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四十話
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パンドラの登場でちょっとだけ月岡さんの頭が冷えたので、改めて冷静な状態で会話再開。
「で、何すか神器って?」
「神器は神器やろ。なんや冒険者やのに知らんのかぃ? そなら説明したる、平たく言えば持ち主に合わせて変化、成長するものごっついレアな武具の事や」
机に落ちたままの灰色の指輪を拾って観察してみる。
「この指輪が、それなんですか?」
「白いキャベツみたいな入れ物に入ってたんやろ? それやったら確実やな。その白いキャベツはコクーンっちゅう言ってみれば神器の卵や。開けた人間に合わせた物が出て来て、持ち主として登録される。したら、もう他の人間には使われへん、無理に使おうとするとさっきみたいに拒否られるっちゅう訳や」
「つまり持ち主しか装備出来ない一点物って事か」
一点物…。響きが良いよね。なんてったって自分の専用装備って事だもの。
「あれ? じゃあ持ち主が死んだ場合って神器どうなるんですか? 誰も使えなくてガラクタ?」
「ちゃうよ。持ち主が死ぬと、神器はコクーンに戻るんや。普通はな」
なるほど、そしてまた新しい持ち主の手に渡って別の神器として生まれ変わるってか…ん? 普通は?
「その言い方だと、普通じゃない神器があるって事ですか?」
「あるよ。持ち主が死んでもコクーンに戻らず、その姿のまま残り続けるイレギュラー。オーバーエンド終わりが無いなんて呼ばれる物やけど、これは凄いで? なんてったって、元の持ち主が成長させた要素をそのまま次の持ち主に受け継げるんやからな」
「次の持ち主って、コクーン開けた人間にしか使えないんでしょ?」
「いや、必ずしもそう言う事ではないらしいで? 例えば固有認証に血が登録されるとするやろ? そうすると、その子供もそのDNAの一部を継承しとるから使えるようになる…っちゅうケースが有るみたいや。実際、今のクイーン級の冒険者の1人が持っとるオーバーエンドは、代々継承されとる物らしいからな」
「へぇー。凄ぇなオーバーエンド、1度見てみたいもんだ」
俺の言葉を聞いて、月岡さんの口元がニヤリと歪んだ…気がした。
そして、……なんだか、今背筋に冷たい物を感じたような………気のせいだと信じたい。
「神器の説明はこんな感じやね。したら、坊を殺して神器をコクーンに戻そか?」
「どんな流れだっ!? 恐えよ! 何言ってんだアンタ!?」
「ジョーダンや、ジョーダン」
アッハッハと笑って誤魔化しているが、本当に冗談か? …目の奥で欲望の炎がメラメラと燃え盛ってたように見えたぞ…。
「ほんで? 他にはなんか拾って来んかったんか?」
「他には…パンドラとか?」
「パンドラて何や? 開けるとランダムに効果を発揮する箱か?」
ああ、そっか。パンドラの事は何にも説明してなかったっけ。
「今、奥で着替えてるのがパンドラですよ」
「あの子? なんや、もしかして600年前からずっと冷凍保存されとった過去の人間とかか?」
「50点。正確には人じゃなくてサイボーグらしいですよ」
「ぅえ!? 坊、マジか!?」
目を白黒させる月岡さん。ヤベエ、超気分良い!
「信じられんわぁ…ちょっと無表情な人間にしか見えんかったで?」
「でしょうね。初見で人間じゃないと見破れたら、俺はそいつの洞察力を褒めますよ」
月岡さんが、ふと何かを考える素振りをした。
ああ、この人絶対碌でもねえ事考えてるよ。っつうか、この話でこの人が考えそうな事は俺にも予想がつく。
「言っときますけど、売りに出さないで下さいね」
「う、売るかぃ! ウチやって人身売買なんて人の道を外れた商売せんわ!?」
「でも、本当はー?」
「元の世界の研究機関に持って行ったらいくらになるかと計算した。って、何言わすねん!?」
ノリツッコミで逃げたけど、今のは絶対本音だな、間違いなく。
………この人とパンドラ2人にしないように気を付けよう…。気付いたらどっかに身売りされてましたー…なんて展開になったら、この人と店が“謎の火事”に遭うかもしれない。
頃合いを見計らったように、丁度話が途切れた所で店の奥から足音が近づいて来る。
「マスター、お待たせしました」
「おう、ちゃんと服着た……か?」
そこにはメイドが居た。
真っ黒な長袖ロングスカートのワンピース。その上から着られた真っ白なエプロンドレス。頭にホワイトブリムが載って居ないが、どこからどう見てもメイドである。
無表情で綺麗な顔も相まって、出来るメイドっぽいオーラが全身から出ている…ような気がする。
「何故にメイド服……?」
「はい。この服装は従者の物だと記憶にありました。マスターにお仕えする私には相応しい服装と判断しましたが、如何でしょう?」
「…えー、うん。まあ、似合ってるはいるな、うん、凄く」
「お気に召したようなら幸いです」
「……しかし、何でこの店メイド服なんて置いてんの…」
「仕立屋の差し押さえ」
聞くんじゃなかった…。
「アンタ、本当に人間とちゃうん? パッと見じゃ見分けつかんわ」
パンドラの周りを回りながらジロジロと観察しているが、傍から見ると奴隷商が品定めしてるようにしか見えんな…。
「…………」
「ん? なんや、無視かい!?」
怒鳴られてもパンドラは気にした様子もなく、視線はまっすぐに俺だけを見ている。
「パンドラ?」
「はい。なんでしょうかマスター?」
「……このロボ娘、もしかして坊の言葉にしか反応せんのか?」
「俺以外の人間との会話は出来ねえの?」
「いえ、マスターの許可さえあれば可能です」
「それなら普通に会話して良いぞ」
「かしこまりました」
ピシッとした動きで横に居た月岡さんに向き直る。
「先程の「私が人間なのか?」と言う質問にお答えします。私は人の姿に近付けられた為人型をしていますが、生物学上のホモ・サピエンスとは根本的に肉体構造が―――」
「小難しい話はええわ。人なのか違うんか、どっちや」
「人ではありません」
答え終わったと判断したのか、パンドラはトコトコと歩いて俺の後ろに立つ。従者らしい立ち位置だとは思うが…そもそも俺は従者にした覚えはないし、何よりメイド服着たのが後ろに立つと落ち着かない…。
「はぁ~、驚きやね。ここまで完璧な人型のロボを作れるなんて…技術の進歩は恐ろしいわ~」
確かに。でも、ここまでオーバーテクノロジーを見せつけられると、月岡さんの言ってた、あの建物が俺等にとっての未来の物説も真実味を帯びてくる。でも、そうするとやっぱり気になるのは“どうして過去にあったのか”だ。異世界から来た物には全て、そういう危険性があるのか、はたまた全く別の理由で過去に行ったのか…? タイムマシーンとか? アホか、それこそSFの世界だろ……。今居るのは剣と魔法のファンタジーの……いや、魔法? もしかして存在するのか“時間移動できる魔法”が!? 仮に存在したとして、その魔法で過去に行ったとすると、それは事故ではなく、人の意思によって過去に行った事になる。
でも…何のためにだ…? あのメッセージは、異世界人で魔神の力を持った人間が来る事を知っていた。そもそもその2つの条件を満たしていなきゃ地下に行く事すら出来なかったし。って事は、俺に何かを伝える為に過去に…? いやいや、だったら600年も前に飛んでる意味が分からんだろ。
うーん…600年前か…。
「月岡さん、コッチの世界の600年前って何が起こったか知ってます?」
「600年前? ああ、あの遺跡が見つかった頃やね。確か、コッチで言う世界大戦が起こった頃ちゃう? 確かー…何か戦争に名前がついてた気がするんやけど、なんやったかなー…」
月岡さんが思い出そうと頭をトントンと指で叩き始めると、思いがけず俺の後ろから答えが出された。
「亜人戦争ですね」
「そうそう、それや!」
「パンドラ、知ってんの?」
「詳しい事は記憶にも残って居ませんが、その名称で呼ばれる戦争があった事は記録されています」
亜人戦争…どっかで聞いた単語だな? ……あっ、皇帝だ! 確か、≪赤≫の事を亜人戦争で人間を裏切った―――とか、何とか言ってたっけ。
うーん…どう言う事だ? 今の手持ちのピースで話を組み立てるなら、600年前の亜人戦争とやらで、何かをしようとしてあの建物は過去に行った。でも、その“何か”は失敗し、その影響で俺があの建物に辿り着く事になった…って事か?
ダメだ、全然意味が分からん…。多分、話を組み立てるには情報のピースが少な過ぎるんだ。
ま、そもそも全部俺の推測だしね。
ふぁ~あ、頭使ったら眠くなっちまったな。今日の話は切り上げさせて貰おう。
「スイマセン月岡さん、ちょっと疲れて眠いんで、残りの話は明日で良いですか?」
「構へんよ。それより坊、宿取ってあるん?」
「あー…コレから探します」
「止めとき止めとき、夜に来る客は足元見られるで。宿無いならこの店の奥使ってええよ」
「いや、結構です。それこそボッタくられそうなんで」
「するか!? 坊、1度言うとこうと思てたけど、ウチの事なんやと思てん!?」
「守銭奴」
右ストレートが無言で飛んで来た。
「あっぶねえ!?」
パンドラが俺を引っ張って自分の後ろに庇う。
「マスターへの攻撃行動を確認。戦闘モードに移行します」
メイド服の奥から何やら小さなモーター音のようなものと、ガチャンっと弾が装填されたような、不吉な事この上ない音が…!
「パンドラ、大丈夫だから。その体の中でさしてるヤバい音止めろ」
「はい、マスター」
音が止まって金髪のメイドが構えを解く。
「なんや、危ないロボ娘やな…」
無言で人を殴ろうとしたアンタが言うな。
「坊がウチの事をどう思うてるかは理解したわ。そんなら、ウチが懐の大きい善人やって事をみせたる! 金は一切取らんし、腹が空いてるなら買い置きの食料も付けようやないか!」
おお、マジかよ。正直、ちょっとお腹も空いてたからありがてえ!
「本当に良いんですか?」
「ええよ。ただし、寝る時はちゃんと奥で寝るんやで? 店の中で寝てるとこ人に見られて、変な噂立てられたくないからな」
「了解」
と言う感じで、俺とパンドラはこの店の奥を宿代わりに使わせて貰う事になった。
月岡さんは、店とは別に自宅があるらしく(ブルジョアジーめ…)「明日の朝にまた来る」と店から出て行った。
ただ、出て行く時に例の闇金の取立てのような笑い方をしていたのが気になったが。
そして店に残された俺達は………。
「なんじゃこりゃあ!?」
店の奥は予想通りに倉庫スペースになっていた。
うん、それは良いんだ。問題なのは、壁際には大量の半開きの木箱が積み上げられ、床には色んな物が散乱して…何と言うか…汚部屋…かよ…。
「パンドラ、一応聞くが…お前が散らかした訳じゃないよな?」
「はい、始めからこの状態でした」
これは、アレだな。寝る場所が無え。と言う事は、ここを片付けて2人分の寝るスペースを作るしかない。
「クソっ、やられた!? 体の良い倉庫の片付けじゃねえかッ!!!!」
少しでもあの人を信用した俺がバカだった!
そもそも、これから寝るって言ってる人間にもう一仕事させるとか、どんな神経してんだあの女!? ブラック企業の上司かっ!?
「………片付けるか…」
「はい」
文句も言わずに無表情に黙々と作業をするパンドラだけが俺の救いだった。
「で、何すか神器って?」
「神器は神器やろ。なんや冒険者やのに知らんのかぃ? そなら説明したる、平たく言えば持ち主に合わせて変化、成長するものごっついレアな武具の事や」
机に落ちたままの灰色の指輪を拾って観察してみる。
「この指輪が、それなんですか?」
「白いキャベツみたいな入れ物に入ってたんやろ? それやったら確実やな。その白いキャベツはコクーンっちゅう言ってみれば神器の卵や。開けた人間に合わせた物が出て来て、持ち主として登録される。したら、もう他の人間には使われへん、無理に使おうとするとさっきみたいに拒否られるっちゅう訳や」
「つまり持ち主しか装備出来ない一点物って事か」
一点物…。響きが良いよね。なんてったって自分の専用装備って事だもの。
「あれ? じゃあ持ち主が死んだ場合って神器どうなるんですか? 誰も使えなくてガラクタ?」
「ちゃうよ。持ち主が死ぬと、神器はコクーンに戻るんや。普通はな」
なるほど、そしてまた新しい持ち主の手に渡って別の神器として生まれ変わるってか…ん? 普通は?
「その言い方だと、普通じゃない神器があるって事ですか?」
「あるよ。持ち主が死んでもコクーンに戻らず、その姿のまま残り続けるイレギュラー。オーバーエンド終わりが無いなんて呼ばれる物やけど、これは凄いで? なんてったって、元の持ち主が成長させた要素をそのまま次の持ち主に受け継げるんやからな」
「次の持ち主って、コクーン開けた人間にしか使えないんでしょ?」
「いや、必ずしもそう言う事ではないらしいで? 例えば固有認証に血が登録されるとするやろ? そうすると、その子供もそのDNAの一部を継承しとるから使えるようになる…っちゅうケースが有るみたいや。実際、今のクイーン級の冒険者の1人が持っとるオーバーエンドは、代々継承されとる物らしいからな」
「へぇー。凄ぇなオーバーエンド、1度見てみたいもんだ」
俺の言葉を聞いて、月岡さんの口元がニヤリと歪んだ…気がした。
そして、……なんだか、今背筋に冷たい物を感じたような………気のせいだと信じたい。
「神器の説明はこんな感じやね。したら、坊を殺して神器をコクーンに戻そか?」
「どんな流れだっ!? 恐えよ! 何言ってんだアンタ!?」
「ジョーダンや、ジョーダン」
アッハッハと笑って誤魔化しているが、本当に冗談か? …目の奥で欲望の炎がメラメラと燃え盛ってたように見えたぞ…。
「ほんで? 他にはなんか拾って来んかったんか?」
「他には…パンドラとか?」
「パンドラて何や? 開けるとランダムに効果を発揮する箱か?」
ああ、そっか。パンドラの事は何にも説明してなかったっけ。
「今、奥で着替えてるのがパンドラですよ」
「あの子? なんや、もしかして600年前からずっと冷凍保存されとった過去の人間とかか?」
「50点。正確には人じゃなくてサイボーグらしいですよ」
「ぅえ!? 坊、マジか!?」
目を白黒させる月岡さん。ヤベエ、超気分良い!
「信じられんわぁ…ちょっと無表情な人間にしか見えんかったで?」
「でしょうね。初見で人間じゃないと見破れたら、俺はそいつの洞察力を褒めますよ」
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「何故にメイド服……?」
「はい。この服装は従者の物だと記憶にありました。マスターにお仕えする私には相応しい服装と判断しましたが、如何でしょう?」
「…えー、うん。まあ、似合ってるはいるな、うん、凄く」
「お気に召したようなら幸いです」
「……しかし、何でこの店メイド服なんて置いてんの…」
「仕立屋の差し押さえ」
聞くんじゃなかった…。
「アンタ、本当に人間とちゃうん? パッと見じゃ見分けつかんわ」
パンドラの周りを回りながらジロジロと観察しているが、傍から見ると奴隷商が品定めしてるようにしか見えんな…。
「…………」
「ん? なんや、無視かい!?」
怒鳴られてもパンドラは気にした様子もなく、視線はまっすぐに俺だけを見ている。
「パンドラ?」
「はい。なんでしょうかマスター?」
「……このロボ娘、もしかして坊の言葉にしか反応せんのか?」
「俺以外の人間との会話は出来ねえの?」
「いえ、マスターの許可さえあれば可能です」
「それなら普通に会話して良いぞ」
「かしこまりました」
ピシッとした動きで横に居た月岡さんに向き直る。
「先程の「私が人間なのか?」と言う質問にお答えします。私は人の姿に近付けられた為人型をしていますが、生物学上のホモ・サピエンスとは根本的に肉体構造が―――」
「小難しい話はええわ。人なのか違うんか、どっちや」
「人ではありません」
答え終わったと判断したのか、パンドラはトコトコと歩いて俺の後ろに立つ。従者らしい立ち位置だとは思うが…そもそも俺は従者にした覚えはないし、何よりメイド服着たのが後ろに立つと落ち着かない…。
「はぁ~、驚きやね。ここまで完璧な人型のロボを作れるなんて…技術の進歩は恐ろしいわ~」
確かに。でも、ここまでオーバーテクノロジーを見せつけられると、月岡さんの言ってた、あの建物が俺等にとっての未来の物説も真実味を帯びてくる。でも、そうするとやっぱり気になるのは“どうして過去にあったのか”だ。異世界から来た物には全て、そういう危険性があるのか、はたまた全く別の理由で過去に行ったのか…? タイムマシーンとか? アホか、それこそSFの世界だろ……。今居るのは剣と魔法のファンタジーの……いや、魔法? もしかして存在するのか“時間移動できる魔法”が!? 仮に存在したとして、その魔法で過去に行ったとすると、それは事故ではなく、人の意思によって過去に行った事になる。
でも…何のためにだ…? あのメッセージは、異世界人で魔神の力を持った人間が来る事を知っていた。そもそもその2つの条件を満たしていなきゃ地下に行く事すら出来なかったし。って事は、俺に何かを伝える為に過去に…? いやいや、だったら600年も前に飛んでる意味が分からんだろ。
うーん…600年前か…。
「月岡さん、コッチの世界の600年前って何が起こったか知ってます?」
「600年前? ああ、あの遺跡が見つかった頃やね。確か、コッチで言う世界大戦が起こった頃ちゃう? 確かー…何か戦争に名前がついてた気がするんやけど、なんやったかなー…」
月岡さんが思い出そうと頭をトントンと指で叩き始めると、思いがけず俺の後ろから答えが出された。
「亜人戦争ですね」
「そうそう、それや!」
「パンドラ、知ってんの?」
「詳しい事は記憶にも残って居ませんが、その名称で呼ばれる戦争があった事は記録されています」
亜人戦争…どっかで聞いた単語だな? ……あっ、皇帝だ! 確か、≪赤≫の事を亜人戦争で人間を裏切った―――とか、何とか言ってたっけ。
うーん…どう言う事だ? 今の手持ちのピースで話を組み立てるなら、600年前の亜人戦争とやらで、何かをしようとしてあの建物は過去に行った。でも、その“何か”は失敗し、その影響で俺があの建物に辿り着く事になった…って事か?
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「はい、マスター」
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「本当に良いんですか?」
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と言う感じで、俺とパンドラはこの店の奥を宿代わりに使わせて貰う事になった。
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そして店に残された俺達は………。
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これは、アレだな。寝る場所が無え。と言う事は、ここを片付けて2人分の寝るスペースを作るしかない。
「クソっ、やられた!? 体の良い倉庫の片付けじゃねえかッ!!!!」
少しでもあの人を信用した俺がバカだった!
そもそも、これから寝るって言ってる人間にもう一仕事させるとか、どんな神経してんだあの女!? ブラック企業の上司かっ!?
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