無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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四十七話

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「さあ、皆ぁ! 踊りなさぁい、歌いなさぁい!」



――― ピンク色の髪の女は踊る。

 クルクルと楽しそうに、優雅に足を伸ばし、背筋を伸ばし、さしずめ彼女はこの舞台のプリマだった。

――― 女は歌う。

 この世の幸福を祈るように、高らかに、世界中に響かせるように、絶望を轟かせる歌声はアステリア王国を呑み込む。

――― 女は笑う。

 己の美貌を、己の振り撒いた災厄を、逃げ惑うしかできない虫達を、ただただ女は嗤った。



「アーハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!! たーのシィーぃぃぃぃいぃぃッ!!!!!!!」





*  *  *





 同時刻、アステリア王国王都ルディエ。

 あまりにもそれは唐突だった。

 前兆は無かったと断言していい。

 先日の魔道皇帝との戦いで負った街は、ようやくポツポツと修復され始め、住人達の心にも少しだけ余裕が戻り、活気が戻り始めていた。そんな昼前にそれは現れた。

 街に影が落ち、雲が出て来たのかと皆が空を見上げ、そこには



――― 天に浮かぶ巨大な骸骨の魔物



 悲鳴は上がらなかった。

 あまりにも現実味が無さ過ぎて。だが、それがそこに存在している事は、骸骨の纏う黒いモヤが教えてくれる。

 人々はそれが何なのか理解出来なかった。

 だが、知らなくても、理解出来なくても、人間の中で最も鋭敏な“それ”が教えてくれる。

 そう、恐怖が目の前に現れたそれは、この街に…自分達に絶望的な終わりを届けに来たのだと―――…。





*  *  *





 同時刻、アステリア王国港町ジェレスト。

 海は穏やかで、潮風が気持ちの良い日だった。

 しかし、それは唐突に終わる。

 海が立ち上がった。

 いや、違う。

 そこに居たのは…。



――― 全身に人の顔が浮かび上がる不気味な巨人型の魔物



 体から海水を滴らせ、全身の顔が苦しそうにうめき声を上げる。

 陸に上がろうと一歩踏み出すだけで大きな波がうねりながら町を襲い、顔の近くを飛んでいた海鳥を邪魔そうに手で払うその動作1つで、帆船がひっくり返って倉庫がなぎ倒される。

 余りにも無慈悲で、余りにも圧倒的過ぎる力。

 ある者は町に襲いかかった津波に呑まれ、ある者は崩れた倉庫の下敷きになり、ある者は帆船と共に海に沈んだ。

 ジェレストの住人は、覚悟した。

 この街はもう終わりだと―――…。





*  *  *





 同時刻、アステリア王国ソグラス。

 冒険者のアルトとレイアはメインストリートを歩いていた。別に何をしている訳でもなく、ただギルドの依頼もコレと言った急ぎの物もないので今日はノンビリしよう。という、ただそれだけの事だった。

 ソグラスでの2人は、そこそこ名前の知られている冒険者である。この町に居ついて長い2人にとってはソグラスは第2の故郷と言って良い。

 そんな2人の目下の気になる事は…。



「なあレイア、アーク君はどこに行ったんだろうな~」

「さあ? 近頃例の変な看板出してる店に出入りしてるっぽいけど」

「ああ、ミルイさんの所か。あそこは本当に何でも揃うからなあ……金額凄いふっかけられるけど…」

「アーク君は勇者様とも仲が良かったし、もしかしたら勇者様と同郷の人なんじゃないかしらあの人? ほら、髪と目の色同じだし。2人とも名前変わってるし」

「ああ、なるほど、そーゆー事な。……ところでよう、アーク君と俺ってどっちが強いと思う……?」

「圧倒的にアーク君」

「知ってた! 知ってたけど、お前なら優しさの心で俺って言ってくれると思ってた!!」



 ショックを受けて地面に膝を突くアルトを冷ややかな目で見る。



「言う訳ないでしょ…どんな意味が有るのよ、それ?」

「そりゃあ、戦うところみたら俺達が束になってかかったって勝ち目無いのは分かるけどよ、こんな簡単に追い抜かれたら……冒険者の先輩として、立つ瀬がねえだろ」

「まあ…それは分かるけど」



 その時、微かな振動に気付く。

 始めは単なる気のせいかと思った。が、振動は徐々に大きくなって―――。

 地震!? その場に居た全員がその場に立って居られなくなって、地面に倒れたり尻もちを突いたり。

 そして地鳴り。地の底から聞こえた音は、急速に近づいて来る。まるで、地面が食い破られて泣いているような―――。



「なんだっ!?」



 次の瞬間、数件の家屋が爆発した…いや、違う! 家屋のあった地面の下から現れたそれに突き上げられて崩壊したのだ。その、



――― 天を突くような巨大なワーム型の魔物に



 体を揺するように這い回る姿は、ワームそのままだ。だが、規模の桁が違う。全長100m近くあろうかというその巨体が這い回るだけで、ソグラスの町はあっと言う間に半壊した。

 なんて脆い…こんな簡単に町が壊される。まるで、砂の城でも崩すように町が叩き壊され踏み潰された。



「……なによ、あれ…?」

「…クイーン級の魔物?」



 クイーン級の魔物。

 1体現れたら、町1つ無くなる事を覚悟しなければならない厄災とも呼ぶべきレベルの魔物。人間にとっての絶対的な驚異。

 ルーク級のパーティーが3つ以上束になってようやくギリギリ倒せるか否かと言われている。しかし、現在ソグラスに居る最高ランクはルーク級の下のナイト級。その戦力差はあまりにも絶望的だった―――。





*  *  *





 同時刻、アステリア王国ダロス。

 来訪者を歓迎する入り口のアーチは、“それ”が近付いただけで燃え上がり、地面に落ちて灰になった。

 その灰を踏みしめて、それはダロスに足を踏み入れる。

 炎。

 歩くだけで炎がその周りで舞い踊る。

 “それ”は、自身がなぜここに居るのか理解できなかった。覚えているのは…甘く、蕩けるようなピンク色の髪の女の声……そして―――…もう1つ覚えている。



――― 生命を許すな



 覚えているのではない。元々生まれ落ちた瞬間に擦り込みのように、根っこの部分に刻み込まれている本能だった。

 理由は1つ。“それ”が魔物だったからだ。

 騒ぎを聞き付けて人が集まり、その姿を見て怯え、あるいは終わりを覚悟して悲しんだ。



――― ああ、そうだ自分はどうしようもなく、人を殺したくて壊したくて仕方ないのだ。人だけではない。獣も鳥も魚も、果ては草や木も、全ての生命を根絶やしにしなければならないのだ。



 本能のままに目の前の命を蹂躙しようとした時、怯えも悲しみもなく1人の子供が立ちはだかった。

 銀色の髪の小さな子供。



――― ああ、コイツは違う。匂いが他の命とは違う。



 すぐに理解する。この子供は壊さなくては…念入りに、粉々に、潰して、焼いて、噛み砕いて、食べてしまおう。



「ったく、面倒くせぇなあ。言っても無駄だろうけど一応言っとくわ」



 子供は心底面倒臭そうに頭を掻きながら、言葉を続けた。



「お呼びじゃねえから帰れ」



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