無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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四十九話

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 ざっけんなよ! こんな歩く放火魔みたいな魔物を、町の中闊歩させる訳にはいかねえぞ!

 だが、攻撃は通らない事実はどうしようもない。倒せないなら、足止めが最優先だ。町の人間が逃げるだけの時間はここで稼ぐ。



「町の北側へ逃げろ!!」



 誰かが声を張り上げて避難誘導を始めた。ナイスタイミング! 心の中でどっかの誰かにお礼を言ってコッチも行動を再開する。

 さて、攻撃が通らないっても相手の気を引くくらいは出来るでしょ。

 魔物の炎を浴びて燃えたバットみたいな材木を手に取る。まだ先に火が灯り、絶賛燃えてる最中。

 それを、相手の顔面目掛けてぶん投げる!



「死ねっ、オルァッ!!!!」



 顔の手前で炎に阻まれ、空中で材木が弾け飛ぶ。

 鬱陶しそうに顔を歪めて魔物が俺を睨む。町への侵攻より俺の撃退を優先させられたら上出来だ。

 狙い通りに、魔物の足が止まり、俺と戦う姿勢を取る。OKOK、それで良いんだこの野郎!



「坊主! 危ないぞ、下がれ!!」



 若干メタボ気味の鉱夫がツルハシを構えたまま俺を下がらせようとする。他にも、冒険者らしき男達がその後に続いていた。

 むしろアンタ等に逃げて欲しいんだが…。いや、でもそんな説得してる暇ねえか。だったら、いっそ一緒に戦って貰った方が良いんじゃねえ? 倒すつもりで戦うなら危険度が高過ぎるが、あくまで時間稼ぎに徹するつもりだし…だったら行けるか? 俺が前衛に立ってコイツの目を引き続ければ大分安全だろうし。



「俺の事なら心配いりません、冒険者です!」

「ぉ、おう? そうなのか、それじゃあ戦力に数えちまって良いのか!?」

「どうぞ」



 俺の言葉を聞いて、メタボさんと他の冒険者達が俺の前に出ようとするのを押し留める。さっきの二の舞はゴメンだからな。



「あの魔物の半径8mに捉えられたら死ぬと思って下さい! さっきも鉱夫らしき人達が……」



 魔物の後ろ脚の辺りに転がっている真っ黒な死体を視線で示す。

 男達の顔が青褪めて、恐怖で喉を鳴らす。このままビビって逃げてくれるなら、まあ、それならそれで良いか、元々俺1人でなんとかするつもりだったし。実際にそれでどうにかなるかどうかは、また別の問題だけど…。

 が、予想に反して男達は逃げなかった。恐怖で顔を引き攣らせながらも、それでも自分達が町を護るのだと言う覚悟の炎が目の奥に燃えている。

 こう言う人達は好感が持てる……殺させねえように気を付けないとな!



「俺が前衛に立って敵の気を引くので、遠くから魔法なりなんなりで攻撃して下さい」

「なっ!? ちょっと待て少年、いくらなんでも危険過ぎる!! あの魔物は、恐らくクイーン級のインフェルノデーモンだぞ!?」



 何そのいかつい名前。強者臭がビンビンじゃないっスか…。

 それにクイーン級って事は、魔物化した魔道皇帝と同じ、魔晶石を核にした桁外れの力を持った超上級モンスターって事ね。

 納得と同時にちょっと安心。コイツがそこらの雑魚魔物だったら、俺の能力は雑魚に封殺されるレベルだって事になっていたからな。



「俺は大丈夫です。炎系に強い体なので」



 インフェルノデーモンの背中で触手がウネウネと蠢き、そのうちの何本かが俺達に向かってビュルリと伸びて来た。

――― 速い…けど



「こっちはまだ、作戦会議中―――」



 1本目を裏拳で弾く。触手も炎の装甲を纏っているから直接触れる事は出来ないが、炎の上からでも叩けばちゃんと迎撃はくらいは出来る。

――― 皇帝の詐欺臭いスピード程じゃねえ



「―――だっつーの!!」



 2本目、3本目と連続で拳で叩いて地面に撃ち落とす。

 迎撃した触手が慌てて大きな背中に引っ込んでいく。



「ちょっと黙って待っとけ」



 俺が少し声のトーンを落として脅す。魔物に脅しが効くのかは分からないが、俺の声を聞いて魔物が怒りで表情を崩したところを見ると、一応コッチが見下したって事は伝わったみたいだ。



「え? 何今の…? 攻撃、された…?」

「いや、分からん。全然見えなかった…!」

「坊主が護ってくれた……のか?」



 ……さっきの触手の動き、見えてなかったんかい…!

 そこそこ速いとは思ったけど、刻印無しでもそれなりに余裕を持って対応できるレベルだ。コレぐらいの速度なら一般人でも反応出来るだろうと思ったんだけど、ダメだったのか…。触手、全部俺が捌いといて良かった。1本でも後ろに通してたらアウトだったな。

 にしても、判断誤った。まさか、ここまでこの人達と俺との間に能力差が有ったのは予想外過ぎる。こんだけの差があると、正直に言ってスマナイが邪魔だ。俺1人で立ち回る方が安全かつ楽だ。



「作戦変更! アンタ等はさっさと逃げて、コイツは俺1人でなんとかする!」

「いや、でも…」

「良いから!! さっさと逃げろ!!」



 年上相手に声を荒げるのもどうかと思ったが、非常事態につきそんな事を気にしてられません。

 が、それでもまだ男達は俺1人を残す事に躊躇いがあるらしく、その場から動こうとしない。勘弁しろよ、アンタ等一応戦う覚悟して来たんなら、相手との力量差測って逃げる覚悟もしてくれ! と、俺が一瞬意識を後ろの男達に向けた途端、それを待っていたかのようにインフェルノデーモンが俺に向かって走り出す。

 反応がコンマ何秒か遅れる、致命的ではないが完全に相手に先手を取られた。けど、俺なら避けるのは難しくない。が、避ける選択肢はない…いや、その選択肢は捨てざるを得ない。俺が避けたら、あの象のような巨体の突進を食らうのは後ろの男達だ。

 それにもう1つ。炎耐性を持って無さそうな男達が、インフェルノデーモンに近付いて無事でいられるのは8mまで。

 つまりどう言う事かと言うと、だ。

 後ろの連中を無事に逃がすには、あの巨体が近付いて来る前に止めなければならないって事だ!!

 クソっ、なんであんな危ないもんに自分から突っ込んでいかなきゃならねえんだっ!! コッチは1度轢かれて死んでっからトラウマ持ってんだぞ!!

 走り出す、同時に―――



「“我に力を”!!」



 刻印を出して肉体の硬度、耐久力を底上げする。これでも、あの突進を真正面から受けるのは正直かなり恐い。けど、飛び出しちまった以上、後は≪赤≫の力を信じるしかねえ。

 不気味な角の生えた男の顔が突っ込んでくる。ああ、クソ、あの顔を好きにぶん殴れたら気持ちいいだろうなあ…。



――― 衝撃!!



 炎の装甲に手を突いて、足を踏ん張る。

 クソ、スピードが緩んだが、止まらない―――…!?



「早く、逃げろ!!」

「でも―――!?」

「居ると邪魔!! さっさと行け!!!」



 建前も何もあったもんじゃない。が本当の事なんだからしょうがない。

 俺の怒り混じりの声を聞いて、ようやく皆逃げてくれたけど…。さてさて、残った俺はどうしたもんかな…。

 とか思っていたら、横合いから触手にぶん殴られた。



「――ッつ!?」



 そこまでの痛みじゃない―――とか余裕こいたら、2本目の触手に腹を殴られる。



「ぇ…」



 続けざまに3本目、4本目、5、6、7……ちょっ、一発一発は耐えられるって言っても、絶え間ない連続攻撃はマズイッて…!?

 巨体を抑えていた手が緩む。

 その瞬間―――、インフェルノデーモンが足に込めていた力を開放して、俺に体を叩き付ける。全身がビキビキと軋みながら後ろに吹っ飛ぶ。

 背後にあった家屋の壁を破壊して、気付いたら家の中の床に寝ころんでいた。

 体、超痛ぇ……。刻印出してなかったら、今の一撃で致命傷だったかも。パワーだけなら皇帝の上を行ってるな……。

 ったく、堪んねえよなあ…コッチの攻撃は通じないっつーのによ。

 瓦礫をどけて立ち上がる。

 砕けた壁の向こうで、俺にトドメを刺そうとインフェルノデーモンがニヤリと薄気味悪い笑いを浮かべていた。





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