無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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五十七話

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 何も無い空間に、銀色の髪の少年がポツンと浮いている。

 ああ、またここか…。



――― お久しぶり、と言う程でもないですね?



 そうだな。まあ礼儀として一応お久しぶりロイド君。



――― はい、お久しぶりですリョウタさん。



 ダメージ受けて体が弱ってる状態だとこうやって話せるんかな?



――― どうでしょう? 僕は普段外の状況はボンヤリとしか認識していないのでなんとも……。



 まあ、良いや。こうして話せるんなら丁度いい。ちょっと体の本当の持ち主として相談に乗って欲しいんだけど?



――― なんですか?



 俺…と言うか、君の体が旅に出ているのは分かってるだろ? ……それで、率直に聞くけど…この旅、続けて良いのかな?



――― どう言う意味ですか?



 いや。今回さ、俺のせいで関係無い町や人が巻き込まれて…この先もこんな事が起きるんじゃないかと思ったら怖くなっちまってさ………。



――― じゃあ、止めましょうか?



 軽いなっ!? 良いのか、それで。旅を止めるって事は、この体を君に返す方法が見つかる可能性が激減するって事だぜ?



――― ええ。でも、怖いんでしょう?



 ……まあ、そうだけど…。



――― 今の僕は、見て聞く事も満足に出来ませんから、リョウタさんの決定を尊重しますよ。



 尊重しますって……。



――― でも、それで解決できないって分かってるから、こうやって相談しているんでしょう? 旅を止めたところで、あの≪赤≫を狙ってるらしい人…人達かな? が諦めてくれる訳ではないですし。



 だよなぁ…やっぱり。いっそそいつ等に≪赤≫を渡しちまえば……とも思ったけど、それをやったら今度は≪赤≫の力が関係無い人達に牙を剥くかもしれないし…。



――― そもそも譲渡の方法は無いと思いますよ…多分。



 ですよね~。そんな方法があるなら、力付くじゃなくて口で騙して奪うなりなんなりしそうなもんだし。



――― ………だったらもう、戦いましょう!



 戦いましょうって……町や人を巻き込む事を覚悟の上でって事か?



――― はい。でも、巻き込んで死なせる覚悟じゃありません! 巻き込んだ人を、全部護る為に戦うんです!



 言う程楽じゃない……けど、俺もやっぱりその結論かなあ。でも、その為には強くならねえと。それこそ、あの仮面を着けた≪黒≫くらいに…いや、アイツもソグラスは護れなかった…だから、目指すのはアイツよりも、もっともっと上だ!!



――― その意気です。では、頑張って下さい!



 ………他力本願……君は基本的に何する人なの…。



――― 心の奥底の方で応援してます!



 ちゃっかり者って言うか、しっかり者って言うか……うん、君…良い性格してるよね…。





*  *  *





 目を覚ますと、月の綺麗な夜空だった。

 ……あれ? そう言えば、あの夜空に浮かぶ丸いのは月か? 違くね? 月は地球の衛星を呼ぶ名前であって、異世界の空に見えるアレは全くの別物じゃね?



「坊、目ぇ覚めたか?」



 黒髪の猫っぽい目の女性が俺の顔を覗き込んで来た。

 瓦礫の下じゃゾンビみたいな顔と色だったのに、俺が意識を失った後で誰かに治療して貰ったのか光量の乏しい夜の闇の中でも分かるくらい顔色が良かった。



「月岡さん、空に見えてるあれって月じゃないですよね?」

「起きがけなんや? そうやね、月とちゃうんちゃう? ウチも苗字に月の字入っとるから、ちょっと寂しいな」



 この人の口から寂しいなんて単語が出るとは世も末だ。きっと世界が滅ぶ前兆だろう…ソグラスが滅んでるから洒落にならんな……このギャグは自粛しよう。



「無事? …っぽいですね」

「疑問符つけんでもちゃんと無事や。足の方はまだ自由に動かんけど、ごっつぅ高いポーション使ぅたお陰で、そのうち今まで通りに動くようになるて。コッチの世界は本当に便利やなぁ」



 そう言ってケラケラ笑う。

 余裕だなこの人は。本当に殺しても死ななそう、履歴書があったら是非“不死属性”とか書いてやりたい。

 体を起こすと、痛みも疲れも綺麗さっぱり無くなっていた。ついでに服の破れや汚れも消えて万々歳。【回帰】スキルは、死なない限りは元通りにしてくれる…まあ、ダメージ度合いでかかる時間がまちまちだけど…それを抜きにしても超便利で、大変頼りになります。



「にしても、坊。アンタ、あんな山みたいな化物倒すなんて、本当に何者なん?」



 山みたいなって…ああ、あの無駄に大きいミミズか。そういや、アイツと戦った時、後ろに月岡さんが居たんだっけ。



「見てたんですか? てっきり気を失ったと思ってたのに」

「そら起きるて! あんな怪物が出たら寝てた頭も起きるっちゅうねん! しかも、その怪物をこんなチンコイ坊が秒殺してしもうたんやで!? 寝てられるかぃっ!?」



 秒殺…って言う程のスピードじゃなかったと思うけど……。まあ、それでも5分以内には片が付いたか。



「坊、見かけによらず強いんやなあ、ビックリしたわ!」

「……魔物に勝てても、ソグラスは護れませんでしたけどね……」

「坊…」



 自嘲めいた笑いを浮かべると、スパーンっと良い音をさせて背中を叩かれた。



「痛ってぇ!? 何すんの!?」

「そら、今回の魔物の襲撃でソグラスはボロボロや。けど、まだ終わっとらんよ? ほら、見てみい」



 言われて辺りを見ると、瓦礫の上で人々が固まって食事を取ったり、治療をしたりされたり、体を拭いたり拭いて貰ったり…たくさんの人が、並べられた大きな鍋と照明用の魔導器を囲んでいた。その中に、傷を負ってはいるが元気そうな見慣れた冒険者2人組を発見。



「皆まだ生きとる。死んだ人間もいっぱい居るけど、少なくともここに居る人間は坊が駆けつけてくれて、あの化物ワームを倒してくれたから生きとるんや。自分のやった事に胸張りや! アンタがやった事は、間違ってないし、手遅れでもない。皆が坊に感謝しとるんやで? それやのにアンタ自身が後悔するなんておかしな話やん?」



 俺が護った人達。

 俺がした事は間違いじゃないし、手遅れでもない。ましてや後悔するする必要もない。月岡さんは俺の“本当の”事情を知らないし、なぜソグラスが魔物に襲われたのかも知らない。でも……それでも、この人の言葉が、今の俺にとってどれ程の救いだったかは、自分でも言葉に出来ない。正直、この場で泣かないように堪える事が俺に出来る男の意地だった。

 泣きそうなのを誤魔化す為に勢い良く立ち上がる。



「どうしたんや急に?」

「町の中見回ってきます。俺なら瓦礫の下に居る人も見つけられるし、町の周りの防壁も無いから魔物が居たら始末してきます」

「あはははっ、なんや? 急に働き者やんか?」



 俺が今出来る事をしよう。

 何が出来るかは自分でも分からないけど、思いつく全てをやってみよう。後で後悔しないように。

 おっと、見回りに出る前にもう2人、挨拶しておかないとな。



「アルトさん、レイアさん!」



 体と足に痛々しい傷が残るアルトさんと、右腕を添え木と共に首から釣っているレイアさん。2人とも無事とは言い難いけど、全然ピンピンしていて安心した。



「アーク君! 目を覚ましたのね、良かったー」

「いやー、また君に助けられちゃったな? 冒険者の先輩として情けないが、正直あんな巨大な相手とは戦った事が無かったから、どうやって戦えば良いのかも分からず吹っ飛ばされてこの様だ」



 ガハハと腹の傷を見せながら言うと、傷に響いたのか顔をしかめる。



「ミルイさんから聞いたわ。アーク君があの超巨大なワーム型の魔物を倒したって」

「凄いよなぁ。あんなのどう考えてもクイーン級以上だろ? それを倒しちまうなんて、アーク君なら9人目のクイーン級冒険者になれるかもしれないな」

「9人目のクイーン級冒険者?」

「ああ、そっか覚えてないわよね? クイーン級の冒険者は白と黒合わせて世界中でたった8人しか居ないのよ。その上のキング級に至ってはたった2人」



 冒険者の人口がどのくらいなのかは分からないが、世界で8人って事は物凄い狭い門だって事は理解できる。



「いやー、でも本当にアーク君がクイーン級になったら、ミルイさんも鼻が高いだろうなあ?」

「はい?」



 なんでそこで月岡さんの鼻が高くなるの? 同じ世界出身の人間が活躍したらって意味なら分かるけど…この2人は俺等が異世界人だって知らないよな?



「え? だってミルイさんが言ってたわよ? アーク君は弟分で、自分の言う事ならなんでもきく都合の良いパシリだって……パシリって何かしら?」



 ………なるほど…。

 やっぱりあの女は信用しちゃいけないな、うん。

 固く心に誓った。





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