無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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六十話

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 ヴァーミリオンは鞘に収まり、ベルトで腰に提げて準備完了。荷物をまとめて、さあ出発だ! と気合いを入れてみたは良いけど……2日かけて山道をまた降るのかー…と思うと途端に気が重い。

 とは言え、パンドラと一緒だしテンション下げてる訳にもいかねえな。



「んじゃ、行くか?」

「はい」



 無表情にコクンッと頷くパンドラを連れて門の残骸の横を通り過ぎようとしたところで、背後から呼び止められる。



「アークさん、アークさん待って下さい!」

「ん?」



 振り返ると、ソグラスでの救出作業を手伝ってくれたどっかの町の冒険者の女性だった。作業しながら少し話をしたけど、確か北東の大陸の出の人で、魔法の腕1つで生計を立てる為に冒険者になったって言ってたっけな?



「良かったー、まだ居ました」

「どうかしました?」

「今からソグラスに戻るんですか? 山を降りようとしてたって事はそうですよね?」

「ええ。そうですけど?」

「それなら、送って行きますよ私! 短距離転移魔法ハーフ・ポータル使えるので、任せて下さい!」

「そりゃ有り難いですけど、良いんですか?」

「えへへ~、実を言うとですね、アークさんの今後の可能性を見越して恩を売っておきたいんですよ~」



 今後の可能性ってなんだ…? 強さ的な可能性ってんなら、先見の明がある。これから俺は、もっともっと強くなる予定だからな。



「そう言う事なら、貸し1でお願いします」

「はいは~い、返す時には10倍返しでお願いま~す」



 楽しそうに、とんでもねえ利子を吹っ掛けられた。



「あっ、でも、アークさん今は可愛いですけど、大きくなったら絶対格好良くなりますよね~。なんなら、体で払ってくれても良いんですよ~」



 是非その支払い方法でお願いします!(キリッ

 とか言いたいけど、この体ロイド君のものだからねえ、そう言う事を勝手にさせる訳にはいかないんですよ…。イリスに知られたらマジでシバキ倒されそうだし……。と言う訳で、この申し出への答えは、愛想笑いで適当に流す。

 が、それをする前にススッとパンドラが俺達の間に立つ。



「その提案は却下します」

「な、何よ~貴女は…」

「マスターの生殖行為は、世界にとって大きな意味を持ちます。ですから、その相手は私が正しく管理させ――――」

「パンドラ、黙って……」

「はい」



 無表情のまま、俺の斜め後ろの定位置に戻る。

 生殖行為てお前………。恥ずかしいとか、そういう感覚とは別に……何だコレ、ちょっと部屋に引き籠りたい…。



「コイツの事は気にしないで。まあ、借りについては返す機会があったらキッチリ返しますよ」

「は、はぁ…」



 納得し切れてない顔。だけど、コレ以上突っ込まれるとまずい事になる。主に俺の精神的なダメージの意味で……。

 この話はさっさと打ち切って転移魔法で送って貰おう。





*  *  *





 パッと帰って来る。うん、ホントにパッと一瞬だな……。今後の為にも、どっかで転移魔法使える人間に仲間になって貰おうかな…。まあ、出来るだけ俺の旅に人を巻き込まないって根っ子があるから、相当人を選ぶけど。

 送って貰った冒険者の女性には丁寧にお礼を言い(去り際に借りは返せと念押しされた…)、未だ瓦礫の下から遺体や使えそうな物資を掘り出しているソグラスを、パンドラを連れて歩く。

 この有様を見たらパンドラも何かしら反応するかと思ったが、気にした様子もなくいつも通りの無表情で、この感性の薄さはやっぱり機械なんだな…とちょっとだけ悲しくなる。

 それはともかく、約束通りに月岡さんの所に向かう。

 怪我人の集められた急ごしらえの救護所に行ったところ、自分の店の様子を見に行ったと聞いてそっちに足を向ける。

 様子を見に行くって、あの足で行くのは危なくないか? 店の方だって、助け出す時に俺が屋根を焼き落としてるし正直かなり不安だ。

 あっ、居た!!

 瓦礫の中に体を半分突っ込んで、何かを探しているみたいだが、それを目にしたコッチは危なっかしくてハラハラものです。



「月岡さん!?」

「ん? 坊? もうちょい待っとき! もう少しで―――くっぬ、もう少し…」



 瓦礫の下に腕を突っ込んで、危ないよこの人!? 今瓦礫崩れたら、腕がミンチになるぞ!?



「ちょっ、危ないですよ!?」

「心配いらん! こんな事で死ぬほど軟い生き方しとらんわっ!!」



 なんでそんな死亡フラグくさいセリフを吐くのか…。

 その時、ガタンっと瓦礫の一部が傾いて崩れる。



「ぎにゃああああああっ!!」

「ほら見た事かあっ!?」



 慌てて助け出そうと走り寄ると、何事もなかったように瓦礫から手を抜く。



「ビックリしたか、坊?」



 ニヤニヤしながら、瓦礫に突っ込んでいた切り傷1つない手をヒラヒラさせる。



「アンタは1度本当に痛い目に遭えば良いんだ…」



 冗談にしたってたちが悪い。ってか、この人1度痛い目に遭ったのに全然変わってないじゃん……。バカは死んでも~に通じる、処置不能さを感じるな。



「なんや、坊の為に足動かんのに頑張ったんやで? ほれ」



 さっき瓦礫から引っ張り出した包みを押し付けられる。



「何すかコレ?」

「言うてたやろ? 坊へのプレゼント」



 ああ、そういやスッカリ忘れてた。借用書か差し押さえの催促状とか叩きつけられると思ってたから、普通のプレゼントっぽい包みを貰って本当に驚いてしまった。

 包みを開くと、鮮やかな赤が広がっていた。



「おぉ、パーカーだ!!」



 真っ赤なパーカー。コッチの世界の染色技術では、ほぼ再現不可能な綺麗な赤。

 あ~、このポリエステルの安い肌触り、凄ぇ懐かしいー!!



「どうしたんですか、これ?」

「どうしたも何も、それはウチがコッチに来た時に着てた奴や。女物やけど、坊の小っこさやったら問題ないやろ」



 試しに荷物を降ろして袖を通して見る。

 うぉ…自分でもヒくぐらいピッタリ…。あ~、この着心地本当に懐かしい~! ヤベエな、テンションが無駄に上がる。



「坊は、コッチの衣服に妙に着辛そうな感じがしたからな。どや、このウチのプレゼントのセンスは?」

「最高ですね! 俺、始めて月岡さんの事尊敬しました!」

「始めてて……アンタ、本当にウチの事なんやと思てん…」



 闇金の取立て屋。と口をついて出そうになった言葉は呑み込む。折角こんな良いプレゼントを貰ったんだから、相手を怒らせるような言葉は慎もう。



「でも、アレやで? ウチの服やからって、匂いを嗅ぎながらイケナイ事とかしたらアカンよ?」

「…………それはねーよ…」



 つい真顔で答えたら、全力で右ストレートを叩き込まれた。



「ああ、そうそう。言い忘れてたんやけど。坊、指輪の神器にちゃんと名前付けたんか?」

「名前……?」



 痛む右頬を擦りつつ、心配そうに手を伸ばして来たパンドラに「大丈夫だから」と返す。



「神器は名前を付けんと力を発揮出来んねん」

「へぇ~」



 って、事は…俺の首から下げてるこの指輪の神器は、今は全く力の無い役立たずだったと……。



「先に教えといてよっ!?」

「しゃーないやん、今思い出したんやから」



 くっ……この人に怒ってもしょうがない。と言うか、このタイミングでも教えて貰えただけでも感謝しよう…プラス思考プラス思考…。

 しかし名前かぁ。パンドラに続き、なんか良い感じの名前が閃いてくれれば良いんだが…うーん、良い名前が天から降って来ないな…。



「名前、悩んでるっぽいな坊?」

「まあ…そうですね。元々、名付けとかあんま得意じゃないんで…」

「それならウチが素敵でびゅーてぃふるな名前をプレゼントしたる! 名付けて、月の涙ムーンティアや!」



 月の涙ね。悪くない名前だ。そう、悪くはない…けど…誰かさんの名前を彷彿とさせる気がするのは気のせい、じゃないですよね?



「どや? ウチの美しさと清らかさが詰まった究極の名前やろ」

「美しさと清らかさを辞書で引いてから同じセリフを言って下さい」

「美しさ、人の五感や心に響く物。清らかさ、けがれなく清純な様。です」



 パンドラの説明を聞くや否や、無言のまま飛んで来た右のコークスクリューをヒョイッとかわす。

 まあ、でも名前はコレを貰うか。他の考えるの面倒くさいし…。



「名前の善し悪しは置いといて、その名前頂きます」

「置くなやっ!? 最高のネーミングやろがっ!!」



 ダンダンと全力で地団太を踏む。足怪我してるのに痛くないんだろうか…? あっ、プルプル震えてる、やっぱ痛かったのか。

 まあ、この人の癇癪は置いといて、黒いナイトの駒クラスシンボルと一緒に、俺の首にぶら下がっている指輪に触れる。名前を決めたからって、何か変化がある訳じゃないのか…? と思った途端に、指輪の灰色が剥がれ落ち、徐々に鏡のような滑らかな銀色に変わって行く。指輪の全体が銀色に塗り替えられると、波のような彫りが入り、その波の集まる所に三日月の装飾。そして、三日月の欠けた部分を埋めるように涙色の小さな宝石…サファイアがはめられている。

 おお、ちゃんと名前を体現した姿になった。

 これで、正真正銘俺の神器になったって事か。これからこの≪月の涙≫も変化と進化を繰り返して、ヴァーミリオンの【炎熱吸収】のようなスキルを生み出して行くのか?



「ほうほう、名前付けるとそんな風に変わるんやな? ウチも神器が変化するところは始めてみたわ」

「まあ、でも。今はまだ、ただの指輪ですけどね」



 武器や防具ならともかく、指輪だからねえ。装備しただけでステータスアップなんてゲームの話ですよ。実際はただ綺麗なだけの装飾品ですから。



「心配すな坊! なんたってウチが名付け親やからな、きっとものゴッツイ能力を秘めとるで!?」



 ……この指輪が、そのうち呪いの指輪にならない事を祈ろう…。名付け親がコレだからなあ……。

 まあいっか…、そうなった時はそうなった時だ。



「それじゃ、貰う物貰ったんで、そろそろ行きますね」

「なんや、もうちょいユックリして行けばええやん?」

「ユックリするのは、復興が進んだ後の楽しみに取っときますよ」



 俺を狙った襲撃を警戒して町から離れたいってのはあるけど、それと同時にここから先は案内無しのガチの旅になるから、陽の高いうちにさっさと進んでおきたいってのもある。



「そか? そんならしゃーないわ。坊も色んな町に行く度に“渡り鳥”なんて呼ばれるやろうけど、挫けんでがんばるんやで」

「渡り鳥?」

「ああ、なんや知らんかったん? 色んな場所を渡り歩く冒険者の事を、同業者が蔑称として“渡り鳥”って呼ぶんや」



 ああ、そう言う事。

 渡り鳥…ね。良いじゃないの、蔑称だろうが響きが好きだ。



「良いじゃないですか。蔑称上等、いっそコッチから名乗ってやろうかな?」



 差し詰め俺は、≪赤≫の渡り鳥ってところか? 着てるパーカーも赤いし、腰の剣も深紅だし、そのうち全身赤くなったりしてな。……冗談に聞こえない…、全身赤コーディネートとかにならないように気を付けよう…流石に悪趣味だ。



「あっはっは、ええやん坊、その意気や! 気を付けて行くんやで?」

「どうも。それじゃ、お世話になりました」

「ええよ、ギブ&テイクや。それとパンドラ、アンタ、坊の事頼むで? なんや、放って置くと危険の中に突撃して行きそうやからな」

「かしこまりました」



 俺に対してするように、無表情のままペコリと頭を下げる。



「行こう、パンドラ」

「はい」



 月岡さんと、見知った町の人や、アルトさんレイアさん達冒険者の皆に手を振られながら、瓦礫に沈んだ町を後にして外の世界に歩き出す。





*  *  *





 曰く――― クイーン級の魔物でさえ焼き尽くす、焔色の装束を纏った凄腕の炎使い。

 曰く――― 音より早く魔法を放つ、氷のようなメイド。

 

 ダロスとソグラスで発生したそんな2人の話は、静かにアステリア王国中に広がる事になるが、それは当人達の知るところではない。





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