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サイールの告白
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「レナ嬢、どうかしたか?」
魔法局に久しぶりに顔を出したレナは、ひどく顔色が悪かった。
サイールが心配そうにレナの顔を見つめる。
魔法を作り上げ、魔法局に登録した後は、サイールとレナが関わることなど皆無だった。
会う必要性もないからだ。
会えなくなったことで、サイールは、寂しい気持ちと言うのを理解した。
ほのかに抱いていた気持ちが、レナへ恋心だと自覚するより他なかった。
だが、レナは次期王妃。
サイールの恋心が叶うことなどあり得ない。だから、きつくふたをしたばかりだった。
「ジャイ先生のところで、お茶を貰おう」
サイールの提案に、レナがコクリと頷く。
「何も聞かない方がいいかな?」
サイールは、どうしてレナがショックを受けている様子なのか、知りたかった。
だが、いずれ王妃になる彼女のことだ。もしかすると、誰にも言えない秘密なのかもしれない。
だから、無理やり聞くことなどするつもりはなかった。
ただ、ショックを受けた状態で、サイールを頼ってくれたことが、何よりも嬉しかった。
レナは、答えずに目を伏せた。
**
「どうぞ。レナ様。気持ちが落ち着くお茶にしたわ」
ジャイも、心配そうにお茶を出す。
「ありがとうございます」
以前とは違う、弱々しいお礼に、ジャイはサイールを伺う。
サイールが首を小さくふると、ジャイは頷いて、離れていった。
「温かいうちがいいと思うよ。このお茶は、冷めるとひどくまずいんだ」
後半をヒソヒソと告げたサイールに、レナが少し口元を緩める。
「では、いただきます」
優雅な動作でカップを口元に運ぶしぐさは、いつ見ても美しい。
レナの動きを見つめていたサイールに気づいたレナが、首を傾げる。
「大丈夫です。少し、落ち着きました」
どうやら、サイールが自分に見惚れているわけではなくて、心配しているだけだと思っているらしい。
伝わらない気持ちに、サイールは仕方がないことだとわかっていても苦笑する。
「落ち着いたんならいいんだ」
それ以上追及してくる様子のないサイールに、レナは頼った先がサイールで良かったのだと思う。
「サイールさんと会えるのも、今日が最後かもしれません」
レナは目を伏せる。
「どうして? また、今日みたいに遊びに来ればいい」
サイールの言葉に、後ろに控えるジャイも頷く。
レナは嬉しい気持ちで微笑みながら、首を振った。
「私は、国外追放されてしまうのです」
「え?」
あまりにも荒唐無稽な話に、サイールは何を言われたのか理解できなかった。
「私は、卒業パーティーで断罪され、王太子の婚約者の身分をはく奪され、国外追放されるのです」
「断罪? 一体、何を?」
驚いた様子のサイールに、レナはハッとする。
本当は口にするつもりはなかったのだ。サイールに甘えすぎているし、まだありもしないことを言ったところで信じてもらえるはずがない、とレナは自嘲する。
「ごめんなさい。変なことを言って。今言ったことは忘れてくださいませ」
レナは首を振って、お茶に手を伸ばした。
既に話はゲーム補正されてしまっている。マリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢は、既に王太子に取り入っており、レナはやってもいないのに、既に悪行で王太子に責め立てられている。
何もしていないと証明できるのは、録画したものだけではない。その時に一緒にいた友人たちだっている。
なのに、その友人たちが証言しようとすると、彼女たちの動きがフリーズするのだ。
その状況に、レナは愕然とした。
そこまでゲーム補正が強力なのだとは、思ってもみなかったからだ。
だから、この先の結論が変わることはない。
誰かに助けを求めたところで、意味はないし、変な話をする奴だと思われるだけだ。
レナは、サイールに“変な奴だ”と思われるのは、嫌だった。
だから、言うつもりはなかったのだ。
「レナ嬢。どういうことか説明してくれ」
サイールの促しに、レナは首を振った。
「聞かなかったことにしてくださいませ」
サイールは頷いてはくれなかった。
「今、私が聞いたことが本当だとしたら、私は、レナ嬢と一緒に国外に出る」
「え?」
レナは戸惑う。
「ちょうど、他の国から引き抜きを受けている。その国に一緒に行けばいいだろう?」
なるほど、とレナは納得する。それに、サイールの言葉が、嬉しかった。
「お気遣いありがとうございます。……信じて下さるんですね」
「気遣っているわけではない。レナ嬢が次期王妃にならないのであれば、私と共にいて欲しいんだ」
予想外のサイールの言葉に、レナは目を見開いた。
「ですが……」
「……私のことは、嫌いかな?」
レナは首を振れなかった。サイールの表情が明るくなる。
「じゃあ」
「いえ。ダメですわ」
レナは首を振った。
「なぜ?」
「……私は王太子殿下の婚約者なのです。そんな約束は、できませんわ。最後まで清廉潔白でいたいのです」
諦め気味のレナだったが、最後の最後までゲームの流れに抵抗しようと決めていた。
サイールは、レナの決意を見て頷いた。
「もう変なことは言わないから、いつでも、私を頼ってくれ」
レナは微笑むだけで、頷くことはなかった。
完
魔法局に久しぶりに顔を出したレナは、ひどく顔色が悪かった。
サイールが心配そうにレナの顔を見つめる。
魔法を作り上げ、魔法局に登録した後は、サイールとレナが関わることなど皆無だった。
会う必要性もないからだ。
会えなくなったことで、サイールは、寂しい気持ちと言うのを理解した。
ほのかに抱いていた気持ちが、レナへ恋心だと自覚するより他なかった。
だが、レナは次期王妃。
サイールの恋心が叶うことなどあり得ない。だから、きつくふたをしたばかりだった。
「ジャイ先生のところで、お茶を貰おう」
サイールの提案に、レナがコクリと頷く。
「何も聞かない方がいいかな?」
サイールは、どうしてレナがショックを受けている様子なのか、知りたかった。
だが、いずれ王妃になる彼女のことだ。もしかすると、誰にも言えない秘密なのかもしれない。
だから、無理やり聞くことなどするつもりはなかった。
ただ、ショックを受けた状態で、サイールを頼ってくれたことが、何よりも嬉しかった。
レナは、答えずに目を伏せた。
**
「どうぞ。レナ様。気持ちが落ち着くお茶にしたわ」
ジャイも、心配そうにお茶を出す。
「ありがとうございます」
以前とは違う、弱々しいお礼に、ジャイはサイールを伺う。
サイールが首を小さくふると、ジャイは頷いて、離れていった。
「温かいうちがいいと思うよ。このお茶は、冷めるとひどくまずいんだ」
後半をヒソヒソと告げたサイールに、レナが少し口元を緩める。
「では、いただきます」
優雅な動作でカップを口元に運ぶしぐさは、いつ見ても美しい。
レナの動きを見つめていたサイールに気づいたレナが、首を傾げる。
「大丈夫です。少し、落ち着きました」
どうやら、サイールが自分に見惚れているわけではなくて、心配しているだけだと思っているらしい。
伝わらない気持ちに、サイールは仕方がないことだとわかっていても苦笑する。
「落ち着いたんならいいんだ」
それ以上追及してくる様子のないサイールに、レナは頼った先がサイールで良かったのだと思う。
「サイールさんと会えるのも、今日が最後かもしれません」
レナは目を伏せる。
「どうして? また、今日みたいに遊びに来ればいい」
サイールの言葉に、後ろに控えるジャイも頷く。
レナは嬉しい気持ちで微笑みながら、首を振った。
「私は、国外追放されてしまうのです」
「え?」
あまりにも荒唐無稽な話に、サイールは何を言われたのか理解できなかった。
「私は、卒業パーティーで断罪され、王太子の婚約者の身分をはく奪され、国外追放されるのです」
「断罪? 一体、何を?」
驚いた様子のサイールに、レナはハッとする。
本当は口にするつもりはなかったのだ。サイールに甘えすぎているし、まだありもしないことを言ったところで信じてもらえるはずがない、とレナは自嘲する。
「ごめんなさい。変なことを言って。今言ったことは忘れてくださいませ」
レナは首を振って、お茶に手を伸ばした。
既に話はゲーム補正されてしまっている。マリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢は、既に王太子に取り入っており、レナはやってもいないのに、既に悪行で王太子に責め立てられている。
何もしていないと証明できるのは、録画したものだけではない。その時に一緒にいた友人たちだっている。
なのに、その友人たちが証言しようとすると、彼女たちの動きがフリーズするのだ。
その状況に、レナは愕然とした。
そこまでゲーム補正が強力なのだとは、思ってもみなかったからだ。
だから、この先の結論が変わることはない。
誰かに助けを求めたところで、意味はないし、変な話をする奴だと思われるだけだ。
レナは、サイールに“変な奴だ”と思われるのは、嫌だった。
だから、言うつもりはなかったのだ。
「レナ嬢。どういうことか説明してくれ」
サイールの促しに、レナは首を振った。
「聞かなかったことにしてくださいませ」
サイールは頷いてはくれなかった。
「今、私が聞いたことが本当だとしたら、私は、レナ嬢と一緒に国外に出る」
「え?」
レナは戸惑う。
「ちょうど、他の国から引き抜きを受けている。その国に一緒に行けばいいだろう?」
なるほど、とレナは納得する。それに、サイールの言葉が、嬉しかった。
「お気遣いありがとうございます。……信じて下さるんですね」
「気遣っているわけではない。レナ嬢が次期王妃にならないのであれば、私と共にいて欲しいんだ」
予想外のサイールの言葉に、レナは目を見開いた。
「ですが……」
「……私のことは、嫌いかな?」
レナは首を振れなかった。サイールの表情が明るくなる。
「じゃあ」
「いえ。ダメですわ」
レナは首を振った。
「なぜ?」
「……私は王太子殿下の婚約者なのです。そんな約束は、できませんわ。最後まで清廉潔白でいたいのです」
諦め気味のレナだったが、最後の最後までゲームの流れに抵抗しようと決めていた。
サイールは、レナの決意を見て頷いた。
「もう変なことは言わないから、いつでも、私を頼ってくれ」
レナは微笑むだけで、頷くことはなかった。
完
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