無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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五十一話

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 インフェルノデーモンとの戦闘再開。

 とは言っても、根本的な状況は動いていない。俺とパンドラの攻撃は通らず、敵の攻撃を回避するだけ。

 出来る限りその場に留めるなり後退させるのがベストなんだが、まったく下がってくれる気配がない。それどころか、俺達を攻撃しながらジリジリと町の奥へと踏み込んでくる。

 1度、俺達が町の外に出れば着いて来るんじゃないかと試したら、俺達を無視してズンズン進もうとしやがった。

 どうやら、コイツにとっての俺達は、町と住人を襲うのに邪魔な存在ってだけらしい。無理に倒そうとは思ってないので、俺達が道を開けたら遠慮なくシカトぶっこきやがる。

 アイツが歩くだけで町はバンバン燃えて行くし…。入口の門は元より、南通りの通りに面した家屋は殆どが黒焦げになって崩れたか、燃えている最中のどっちかだ。

 そんな家屋の残骸を踏みしめて、顔を楽しそうに歪ませながらインフェルノデーモンが更に町の奥へ…人間達の逃げた方向を目指して歩く。



「止まれっ!!」



 俺の渾身の蹴りも、炎の鎧を纏ったコイツには届かない。

 背中の触手がウネウネと蠢いて、俺を狙い撃ちにする。

 が、さっきまでならともかく、それを後ろにいるパンドラが許す筈もない。

 触手を先を器用に氷結魔法で撃って瞬間的に凍らせ(すぐに溶けるけど)、軌道をズラして俺が逃げる時間を作る。

 俺が飛びずさると、それを追って触手が伸びてくる。が、1番近い位置にある触手を俺が上に払い、それをパンドラが魔弾を3発当てて動きを封じる。これで後ろから来る触手の道を塞いでコンマ何秒かの時間が稼げる。

 これで、十分!

 俺ならその間があれば、一足飛びで距離を取れる。

 よしよし、足の痛さで機動力下がってるけど、パンドラの支援があれば全然戦える! つっても、ダメージが通らないのはどうする…? 時間稼いだって、この町の入り口はコイツが門を壊して今も残骸が燃えている南門1つだけだ、あそこから町の人間を外に逃がすのは流石に無理がある。

 だとすれば倒すしかないけど……クソ…なんでこう言う時に天才的なひらめきが俺に降りてこないんだよ!? 凡人の頭が恨めしい…。



「マスター、ご無事ですか?」

「おう。サンキューパンドラ、助かった」



 パンドラの銃射能力は凄まじい。ピンポイント射撃をあの連射スピードでやるのは、こんな状況でなかったら見惚れていたかもしれない。

 それに支援魔法を使える人間が居てくれるってのも精神的に大きい。防御力もスピードも底上げされて、ダメージ受ける前よりも上手く立ち回れる。

 って、ちょっと待て…ここもう中央広場じゃねえか!? もう町の半分まで侵攻されたって事かよ!?

 【熱感知】で周囲を確認すると、広場の周りにもコッチの様子を確認する人間が多数いた。

 ヤバい、コレ以上先は町の人間が避難してる! この広場で本気でなんとかしないと被害が洒落になんねーぞっ!?



「マスター、戦況が著しくありません」

「分かってる!!」



 いかん、ちょっと状況が悪過ぎてパンドラに八つ当たりするような語気になってしまった…。



「スマン、別にお前に怒った訳じゃないんだ」

「はい」

「にしても…こんな事ならパンドラの言う通り、さっさと武器用意しとけば良かったな」



 まあ、武器の1つや2つでこの状況が変わるかと言われるとアレだが。



「武器が必要なのですか?」

「ん? まあ、そうだな。少しは立ち回りやすくはなるかも」

「そうですか。では―――」



 何を思ったか、パンドラは広場の中心に刺さった、遠目に見たら粗大ゴミにしか見えない異様なオブジェを指さす。



「あの剣を使用なさったらどうでしょうか?」



 いつも通りの無表情。冗談…を言ってる訳ではないのか?



「は? いや、無理だろ。あれオーバーエンドだぞ? そりゃ、冷気を使うあの剣があれば状況が良くなるかもしれないけど…」

「問題はないかと。あの剣は―――」



 そして、パンドラは更に俺に理解できない言葉を吐く。



ですので」



 え? はい? 今なんておっしゃいました? あの剣が元々俺の剣? そんな訳ねーだろ。



「いや、それはねーよ」

「いえ。記憶データベースに登録されている≪赤≫の御方に用意されたオーバーエンドと、あの剣の形状が一致していますので間違いないかと」



 ≪赤≫の為に用意されたオーバーエンド? そんなもんが有るの? 初めて知ったんだけど俺。いや、でも、本当にあそこに刺さってるのが俺の…≪赤≫用のオーバーエンド…なのか?

 ズンッと大きな足音を響かせて、インフェルノデーモンが広場に入って来た。

 …っ、迷ってる時間はねえか!



「パンドラ、30秒抑えてろ!!」

「かしこまりました」



 途端に凄まじいクイック&ドローで魔弾を放つ。

 急ぐか!

 広場の中央に刺さっていた剣には見えない土と埃に塗れた黒い物体に近付く。

 後3m。コレ以上近付いた奴は、問答無用で冷気に曝されて体温を奪われるんだが…さて、どうかな。

 踏み出す。冷気は―――来なかった。寒気もない。更に一歩。やっぱりなんともない。

 剣の前に立つ。広場の周囲で町の人間達がザワついているのが分かったが、俺にとってそれは遠い場所の出来事だ。今の俺の意識は、全部目の前の黒い土と埃の塊に向いていた。

 手を差し出すと、まるで俺を受け入れるように柄の部分を包んでいた土が崩れて、美しい装飾と彫りの入った柄が現れる。

 触れた瞬間に分かった。



――― コイツは…この剣は、俺が来るのを何百年もずっと雨風に曝され、土と埃に塗れながら待っていたんだ。



 ああ、そうか。ずっと待たせちまってゴメンな。

 この広場のベンチで婆さんが言ってた。「長い年月が、この剣の名前を町の人間から忘れさせてしまった」と。世界中の人間が忘れたって、俺の中の≪赤≫がお前を覚えてる。

 分かるよ。お前が今か今かと俺が振るのを待っているのを…。



「目を覚ませ―――」



 柄を握る手に力を込めて、一気に剣を引き抜く。



「≪ヴァーミリオン≫!!」



 瞬間、剣を包んでいた全てが弾け飛ぶ。土も、埃も、空気も、熱も、何もかもが吹き飛び、そこには1本の剣だけだ残った。

 透き通るような深紅の片刃。炎を思わせる装飾の柄。

 これが、≪赤≫のオーバーエンド≪ヴァーミリオン≫。

 引き抜くや否や、刀身がシュルシュルと少しだけ縮み、若干軽くなる。何事かと思ったが、ふと月岡さんに言われた神器の説明を思い出す「所持者に合わせて進化と変化をする」って言ってたっけ。今のは、俺に…と言うかロイド君の体用に剣が変化した…のか?



「マスター!」



 パンドラの叫ぶような声。あんな声珍しいな。と、呑気に振り向くと、撃ち漏らした触手が2本迫って来ていた。

 炎を纏った触手。物理攻撃と魔法を防ぎ、俺の炎では焼く事が出来ない、俺にとって相性最悪の存在。それに向かって軽く歩きながら、擦れ違いざまに触手を“斬り飛ばす”。

 1本目が斬られて2本目の動きが鈍った。それを逃さず、踏み込んで振り下ろす刃で触手を斬り裂く。

 地面に落ちた2本の触手がビチビチと魚のように跳ね回り、まもなく魔素となって四散する。



「さてと…。んじゃ、反撃開始と行こうか」


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