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三十六話

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 翌日。俺は1人でソグラスの外に居た。

 目的地は半日程歩いた所にある古代遺跡。遺跡探索と言えば聞こえは良いが、その話を持って来たのがあの人なので正直憂鬱な事この上なかった。



「はぁ…碌でもない人に関わってしまった…」



 何度溜息を吐いても吐き足りない。

 何故俺はあの時、考えなしにあの店に入ってしまったのか…。時間が戻れるなら、あの時の自分にあの店の扉が地獄に続いていると教えてやりたい。

 まあ、もう手遅れなんですけどね……あはははは…はは…。



「しっかし、600年前の遺跡ねえ…」



 月岡さん曰く「この遺跡には間違いなくお宝がある!」らしい。その根拠を聞いたら「行けば分かる」と返された。行けば分かるって、分かる訳ねーだろ! こちとら遺跡の価値も骨董品の鑑定もできねえっつうの。

 しかも、その遺跡の管理はソグラスの冒険者ギルドの方に任されているらしく、遺跡に入る許可を貰いに行ったら、ついでに遺跡の中に設置されている魔導器の魔石の交換依頼があるからやっとけと無理やり依頼を押しつけられ…。

 ああ、ちなみに魔導器ってのはあれだ、魔石を動力にした照明機だったり、コンロ代わりだったり。この世界には魔法と同じくらい当たり前に存在してる物らしいけど…ユグリ村じゃ1つも見なかったな……王都の近くとは言え小さい村なうえに田舎だからかな…。

 まあ、ともかく遺跡の中には照明用の魔導器が複数設置されてるから、その魔石を交換しておいてくれだと…ついでに遺跡の中に定期的に魔物が湧くから討伐しておけとさ…。



「ああ、もう! めんどくせーっ!!」



 イライラしてもしょうがないが、するんだからしょうがない。

 今日中に帰るつもりではあるが、もしかしたら野宿するかもしれないと思って、一応一通りの荷物は持って来ているが、野宿を1人でするのは出来れば簡便願いたい。見張りも立てずに1人で外で寝るのは流石に勇気がいる。

 いや、待てよ? 昨日までならアルトさん達に合わせて歩いてたけど、俺1人なら別に走っても良くね? どうせ【フィジカルブースト】で身体能力強化されてるから体力的にも余裕だし。

 ここらの魔物は昨日倒したアーマージャイアントが1番強いらしいから、大して警戒の必要もないし。

 良し、行くか! 走って時間短縮!

 リュックを落とさないように背負い直して走り出す。

 快調快調、えーと…確かこの先の大きな木を右っと。

 暫く走ると、岩壁に行きあたる。そして、木々に隠れるようにして大きな口を開けている洞窟。

 …この洞窟の中か。

 中を覗き込んでも奥は見えない。洞窟探検とか、こんな状況じゃ無けりゃ、もうちょっとワクワクが湧きそうなもんだけどね。

 溜息1つその場に残して中に入る。

 入口付近は問題ないが、道がうねっていて次第に光が届かなくなる。



「お、これが魔導器か」



 壁に掛けられたランプのような物を発見。上の蓋を開けて中にギルドで預かった無害化して白っぽくなった魔石を中に放りこむ。で、蓋を閉めてっと。

 魔導器からボンヤリと光が漏れ、次第に大きくなる。



「おお、以外に光量凄いな…」



 もっと蝋燭のような小さな光をイメージしてたけど、魔導器は蛍光灯のような、直視すると眩しさを感じるくらいの光を放っている。

 まあ、でも一月くらいかけてゆっくり魔石を消費していくらしいから、入れたばかりだとこんなもんか。

 意外と楽だな。ちゃっちゃと進んでいこう。

 特に魔物が出る訳でもなく、魔導器の光に照らされながら洞窟の中を歩く。冷えた空気の中に俺の足音だけが響くのは不気味に感じたが、そんな事でいちいち足を止めていたら切りがないと自分を叱咤する。

 そんなこんなで4つの魔導器に魔石を入れた所で遺跡に到着。

 けど、これ……。

 土と岩に埋もれるようにして入口がそこにあった。

 ドアはない…ないのだがあった形跡はある。ドアをスライド移動させる為の溝、そして上には……。



「…自動ドアのセンサー…だよな…?」



 良く見慣れた、動く物を感知してドアを開閉させるセンサー。

 それにこの遺跡の壁…これ多分鉄筋コンクリート?

 ………ふむ、落ち着こう。今、俺が自分の目で確認した事実から推察するにこの遺跡は。



「俺達の世界の建物」



 って事になるよな? やっぱり。

 でも、そうなると月岡さんが俺をここに寄越した意味が理解できる。ここに来れるのは冒険者だけ。そして、この遺跡の“意味”を理解できる人間……異世界人でなければ、この遺跡の中の“お宝”は発見できない。

 いや、お宝ってんなら、この遺跡がすでにお宝だろ! だって、異世界の建物が丸ごとコッチの世界に来てんだぜ!?



「はぁ…ビックリだわ……ん?」



 建物の奥に熱源。熱量が小さい、魔物か。

 2、3…いや、4匹か。この建物を漁る前に荒らされちゃたまらん、さっさと始末させて貰う!

 建物の中に入ると、真っ直ぐ熱源に向かう。

 居た! 狼型…あ、コイツは見た事あるな。ユグリ村で追いかけられた奴だ。狼が気付いてコッチに振り向こうとした瞬間に燃やす。

 サラバ過去のトラウマよ。

 っと、魔物と一緒に消えるとは言え、建物の中で盛大に燃やすのはマズイか。残りは殴り殺すか【レッドエレメント】で熱量ブチ込んで吹き飛ばそう。





*  *  *





 魔物の処理は5分で終わった。

 リノリウムの床を懐かしく思いながら建物の中を歩く。

 結構広い。3階建て、部屋数がやたら多い、雰囲気は何かの研究施設っぽいけど、何もかも持ちだされていて実際はどうなのか不明。

 回ってみて分かったのはコレくらい。ああ、あと気になった事が1つ。この建物窓が無いんだよなあ。在ったところで土砂が流れ込むだけだから、今の状態では良い事なんだろうけど…この建物がアッチの世界に在った事を考えると、いったいここが何の為の建物だったのかと色々想像してしまう。

 うーん……マズイな…。何がマズイって、この程度の情報持ち帰ったくらいであの闇金の取り立て屋みたいな人が許してくれるかなあ、って話。いや、絶対無理だろ!?

 何かそれらしい物でも見つかればなあ…。コッチの世界の人間には意味不明でも、異世界人の俺等には意味のある物、例えばUSBメモリのような記憶媒体とか。有った所でどうやって情報取り出すのって話しだが。

 まあ、ぶっちゃけ俺としては、あの人が適当に満足して俺に協力的になって色々情報くれたらそれで良いんで、それらしい物ならなんでも良いんだが…。

 2、3階には何も無いか……。600年前からある遺跡だもんなあ…そりゃ、その間に全部持ちだされてスッカラカンで、ゴミ1つ残ってねえよ…。

 ん? 600年前…?

 頭の片隅にその年数に何か引っかかる物を感じた。何だろ? 今、何が引っかかったんだ? ……まあ、良いか。とりあえず今は建物の探索優先だ。

 つっても、1階もさっきグルッと回ったけど何も無かったしなー…。



「あーどうしよ……手ぶらで帰ったら絶対文句言われるだけじゃ済まねえよ…」



 最悪コンクリート詰めだ…。コッチの世界にコンクリートがあるのかは知らんが…。

 はあぁ…なんで情報得る為にこんな思いしてんの俺…。そもそも、あの人がまともな情報持ってるかも分かんねえのにさ。コッチの世界の人間より、同じ異世界人の方がたち悪いんじゃねえか…? 初めて会った異世界人が明弘さんみたいな善人だったから完全に油断してたな。今度からは接触する前に警戒しよう…。

 固く心に誓いながら、この建物の中で恐らく1番大きい部屋に入る。

 都合良く隠し部屋とかあればいいんだけどねー…って、そんなもん有る訳ねー……ん? ちょい待ち。

 壁に妙な彫り込みがあった。記号のような文字のような…いや、コレ覚えがあるぞ。ルディエの地下にあった転移装置の奴と多分同じ。おいおいマジですか…!? これ、≪赤≫…いや、多分正確には原色の魔神の力を認識して起動する奴だろ?

 彫り込みの角に指先を引っかけて傷を作る。鋭い痛みと共に血が滲む。



『識別≪RED≫を確認。パスワードを入力して下さい』



 間違いない。ルディエの転移装置の音声と同じ女の声だ。

 ………しかし、パスワードって…? ルディエではそんなの要求されなかったのに…。分かる訳ねーだろ…。



「うーん…ヒントくれ」



 ダメ元で言ってみる。



『パスワードを忘れた時のヒントを提示します』



 あんの!? マジかよ!? 言ってみるもんだな…。



『初代アメリカ合衆国大統領』



 それで思いつく名称は1つしかないだろ。アッチの人間なら小学生でも答えられる。



「ジョージ・ワシントン」

『パスワードを確認しました』



 彫り込みのあった壁が奥にスライドして、扉が開くように横に吸い込まれる。そして、俺の目の前には地下に通じる階段が現れた。



「ひゅー…遺跡探索っぽくなってきたじゃねえの」



 ちょっとワクワクしてきた。

 軽い足取りで靴音を響かせながら階段を下りる。





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