無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

文字の大きさ
53 / 62

五十三話

しおりを挟む
 インフェルノデーモンを形作っていた魔素が弾けて周囲に飛び散る。

 ヴァーミリオンが解き放った熱量の余波が、周囲に被害を出す前に【炎熱吸収】で全て剣の中に回収する。

 やっべ、このスキル超便利!? これがあれば森の中でもバンバン炎振り回せるんじゃね!? ヴァーミリオン、お前、超出来る子じゃね!?

 武器の優秀さに感心しながら、魔物のドロップした魔晶石を拾う。皇帝に続き2つ目か…。魔晶石持ちとの戦闘は本当にシンドイな。

 まあ、これで金がガッツリ入るから、パンドラの旅支度も整えられるし、悪い事ばっかりじゃないか。



「マスター、御怪我は?」

「体中が痛い。刻印解くのが怖ぇなぁ…」



 絶対ルディエの地下と同じに意識が飛ぶよ…。心の中でウンザリしながら、溜息を吐くと、パンドラがススッと寄って来て俺の腕を掴む。



「何…?」

「マスターが倒れられた時には私が介抱しますので心配なさらないで下さい」



 安心と言えば安心だが、どことなく不安が残るのはなんでなんだろうな……。やっぱ、パンドラのデータベースが一部変だからか。介抱と言いつつ目を覚ましたらケツにネギ突っ込まれてたとかだったら洒落にならん。実際にやられたら、ロイド君には土下座でゴメンなさいだし、俺自身も男として何かが終わる気がする。



「あ、ああ。その時にはヨロシクな…。でも、くれぐれも変な事はするなよ? 常識的な範囲で頼む…」

「言葉の意味は理解できませんが了解しました」



 いや、それダメな返事だろ。

 いつも通りの無表情の中に、若干やる気が感じられるのがまた不安だ…。

 そんなやりとりをしていると、広場の周囲に居た住人たちが騒ぎながら集まって来た。



「すげえな坊主!? あんな化物倒しちまうなんて!?」「何、何なの君は!? どうしてオーバーエンドが抜けたの!?」「メイドさん、今夜空いてますか?」「炎使ってたのは、あれはどんな魔法だ!?」「クイーン級の魔物を倒すなんて、君は化物かっ!?」「何で体光ってるの?」「もしや、神様の使いか!?」「あ、それなら納得」



 口々にワイワイ言うから全然聞き取れない。

 と、更に1人駆けよって来るが、様子がおかしい。慌ててるっていうか、悲壮感が顔いっぱいに浮かんでるって言うか……。



「おいおい、皆! ソグラスの方でデカイ煙が上がってるぞっ!?」



 は?

 何を言ったのか分からなかった。

 だが、3秒ほど思考が止まってようやくその可能性に思い至った。もしかして、魔物に襲われたのは、この町だけじゃないのか!?

 背中に嫌な汗が流れた。

 ソグラスには、月岡さんが、アルトさんとレイアさんが居る。あの町には、俺が秒殺出来るアーマージャイアント3体でも大騒ぎになる戦力しかない。ダロスだって似たり寄ったりだが、幸いにもここには俺とパンドラが居た。

 もし、インフェルノデーモンが現れたら…もし同レベルのクイーン級が襲って来たら…ソグラスは確実に終わる。



「くそっ!!」



 全速力で走り出す。



「坊主どこ行くんだ!?」

「ソグラスに決まってんだろ!? パンドラ、お前はここで待ってろ!!」

「はい」



 背中にパンドラの返事を聞きながら走る。

 ダロスからソグラスまでは2日かかる。けど、それは崖を避けて通るからだ。直線距離なら半日つってたから、全速力で走ればもっと早く着く。足が痛むけど、死なない限りは【回帰】のスキルで寝てれば治ると割り切る。

 あっ、そういや町の人間に断りなくヴァーミリオン持って来ちまった。まあ、良いか。事が片付いたらパンドラを迎えに行くついでに事後報告すれば。

 山道を逸れて、まともに道のない岩山を走る。

 ダロスを出て15分程走ったところで件の崖に突き当たる。

 高いな……。推定70mってところかな…。斜度はほぼ垂直なので、降りるなら問答無用で飛び降りるしかない。

 着地はどうする? もっと安全な降り方を探すか? 遠回りでも山道で行った方が…。

 頭の中で色んな考えが浮かぶが、視界の先に見えている黒い煙が気持ちを焦らせる。

 ええいっ、くそっ! 下手すりゃ今もソグラスは襲われてるかもしれないんだぞ!? 覚悟決めて行くぞ!!

 ノーロープバンジーを実行に移す。

 同時に手の中で火炎を生み出す。ようは火の使い方だ、炎の中に空気をギュッと押し込めるイメージ。

 地面が迫る。

 上手く行ってくれよ!!

 手の中の炎を地面に投げる。地面スレスレの所でチカッと燃焼力が跳ね上がり爆発が起きる。爆風に煽られる形でスピードを殺して着地…と言うのが理想だったけど、こんな無茶な力技でスマートに着地出来る訳も無く…実際は爆風で思いっきり体を痛めつけられて、受け身も取れずに地面を転がった。



「――――ッってぇ………!」



 暫く地面で身動き出来ない程全身が痛んだ。死ななかったからセーフ…とは言い難いなこのダメージは…。刻印出してなかったら今のでアウトだったかもしれん……。あんまり無茶ばっかりやると、ロイド君からクレーム来るかもしれないから、気を付けないとな…。

 ヴァーミリオンを支えにして立ち上がる。

 ああ、立つのもシンドイなチキショウ…。せめて、インフェルノデーモンとの戦闘が無ければなあ。

 って、愚痴ってる場合じゃねえ。ソグラスは現在進行形でピンチかもしれないんだ。

 明弘さんの死に顔が一瞬頭を過ぎる。

 知り合いが死ぬのを見るのなんて1度きりで十分だ。あんなに心が痛いのも、苦しいのも、もう味わいたくない。

 歯を食いしばって再び走り出す。



――― どうか、どうか間に合ってくれ!





*  *  *





 崖を飛び降りた甲斐あって、半日どころか1時間も掛からずにソグラスに着いた。

 商人達で賑わっていたソグラスの町は―――瓦礫に沈んでいた。



「はぁ…はぁ……間に合わなかった……?」



 崩れ落ちそうになる体を気持ちで抑える。

 まだだ! まだ皆、生きてるかもしれないだろ!?

 町の中に足を踏み入れると、そこはもう町とは呼べる場所ではなかった。家屋が片端から潰され、木々は薙ぎ倒され、そこら中に人の体の一部や肉片が転がっている。

 地獄絵図…とはこの事を言うのか…?

 そこら中に空いている大きな穴はなんだ? それに、町をこんなにした奴の姿も見えない。

 異様なまでの静けさの中を更に歩き、月岡さんの店のあった場所に辿り着く。

 店は上か巨大な何かがのしかかった様な不自然な潰れ方をしていた。気が焦っているせいか、【熱感知】でも上手く瓦礫の中が見えない。



「月岡さんっ!!」



 呼びかけるが返事が無い。



「月岡さん、居たら返事して下さい!!」



 返事を待つ間の静寂が、ジリジリと俺の精神を擦り減らせる。



「……………ぅ……」



 今、声が聞こえた!?

 慌てて店の屋根だった残骸に手を掛けて声のした辺りを探る。



――― 居た!



 頭から血を流し、意識が有るのか無いのかハッキリしない虚ろな目が俺を見る。



「月岡さん、大丈夫ですか!?」



 邪魔な屋根は仕方なく【魔炎】で燃やす。炎熱が月岡さんに届かないようにヴァーミリオンで全部吸収。よし、これで引っ張り出せるか?

 奇跡的に、落ちて来た天井の梁の隙間に入ったお陰で助かったようだ。

 強運っつうか、悪運つうか。まあ、この人はそう簡単には死ななそうだな。死神が首を取りに来ても、賄賂でも渡して追い返しそうだし。

 月岡さんの体に出来るだけ負担を掛けないように隙間から引っ張り出して、地面に寝かせる。引っ張り出す時まで気付かなかったが、右足の腿に深々と折れた木材が刺さっていた。

 俺のアホ! こう言う時の為に即効性のポーションの1つでも持って置けば良かった。

 悔いても仕方ない。とにかく、他に生きてる人が居ないか探して―――。



「……ぼ…う?」



 虚ろだった目に微かだが生気が戻っていた。



「月岡さん!?」

「……なん、や、坊……? 体、光ぅて…るで?」

「気のせいです」



 あとで意識がハッキリした時には夢だったと言おう。刻印に関しての説明は色々と面倒な事情が絡むからな。



「あかん……坊…早く…逃げ……」



 弱々しく俺の服を掴み、必死に俺を逃がそうとするが、何から逃げるんだ? ここにはもう何も居な―――



――― 振動



 地震!? じゃない、なんだ、地面の下に微かに熱量を持った何かが動いてる!?

 それでようやく理解する。

 町中に空いていた大きな穴と、引っ繰り返されたような家屋、全部地面の下のコイツがやったのか!?

 そして、俺の目の前の地面を食い破ってそいつが姿を現した。

 全長100mはあろうかと言う、圧倒的なサイズ。飛行機の胴体みたいな太さの体。蛇かと思ったら違う。地中を移動して、頭の先がパックリと割れて巨大な口になっている…つまりコイツはミミズか。

 消化液のような涎を滴らせながら、凄まじい大きさのミミズ型の魔物が俺に向かって口を開く。

 どうやら、俺と月岡さんを食おうとしているらしい。

 なるほど……。



「ミミズ如きが図に乗んなっ!!」



 ヴァーミリオンを構えて、俺は巨大過ぎる敵と対峙した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

処理中です...