無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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五十話

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 インフェルノデーモンが近付いて来る。その纏った炎に当てられて、周囲の家屋が燃えだした。

 家人はすでに避難したらしく、家の中が無人だったのは幸い。とは言え、家が燃えた一因は俺のせいです…でも、結局はこの気味の悪い奴が全部悪いので、恨むならコイツを恨んで下さい。

 屋内での戦闘はコッチに不利な要素が多い、外に出よう。と思った次の瞬間、触手が俺の開けた穴から入って来た。

 チロチロと炎を踊らせながら触手が増える。10や20じゃきかない…3桁以上ありそう…屋内でコレ全部受けるのは、どう考えても無理です。四の五の考えてもしょうがないので、反対側にあったドアを蹴破ってさっさと外に逃げる。

 追って来た触手を2本捌いてから、転がるように飛び退く。燃える家を積み木の如く壊しながら巨体が迫って来た。

 チキショウ、コッチは出来るだけ町に被害出したくねえっつうのに…!?

 さっきの突進で食らったダメージが抜け切らないせいか足が重い。暫くは派手な立ち回りは簡便して欲しいけど、敵がそんなもん気にしてくれる訳ねえよなあ。それどころか、弱点見つけたら積極的に突いてきそうだし、平気な振りして戦うしかねえな。

 突進をかわして―――と、足がガクンッと何かに引っ張られた。

 触手っ!?



――― ヤバイッ



 と思った時にはすでに手遅れ。

 ニヤけた巨大な顔が、圧倒的なパワーで足を封じられた俺を再び吹っ飛ばす。



「―――っ!?」



 食いしばった歯の隙間から血が漏れる。

 くっそ…!! マジで痛ぇっ!?

 辛うじて意識を保ちつつ、なんとか受け身を取ろうと空中で体の向きを変えようとする。が、足に巻き付いた触手がまだ剥がれていない!?

 途端に、グンッと足を引き戻される。

 おいっ、冗談じゃねえぞ!? あんなの連続で食らわされたら、それこそ死ぬ!!

 苦し紛れに本体の顔の前の空間を焼いて気を逸らす。が、それが鬱陶しかったのか、俺を大人しくさせる為に触手が軌道を変える。



――― 助かっ……



 目の前には壁が迫っていた。



――― ってねええっ!?



 なんとか顔だけはガードして、壁に叩きつけられる。盛大な土煙と破砕音を上げてまた民家の床を転がる俺。

 痛ぇ……釣り糸に付けられた重りって、こんな気分なんかなあ…。連続して衝撃を食らったせいか頭がボンヤリする。

 が、まだ終わっていない。三度触手に足を引かれて屋外に引きづり出される。

 この触手外さねえと、マジでヤバいぞ…!?

 とは言っても、触手が直に俺の足に絡まっているのではない。触手の纏う炎の鎧が俺の足をガッチリ掴んでいるのだ。引き千切ろうにも掴めないし、焼けないし、斬れないし。マジで腹が立つ程、完璧な俺の能力スキル殺し過ぎる!!

 触手を殴ってみるが、硬い岩でも叩いたような感触に遮られて、やはり攻撃が届いていない。

 どうやら俺のその行動が気に喰わなかったようで、腕を振り上げるように俺の体が一気に上に持ち上げられる。

 え!? ちょっと待って、このまま地面に行く展開ですよね、コレ!? 流石にこれ以上食らうと、この先の戦闘が辛くなりそうだから止めて欲しい……!!

 空中で触手を振り解こうともがいてみるが、全然緩む気配がない。ニョロニョロのニュルニュルの触手の癖にっ!?

 俺の努力を笑うように触手が振り下ろされ―――…るより早く、俺の足を拘束している触手が凍りつく。いや、正確には凍ってない。あくまで炎の上から氷を被せただけのような状態。

 だが、それで十分。拘束が緩んでる、これなら足を抜ける!!



「よっしゃ! 抜け―――」



 そして、今の自分の状態を理解する。空中で下に向かって力いっぱい放り投げられたのと同じ状況。

 やっべっ!? 今の体のコンディションでちゃんと受け身とれんのか俺!?

 などと考えてる間にグングン地面が近付いて来る。



――― 衝撃



 ……が来なかった。



「マスター、ご無事ですか?」

「…え? パン、ドラ…?」



 地面スレスレの所で、パンドラにキャッチされていた。



「お前、何で? 課題の方は?」

「はい。比較的浅い層に魔物が居たので問題なく。それに、外が騒がしかったので、マスターの身に危険が迫っているのではと急ぎ駆けつけました」



 ああ、そう言う事なのね。確かに、メイド服のあちこちに、戦った形跡っぽい埃が見て取れる。



「何にしても助かった。ありがとうパンドラ」

「いえ。マスターをお守りするのは私の使命です」

「それでも助けられたのは本当だからな」

「はい」

「まあ、それはともかく…もう降ろしてくれ…」



 流石に、メイドに抱っこされているのは恥ずかしい。と言うか、戦闘してるのにこの体勢は物凄く間抜けだ。

 打てば響くように反応してくれるパンドラだ。俺の要求を即座に実行してくれるだろうと思ったら、ジーッと自分の腕の中に居る俺の顔を見たまま黙ってしまった。



「パンドラ?」

「マスターの肉体への過度のダメージを確認。このままの移動を提案します」

「却下。さっさと降ろせ」



 即答。



「………」

「………何故黙る…?」

「再度提案します」

「だーかーらー…」



 無理矢理飛び降りて、着地と同時に俺達を狙って伸びて来ていた触手を横に弾く。



「却下!」



 触手がシュルシュルとインフェルノデーモンの背中に戻って行くのを確認しながら、改めて自分の状態を確認する。

 腕は…大丈夫、普通に動く。足…元々突進食らって重くなってたのに、散々引っ張られて正直結構痛い。速度2、3割減くらいは覚悟して動いた方が良いな。

 全身痛いけど、とりあえずは刻印出している間は多分大丈夫だ。でも、刻印が解除されたらその瞬間に意識飛ぶかも。あとどれくらい出していられるか分かんないから、出来るだけ早く終わらせたいな。



「パンドラ、炎耐性の魔法持ってるか?」

「はい。問題ありません」

「だったら、自分にかけとけ。あと、支援魔法あったら俺にも頼む」

「かしこまりました」



 パンドラが魔弾と通常詠唱の併用で支援魔法バフを掛け終わるのを待つ。幸いインフェルノデーモンは動いてこないが、俺が目を離したら、即座に町の奥に逃げた人達を追って走って行きそう。



「マスター、完了しました」

「おう、サンキュー。………で、だ。パンドラ、魔法でも何でも良いんだが、アイツにダメージ通せそうか?」

「先程弱点と思われる氷結魔法を撃ちましたが、ダメージは視止められませんでした。現在の私の装備での攻撃は、敵性存在に効果的なダメージは与えられないと判断します」



 氷結…? ああ、さっきの俺の足掴んでた触手凍らせたのは、やっぱりパンドラだったか。確かにあれのおかげで触手が緩んだけど、結果としてはそれだけだ。あの炎の装甲は、魔法防御も兼ねてると考えた方が良いな。

 物理、魔法はほぼ完全防御。炎熱は吸収。なんだこの万能装甲は…。



「マスター、現戦力での討伐出来る可能性は18%です。ただちに撤退を」

「四捨五入すれば2割だろ? 10回戦えば2回は勝てるならやってみる価値はあるさ。それに町の住人見捨てる訳にゃいかねえよ」

「いえ。先程の可能性は、町と人的被害を考えなかった場合です。それらの被害を最小限にして戦う場合は3%です」



 絶望的過ぎて涙もでねえ…。

 まあ、こう言う状況でもいつも通りに無表情な対応をしてくれるパンドラが頼もしく感じるってのが、今の状況の唯一の救いか。



「やるだけやってみるさ」



 そりゃあ、勝てる見込みは全然自分の中に見えてこないけどさ。

 今の俺はアークなんだ…。阿久津良太でもロイド君でもない、この世界を旅する冒険者のアーク。借り物の体と、偽物の名前で形作られた、本来は存在しない人間。でも…だからこそ、なのかな? 俺は、俺が―――アークがこの世界に居る意味を探してる。戦う事がそうだなんて思わないが、人を助ける為に戦うのなら、それが意味になるんじゃないかと思うんだ。

 この世界で人を助けるのなら、その人達を生かす為に俺がここにいて、その為に“赤”を授かったんじゃないかって。

 ………いや、グチャグチャ理由並べるまでもねえな。

 俺は、ただ助けたいんだ! この町の人達を…ではなく、俺の力で助ける事が出来る全部を俺は助けて、護りたいんだ!

 だから、ここで諦めたくない。例え勝てる可能性がたった3%だろうが、助けられる可能性があるならやる。

 それに、声は聞こえなくても心の奥底で、俺にとって1番身近で1番遠い隣人が俺に賛同してくれているのが分かる。

 込み上げてくる熱い感情のままに、心臓に触れるように胸に手を当てる。



――― ありがとう、ロイド君。



 そうだよな、忘れちゃいけない。俺は、君の姿と命も背負ってるんだ。俺は、1人じゃない…“俺達”だ。



「マスター、最後までお供します」



 両手に魔弾の込められた銃を構えて、パンドラが俺の隣に立つ。



 それに、頼りになるメイドも居るしな。





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