騎士団副団長様(腹黒)の溺愛回避方法を教えてください!

三谷朱花

文字の大きさ
46 / 74

46

しおりを挟む
「働く女性は増えたんだろう?」

 王太子はライの言葉に即答はしなかった。

「以前に比べれば。ですが、結婚し妊娠すればその権利は簡単に奪われます」
「…それは、仕方がないだろう。女性には子供を産み育てるという大事な仕事がある。」

 王太子が話していることは、アリーナがどこかで耳にしたことのあるような話だった。そう言って女性は働き続けることをよしとされないのだと。

「ですが、王妃様を始めとする王族の女性は、仕事を続けるではありませんか。」
「…それは仕事と言わぬ。公務だ。」

 王太子とライのやり取りに、誰も口は挟まない。
 2人の会話に耳を傾けつつも、アリーナ以外の皆は平然と食事を進めている。
 アリーナは事の成り行きが気になって、食事が進まない。

「マイク殿下は、どうして子を産んだ王太子妃に対して、仕事を辞めろと言わないんですか」
「だからそれは公務だと言っているだろう?」
「女性は子供を産み育てるということが仕事だと先ほどおっしゃったじゃないですか」
「…それとこれは違う。」
「果たしてそうでしょうか。どうして王家は結婚し子を成した後も仕事を許され、それ以外の貴族や庶民は結婚し子を成した途端仕事は許されなくなるのでしょうか。王族になれば貴族籍の人間よりも庶民よりも優れているからですか」
「…そうとは言っていない」

 王太子の返事に、ライが頷く。

「そうだと言われたら、今すぐこの役を下りるところでした」

 ライの言葉に、王太子がピクリと反応する。

「役とは…騎士団副団長のことか。」
「ええ。私にはそれ以外に役職はないはずですが」

 にっこり笑うライに、王太子がこめかみを揉む。

「父が身分で優劣があると思っているなら、そもそも騎士団長を庶民であるシェスにさせないだろう。」

 前王の時は、騎士団長も貴族が務めていたとアリーナも聞いたことはある。

「ですが、金庫番などのトップは、貴族です。しかも庶民はもちろん、普通の貴族なら逆らいようもない上位貴族。」
「…父は庶民を重用するようになったが、どうしたって、この国の中でまだ貴族の力は強い。その身分で優劣をつけたがる輩はいる。それを抑制するためには、どうしてもいくつかの要職は上位貴族がいて抑止力になってもらわないといけない」
「特に金庫番については特に優秀な庶民の集まりですからね。仕事内容は地味で貴族たちはやりたがらない。だがとても重要な仕事だ。その仕事を守るために、一番トップは上位貴族、それも公爵家クラスでないといけない」
「…わかっているのなら、言わなくてもいいだろう。」
「ええ、その特に優秀な人間が集まる部署にいる人材、それがどれだけ貴重な人材か、マイク殿下にもわかっていますよね」
「…それは、わかっている。」
「では、そこにいる人材が女性だからと言って職を追われてしまう現状をどうお考えですか」
「…ファム公爵がそう決めているんだから…仕方がないだろう。」 
「その抜けた穴を、ガイナー室長は優秀な人間を探して埋めないといけないわけです。…そんな優秀な人間がたくさんいるわけもない。なのに、金庫番は女性を登用するようになってからもずっと優秀と言える人材を手放してきたわけです。それがどれほどの損失か、マイク殿下であればわかるんじゃありませんか。」

 ライはそこで言葉を切ると、王太子に答えを求めるようにじっと王太子を見た。

「…そうは言っても、雇われる女性は少ないのだろう?」
「人数の問題ではないと思いますが。そもそも金庫番で女性の割合が少ないのは、ガイナー室長、どうしてですか」

 ライのその言い方は、既に答えを知っていてガイナーに促しているだけだとわかる。

「同じ能力の男性と女性ならば、男性を採らざるを得ないのが実情です。能力だけで言えば、もっと女性の登用は可能ですが、結婚時に辞めることを考えると、どうしても男性を選ばざるを得ません。ですから特に優秀と言える女性しか、今のところ登用できていません。それに…。」

 ガイナーが言葉を切って、その場にいる皆の顔を見まわす。

「表立って言われることはありませんが、庶民が通う実務の学院は、女性は上位10名程度しか入学させないとされています。ですから、どんなに優秀な女性でも、それ以下の成績であった時点で学院に入学できません。…ですからどうやっても女性の割合は少なくならざるを得ません」

 誰ともなく、え、という声が落ちる。

「…どういうことだ?」

 王太子が、ありえないとでも言うように眉間にしわを寄せる。

「やはり、ご存じなかったですか。実務の学院までは王族の目は届きにくいですから、だからそんなことがまかり通っているんでしょうが。私が学院に在籍していた昔から当たり前のようにそういうふうにされてました」
「城での登用を望む庶民たちに平等に門戸を開く、というのがあの学院の意義だったはずだ!」

 王太子が語気を強めると、ガイナーが頷く。実務の学院を設置したのも、今の王だ。だから王太子は王がその学院を設置した意味をきちんと理解していると言っていい。

「ええ。私もそう聞いていましたし、学院に入学する前は、そうなのだと思っていました。ですが、入学してみると、女性の数が極端に少ない。…同郷で私と成績を争っていたはずの女性の友人は、みごとに落ちてしまいましたよ。学院でも私の成績は上位ではあったんですが」

 ガイナーの話に、アリーナもそうだったのか、と初めて知る。確かに女性が少ないとは思っていたが、それは単に城で働きたいと思っている女性が少ないのかと思っていた。だが実はその人数すら最初からコントロールされてしまっていたのだと知らされて、憤りの気持ちがふつふつとわいてくる。

「それで一向に城で働く事務官の女性が増えなかったわけだ。」

 第二王子が初めて口を開く。それに王太子も頷いて、ガイナーにまた視線を向ける。

「ガイナー室長。その人数をコントロールさせてるのは、学院のトップなのか? それとも他の貴族なのか?」
「流石にそれは知りません。我々庶民には追及のし様もありませんから」
「…そうだな。それについては、早急に調査しよう」
「マイク殿下。今の話の通り、女性が城で登用されることは意図的にかつ不当に誰かによって制限されていた。それでも、決まりとして女性の働く権利を明記する必要がないと思いますか?」

 王太子が首を横に振る。

「不当に女性の働く権利が阻害されているというのであれば、明記する必要があるだろうな。勿論、これは議会にかける必要がある話だし、私の一存ではどうにもならない話だが。」

 王太子の言葉に、ライが強く頷く。

「ええ。でも、マイク殿下の協力が得られれば、勝ったも同然です」

 そのライの言葉を聞きながら、6時間前にファリスが話していた実現が困難だと思ったことが、今、にわかに動き出したことに、アリーナは驚愕した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...