無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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五十二話

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 ≪ヴァーミリオン≫を握る手に力がこもる。

 分かる。この剣が何百年かの時を経て、俺に振るわれた事に歓喜している。敵を斬った感触に身悶えするような愉悦を感じている。剣としての本分を果たせる事が嬉しくて堪らないらしい。

 コイツがインフェルノデーモンの炎の装甲を貫いて攻撃出来るのは分かっていた。分かっていたけど……あれ? コイツの能力スキルって冷気じゃなくね?

 ルビーのような美しさの片刃の刀身を睨む。光の照り返しによって、刀身の色が深紅であったり、鮮やかな赤であったり……綺麗だなー、って違う。見惚れてる場合じゃない。



「パンドラ、無事か?」

「はい。問題ありません」

「お前の言った通り本当に簡単に抜けたぞコレ」



 手元の剣を見せながら言うと、心なしかパンドラが「ドヤッ」と言う顔をした…ような気がする。



「んじゃ、仕切り直しだ。後ろは頼む」

「かしこまりました。お任せ下さい」



 前に出て広場の入り口でインフェルノデーモンと改めて対峙する。

 触手を斬られたのがよっぽど気に喰わなかったらしく、その模造品の人間の顔が怒りに満ちていた。

 本当に見れば見る程、不気味な奴。



「さあ、今度はコッチが攻撃のターンだ。文句はねえよな?」



 魔物の背でブワッと触手が広がり、それぞれが意思を持った生き物のように俺に迫る。

 逃げずに真正面から勝負して来たか。



「上等だっ!!」



 痛みの残る足に力を込めてダッシュ、触手が追尾弾のように正確に俺の動きに追従してくる。さっきまでなら、どうにか避ける方法を考えたが、こっからはコッチが攻め手だ。

 触手1本づつの動きなら大した事はない。それが束で襲ってくるから脅威というだけだ。では、この大量の触手への対処法として正しいものはなんでしょう?

 数減らせば良いじゃん!!



「はッ!」



 炎を纏った触手を斬る。立ち止まらず体を回転させて更に斬る。頭を狙う触手を斬る。体を狙う触手を斬る。足を狙う触手を斬る。斬る斬る斬る斬る、全部斬る。

 斬り落とされた触手が俺の周りで四散して、黒い魔素を撒き散らす。

 凄ぇ…!! 何が凄いって、この剣、ヴァーミリオンが凄い!! ブレイブソードを振っていた時とは、明らかに違う。月並みな言い方だが、剣が自分の手足の延長線のように感じる。

 これが、この体に合わせて最適化された剣。これが神器、これがオーバーエンド!!

 重さ、長さに始まり、重心や柄の握りに至るまで、全てが俺が最も扱いやすい状態に変化している。初めて握った剣の筈なのに、絶妙に手に馴染む。

 俺には【マルチウェポン】のスキルがあるから、武器は何を握ったって変わらない。でも、それとは別の部分の…武器との相性、とでも言えば良いのかな? そういう部分でヴァーミリオンは他の武器とは桁が違う。

 斬った数を50あたりから数えるのが面倒くさくなってのでどれくらい斬ったか分からないが、このまま触手で攻めても勝ち目がないと悟ったらしく、傷口から霧のような黒い魔素を滴らせる触手達を背中に戻す。



「どうした? もう打ち止めか?」



 軽口を訊いてやると、インフェルノデーモンの顔が更に醜く崩れる。額の角も相まって、その顔はまるで鬼だ。

 そして、その怒りを具現するかのように纏っていた炎が膨れ上がる。最初に撃ちだそうとした炎の倍はある。あの火力を叩き込まれたら、町は確実に焼け野原だ。それを悟った広場の周りに居た住人たちが「逃げろ! 逃げろ!」と騒いでいる。

 まあ、だが俺は騒ぐ必要はないし、慌てる必要もない。パンドラも俺が前に立っているからか、特に気にした様子はなく静かにそこに佇んでいる。



「いいぜ? 撃ってみろよ」



 ゆっくり近付きながら挑発する。まだ距離は10mはあるが、あれだけの火炎を纏っている奴に近付いたら普通なら灰になっている。【炎熱無効】を持っていなかったら、と想像すると背中がヒヤリとする。

 挑発をそのまま受け取ったのか、鬼の形相のまま耳障りな咆哮を上げて、膨れ上がった炎の塊を解き放つ。



「“撃てれば”…な」



 足を止めて、ヴァーミリオンを炎に向ける。



!!」



 炎が渦を巻いた。その渦がヴァーミリオンの刀身に集まる。

 渦が大きくなり、インフェルノデーモンが纏っていた炎が全て渦によって剥ぎ取られる。それでもまだ渦は大きくなる。家屋を焼いていた火を、残骸に残っていた熱を、全て渦の中に呑み込み。

 そして、その全てをヴァーミリオンが自分の胃袋に収める。

 「ご馳走様」とでも言うように、刀身が一瞬だけボンヤリと光を放った。

 そう、これがこの剣に宿っているスキル【炎熱吸収】だ。周囲にある火炎や、熱量のある全ての物から熱を奪う、完全なる炎使い殺し。



「鎧が消えてるぜ!?」



 間合いを詰めて、散々人をコケにしてくれたムカつく顔を蹴り飛ばす。鼻の部分から鼻血の代わりに黒い魔素を噴き出して、象のような巨体が2m程吹き飛ぶ。

 地面にすっ転んでる姿を見ると…すげえ、気分が良いな!!

 今まで絶対に後退する事がなかったインフェルノデーモンが後ろに下がった。正確には俺が後ろに吹っ飛ばしたんだが、話としては同じだ。

 立ち上がらないようなら、そのままトドメ刺してやろうと思ったが、触手を器用に地面に固定する事で体を持ち上げて立ち上がった。

 そして即座に炎が噴き上がってその巨大な体を包む。



「さっさと負け認めて、トドメ刺されてくれると楽なんだけど?」



 言いながらヴァーミリオンで炎を吸収する。が、相手も負けじと炎を更に作り出す。おお、頑張りますなー。

 って、あれ? なんだろ、今まで気にしてなかったけど、発火させる瞬間を見てちょっと疑問に思った。コイツ……もしかして…。

 試してみるか。

 先の千切れた触手を無茶苦茶に振り回しながら、俺に向かって突っ込んでくる。

 視界を何度も通過する触手が鬱陶しいので、炎を吸収して無防備になった所をさっさと斬り飛ばす。が、それを気にせず本体が突っ込んでくる。

 ヴァーミリオンで炎の鎧を引っぺがす。それでも止まらない。だから、頭を丸呑みするように炎を生み出して顔を燃やす。

 奇声を上げながら足をもつれさせて巨体が転ぶ。必死に炎を消そうと頭を地面に擦り付けるが消えない。俺が消してないんだから当たり前だ。

 やっぱりか。炎熱を無効に出来るのは、あの炎の装甲のお陰で、本体の方には炎熱に対しての耐性すらない。さっき体の炎を発火させる時に、体から離れた所で炎が出てたから、もしかしたら…と思ったけど。

 なんか…纏っていた炎を剥がしたら、途端に弱くなったなコイツ…。

 顔に炎をつけたまま何とか立ち上がり再び俺に向かって来る。



「その意気やヨシってか?」



 背中の触手が俺の動きを封じようと動く。今までとは違う! 触手全部を使った何百という数の暴力。コレに手間取ると、突進が捌けない。

 けど、残念。お前はもう詰みだよ!



「パンドラ! 触手は任せた!!」

「かしこまりました」



 炎の鎧の無くなっている触手ならば、パンドラの魔弾でも問題なく撃ち潰せる。

 銃口から氷を、雷を、火炎を矢継ぎ早に放ち、俺に近付く触手を燃やしたり凍らせたり圧倒的なスピードで叩き潰していく。

 うっへぇ…うちのメイドは恐いねえ…。

 頼りになる仲間に苦笑しながら、突進の加速が終わる前のインフェルノデーモンの前に踏み込み、その速度のまま額の角の間にヴァーミリオンを突き刺す。

 痛みで顔を歪め、暴れ出そうとするインフェルノデーモン。



「お前がこの町にばら撒いた炎は、返しておくぜ!!」



 巨体が暴れ始めるより早く、眉間に突き刺したヴァーミリオンの中に溜め込まれた熱量を全て開放する。

 体の内側に発生した膨大な熱量に焼かれて、瞬時に灰に―――いや、魔素に還る。



 残念だったな。炎の使い手としては俺の方が上手だったみたいだぜ? ま、コッチもヴァーミリオン有りきだけど……。



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