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番外編:2か月半と1週間後

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「ねえ、赤ん坊って……ヒトの形で生まれてくるの? それとも狼の形なの?」
 素朴なルーナの疑問に、狼の姿のイリューは心の中で微笑む。
『どちらがいい?』

 うーん、とルーナが考え込む。
 ルーナは狼の姿になったイリューの体に自分の体を預けて、無意識なのかイリューの毛並みを撫でる。喉元をなでられたイリューが、気持ちよさそうに目を細める。
「そうねぇ。小さな狼もかわいいだろうし……でも、ヒトでもかわいいと思うの。正直、どっち、って決められないわ。でも、どちらで生まれてくるのかは、決まっているのでしょう?」
 どっちでもいい、それは、ルーナの正直な気持ちだった。

『実は、知らないんだ』
「え? そうなの?」
 ルーナがイリューの答えに目を丸くする。
『そもそも、子供は一人くらいしか生まないからな。他に生まれるところを見るチャンスがない』

「そっか。それなら、知りようがないわね」
 ルーナのイリューを撫でる手は、喉元からお腹に移動する。ルーナが触りやすいように、イリューの体がやや仰向けになる。
『だから、どんな風に生まれるのか、私も楽しみだ』
「そうね。楽しみね」
 
 ふふ、と笑うルーナは、本当に幸せそうだ。瞳が暖炉の火を映してキラキラと輝いていて、頬もバラ色にほんのり染まっている。
 初めてイリューが見つけた時のルーナとは、全然違っていた。
 小さな幸せを積み重ねてきた結果だと、イリューは思う。

 ふいに、呪いが二つ消えたことに気付く。
 残っていた呪いは二つ。そして、それが唐突に消えた。それは、二人が同時に命を落としたことを示していた。
 残っていたのは、ルーナの元婚約者の両親だ。例えそそのかされたからとは言え、命を奪う行為に手を貸したことに違いはなかった。
 どうやって命を落としたのか、それについては、もう興味はなかった。
 
 イリューは気にしていないつもりだったが、それでも、肩の荷が下りた気がした。
 
 柔らかなルーナの手が、イリューのお腹を何度も往復する。
 ルーナがイリューのお腹の手触りを楽しんでいることは間違いなかった。
 この幸せな満ち足りた時間を、この先もずっと重ねていきたいと、イリューは思う。

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