしょ…」



 ヤバい…レイアさんが凄ぇドンヨリした空気を出してる。夜の墓地に居たら間違いなく幽霊と誤解されるレベルのドンヨリっぷりだコレ…。

 何か…何か話を変えなければ!



「ああ…えーと…お腹…そう! お腹空きません!?」

「え? ああ、そう言えば朝食べたっきり何も食べてないわね。それじゃ、何か食べましょうか?」



 ナイス話題逸らし俺!!



「何食べたい?」

「うーん…あっ、港町が近いって言ってましたよね? じゃあ、この町にも魚って卸してません?」

「ええ。毎日朝と夕に売りに来てるけど」



 そう言や、こっちに来てから魚料理食ってないや。別にそこまで魚食いたいってわけじゃないけど(食いたいって言うなら米を食いたい)、人様の体使わせて貰ってる以上、偏った食生活して体調崩すわけにはいかんからね。



「それなら魚料理の美味い店行きましょう」

「ええ、良いわよ。ここの通りをちょっと先に行った所に、美味しい店があるからそこにしましょう」

「はい、そこでお願いします」



 美味しい魚料理かぁ、どんなだろ? 本命焼き魚、対抗馬ムニエル、穴馬スープってところかな。流石に刺身が出てくるって事はねえだろ…。生魚食う文化があったらあったで嬉しいけど。

 ああ、飯の事考えたら涎出て来た。

 と思ってふと見た店先に出された看板にトンデモない事が書かれていた。



『異世界人歓迎』



 えー…アレは、何だ…? 気のせいじゃなければ日本語で書かれている気がするんだが…。



「あの、ちょっとレイアさん?」

「ん? 何、アーク君?」

「あそこの看板出してる店って、なんの店ですか?」

「ああ、あそこは何でも屋なんですって。店主が言うにはええっと…エンピツ? からロケット? まで何でも揃えてますって。………エンピツとロケットってなんなのかしらね?」



 その謳い文句、絶対アッチ側の人間だ…。



「あの…もしかしてですけど…その店主って、勇者様と一緒で黒髪に黒目じゃないですか?」

「ええ、そうよ。もしかして同じ国の人なのかしら?」



 同じ国っつうか、同じ世界の人だそれ。



「レイアさんスイマセン。ちょっとあの店に用事が出来たんでここで失礼します」

「え? ちょっと、アーク君!?」



 レイアさんの制止を無視して件の店に向かう。

 店の外見は特に変な所はない。まあ、当たり前か。

 ドアを開けて中に入ると、ドアに付けられていたベルが鳴って客が来た事を店の中に居る店主に伝える。

 店の奥にある作業スペースだか倉庫だかから女性が顔を出す。ショートカットの黒い髪。丸っこい顔に猫っぽい細い黒目。予想通り日本人…だよな、この人?



「はいはい、いらはいお客さ…ん? なんや坊? 母ちゃんのお使いか?」



 坊てアンタ……まあ、見た目ガキなのはもういい加減否定しないけど…。



「あの、外の看板見て来たんですけど?」

「看板? ああ、なんやねん、また意味不明な看板出すなって苦情かい! どんな看板店先に出そうとウチの勝手やろ!!」

「いや、苦情じゃなくて。『異世界人歓迎』って書いてあるから」



 俺が言うや否や、カウンターを忍者のように飛び越えて俺の顔を両手で挟むように掴む。

 ちょっ…痛い…。あと、顔近ぇ。



「坊! アレ読めるって、アンタ異世界人か!?」

「そうです。っつか、顔離して貰えます?」

「なんやなんや、こんなチビッ子でこの世界でちゃんとやっていけとるんか? ん?」

「なんとかやってます。っつか、だから顔離して下さい」

「行く場所ないんやったら、ウチの所で面倒見たろか? ん?」

「結構です。ってか、いい加減顔せっつーに!」



 顔を掴んでいた手を振り解く。

 あー痛かった…この人腕細えのに何気にパワータイプだな。



「堪忍堪忍、まさかあの看板で本当に異世界人が釣れるとはなー」



 釣るって言うなや。釣られた俺がマジ物のアホみたいじゃねえか…。



「折角来たんや、茶でもシバきながら話そか?」



 店の奥に引っ込む女性を見送って、カウンターの前に置かれていた椅子に座る。何で椅子が…と思ったが、まあ、店とかやってると商談用に込入った話とかする機会でもあるのかもしれないな。

 にしても、なんちゅうか人の話を聞かんタイプの人だな…。正直に言ってしまえば苦手なタイプかも…。



「坊、薄いのと濃いのどっちや?」

「んじゃ、濃い方で」



 渡された木のコップを受け取る。

 紅茶のような包み込むような優しい匂い。あ、この匂い結構好きかも知んない。まあ、この茶葉がちゃんとした紅茶なのかは甚だ疑問だが…。



「それじゃ、初対面らしく自己紹介といこか? ウチの名前は月岡美涙つきおかみるい」



 名乗り返そうとして一瞬迷う。ちゃんと日本人名を名乗るかどうか…。

 いや、自分の名前は一旦捨てたんだ。それに、この人が信用できる人かも分からんし。んー…でも、警戒し過ぎかな…?



「………アークです」

「今の間はなんや?」



 うっ、鋭い…。やっぱ、ちゃんと言うか…?

 俺が思考している間、ジッと俺を見ている月岡さん。どうやら、俺がどうしようもない位行き詰った顔をしていたのか、溜息交じりに、



「坊、アンタ訳有りの人間か?」



 そう、助け船を出してくれた。



「……はい。かなり…」

「そか。そならええよ、無理に話さんで。人の事情を無理に聞くんわ、アッチでもコッチでもマナー違反や」



 言いながら、カウンター挟んで対面の椅子に腰かけてコップを口に運ぶ。



「まあ、せやけど同じ異世界人同士や。ウチに何か協力出来る事あるか?」

「それなら情報が欲しいです。まだまだコッチの世界で知らなきゃいけない事、探さなきゃならない物いっぱいあるんです」

「うんうん、成程な。それならウチの所に来たのは大正解、なんせソグラス1の情報屋やからね。それじゃあ―――」



 ニッコリと笑う月岡さん。

 あれ? 何だろうこの人の笑顔、物凄く黒く感じるんですけど……? 何と言うか形容し難いが『悪代官みたいな笑い方』とでも言えばいいんだろうか。

 その笑顔のまま、俺の胸元…首から下げられたクラスシンボルを指さす。



「情報分の仕事をして貰おか?」

「え…? 善意じゃないの…?」

「何言うてん? タダな訳ないやろ、キッチリ働いて貰うで!」



 ヤバい人に関わってしまったと思った時にはもう遅い…。「やっぱり良いです」とは言わせて貰えない気配。

 あ、分かった。この人の笑い方、悪代官じゃないや…闇金の取り立ての笑い方だコレ!?



「さあ、情報が欲しいなら馬車馬の如く働けや!!」





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