47 / 74
47
しおりを挟む
「ロビン殿下もご協力いただけますか?」
ライの言葉に、第二王子は、うーん、と声を上げた。
「どうかしましたか」
「ねぇ、ロビン。協力してくれるって言ってたでしょ」
即答しない第二王子を、ファリスが急かす。
「…ご褒美が欲しいんだよね」
ご褒美。
思いがけない言葉に、アリーナは第二王子を凝視してしまう。
もう30を超えているだろう大人の口から、“ご褒美”という単語が出てくることに驚いた。この第二王子は大丈夫なのか、とアリーナは一瞬思ったが、他の人々の反応が拒否とは言えない、呆れともちょっと違う、受け入れているような反応に思えたため、この第二王子がこんな反応を示すのは別におかしくはないのかもしれないし、それはアリーナが思うよりまともな反応なのかもしれない。
「…一体、何をご褒美に欲しいんですか。学院の不正が暴けるだけでも、ご褒美になるような気がするんですが」
ライが首をかしげる。
「エリックが欲しいんだよね」
第二王子の視線は、ダニエルに向かう。
第二王子と視線が合ったダニエルは、思いがけない言葉に、瞬きをする。
ダニエルを見ると言うことは、次兄のエリックのことを言っているらしいと、何とかアリーナにもわかった。
「エリック…を?」
ダニエルが第二王子に聞き返す。
「そう。エリック。」
にっこりと笑っている第二王子に、アリーナは疑問しかわかない。
「…ロビン殿下、エリックは…。」
ダニエルが言い淀んだことに、アリーナも頷いてしまう。
第二王子はエリックを側近として望んでいるらしい。だが、である。
アリーナの知る次兄は、ものすごくやる気のない人間だ。…仕事はきちんとしているようだが、求められている以上の仕事はしていないだろうと想像はできるくらいに、やる気と言うものがない。
「あのやる気のなさは、ふりでしょ」
落ち着かない様子でお茶を飲んでいたダニエルがむせた。
「…ふ…りでは、ありません」
「やだな、ダニエル。エリックが学院のときトップの成績を出したことがあっただろう? あの時、エリックが『失敗した、体調不良でテストなんか受けるもんじゃない。』って呟いてたの聞いたんだよね。トップの成績出して失敗したって何だろうって思ったんだけど、どうやらエリックはいつも平々凡々な成績しかとらないよね? と言うことは、いつものテストの成績がコントロールされててるって考えたほうがいいだろう?」
アリーナは第二王子が言い出した昔の話に、そう言えば一度エリックが学院でトップを取ったとうちで騒ぎになったことがあったな、と思い出す。それはあの時一度きりで、エリック曰く、たまたま山を張っていたところばかりが出たことと、成績優秀者たちが皆体調不良だったから、という理由だった気がした。
「いえ、そんなことはありません。ロビン殿下の勘違いかと。」
ダニエルが首を横に振る。アリーナもそう思う。
「ずーっと真ん中の成績を維持し続けるのも大変だよね」
どうやら第2王子はエリックの成績を調べたらしい。
「…それは偶然では?」
ダニエルの言葉は最もだとアリーナも思う。エリックは可もなく不可もなく、中の中と言うのがアリーナの認識である。
「ものすごく難しいテストがあってさ、これはできるやつは出来るし、できないやつは出来ないって内容のやつでね。その時の試験結果はできるやつは高得点、できないやつは点数もない、ってまれに見る悪問だったわけだけど、一人だけ、見事に真ん中の点数とったやつがいたわけ。で、何で真ん中だったかって、ケアレスミスみたいなやつで点数がマイナスになってて、丁度真ん中。ある意味すごいよね」
それが誰とはアリーナもこの話の流れでわかる。
「エリックはできないやつではないんですが、何しろそう言ったケアレスミスが多いやつで。」
「で、先生が首捻ってたのが、エリックの答案用紙が一番きれいだったってこと。まるで頭の中の答えをそのまま書き写したみたいだって」
「ですから、エリックは確認もしないで書くから点数が取れないんですよ。だからいつまでたっても成績が伸びなかった」
「エリックは、希代の天才かと呼ばれてたらしいね」
ああそれは聞いたことがある。とアリーナは思った。エリックは小さい頃天才だと言われていたと。だがアリーナが物心ついた頃には、やる気のない兄だった。だから本当にそんな時代があったのか信じられないし、小さい頃は天才だとちやほやされても大きくなったら凡人になる人はいくらでもいると聞くからその類いだと思っている。
「それは小さい頃だけです」
「エリックが表舞台に立つと、なにか不都合があるのかな?」
「いえ。何の取り柄もない愚弟をこれだけ買い被っていただけるのはありがたいですが、取り立ててもロビン殿下の利になるとは思えません」
「表舞台に立たせようとするなら家を取り潰して見せると言ったらしいね」
第2王子の言葉にダニエルが目を見開く。
アリーナだって目を見開いた。あのエリックから出てくる言葉だとは信じられないと言うこともある。
「大丈夫。私がそんなことさせないから。兄さんだって自分の側近の家が取り潰されるのは嫌だよね」
「そうだな。何が理由で取り潰すかに寄るが、取り潰した家の者を側近として使うのは嫌だな。」
それはそうだろうとアリーナは思うが、表舞台に云々で家を取り潰すと言い切ったエリックに問いただしてみたい。
それほどのやる気があるなら最初から見せとけ、と。
だが、未だにそれが事実なのだとは思えない。
「ダニエルはずっと兄さんの側近でしょう? 私だってダニエルみたいに優秀な側近が欲しいんだよね。いいよね、ダニエル?」
「…私はパレ家の跡継ぎではありますが、家督を持っているわけではありませんので、返事はできません」
アリーナにもダニエルが逃げたのだとわかった。だが、事実上のダニエルの敗北宣言である。
「うん。じゃあ、パレ侯爵に頼んでみる。」
「…それと本人を説得してください」
「そうだね。じゃ、協力するよ」
ここにはいないエリックの自由と引き換えに、ロビンの協力が得られることになった。
アリーナは、いまだ、有能なエリックと言う姿を思い描けずに、とまどったままだった。
****
「しかし、本当にダニエルのところの兄弟は面白いよね」
食堂には、王太子、第二王子、ファリス、ダニエルが残っていた。
「…そうでしょうか。」
王太子の言葉に、ダニエルがちらりとアリーナが帰って行ったドアを見る。
「だって、ライが国の決まりを変えようと思うぐらいの相手なわけでしょう? ファリスだって協力的になるぐらいだし。何もないわけがないよね」
「まあ、アリーナは面白いと思いますけど。副団長がなぜ執着しているのかは理解してないようでしたけど」
ファリスが肩をすくめる。
「そもそも私がファリスと結婚できたのは、君んところのノエルのおかげなわけだし。」
第二王子がダニエルを見る。
「…ロビン殿下、それは勘違いだと思います。ノエルがそんなことをするとは思えませんが。」
そう言いながらダニエルは第二王子から目を逸らしている。何があったのかは知っているらしい。
「どういうことですか」
ファリスは初耳らしい。
「自分が私の婚約者候補に名前が挙がりそうになったとたん、裏工作してその話がなかったことにしたんだよ。私がそれに気づいた時、だって恋愛結婚の方がいいでしょ、ロビンだってファリスが好きなんだし、って言い放ったんだよ。本当に、パレ家の兄弟は行動が突飛だよね」
パレ家の次女ノエルと第二王子の年齢は近く、婚約者候補として名前が挙がってもおかしくないわけである。だが、実際にはそんな話は全く表立って言われることはなかった。それは、ノエルの工作の結果である。しかもその結果には、ロビンにはファリスがふさわしいという話までついて来たのだ。
「それで言うとサーシャも面白いよね。あの地は必ず立て直せる、あの地を放置するのは国の損失だとか言って、嫁に行くんだもん。あの当時、あんな寂れたルトワック侯爵家の領地がどうにかなるなんて思っていた人間はわずかだろうね」
王太子が、その時のことを思い出したのか、クスリと笑う。パレ家の長女サーシャが嫁いだルトワック侯爵家の領地は、今では他国との交通の要所としてとても栄えているが、サーシャが嫁ぐ前は寂れてしまい領民は減るばかりの土地だった。
現実主義者であるサーシャは、貴族の学院を卒業すると早々にルトワック侯爵家の長男と結婚した。女官として過ごす時間もどうせ嫁ぐのなら無駄な時間だと言って、他の貴族であれば1,2年ほど過ごす女官としての時間をすっ飛ばしての結婚だった。ルトワック家とパレ家の間に何かメリットがあったわけでもない。ルトワック家の長男は、それこそ可もなく不可もなく、という風な人間で、そのままあの領地を継げば、あの領地は廃れていく一方だったと思われる。ただあの地を放置したくないという現実的な問題を解決すべく、サーシャはルトワック家長男と結婚したと言っていい。
それから17年。ルトワック侯爵家の領地は、見事に生まれ変わっている。可もなく不可もないルトワック家の長男がサーシャにとって御しやすかったのもこの結果をもたらした要因ともいえる。
「末っ子が文官として金庫番で働いていると聞いた時にも、面白いな、と思ったけどさ、あのライをメロメロにするぐらいの人間だと思うと、ますます面白いよね」
王太子の言葉に、ダニエルがため息をつく。
「マイク殿下、面白がるのはいいですが、我々、ライ殿から結構な宿題を出されたんですが。忙しくもなるし、議会も紛糾するでしょ」
「それは、またライに頼めばいいだろう。多分だけど、あいつはまだ奥の手をもってそうな気がする。」
「奥の手?」
ダニエルの疑問に、王太子が頷く。
「…あそこで私が否、と言ったら、たぶん他の手を出すつもりだったはずだ。ライならそうだろう?」
「…確かに、たった一つの案でライ殿が交渉にあたるわけもありませんね」
「だから、議会が紛糾した暁には、ライに活躍してもらおうじゃないか。そうでないと、ダニエルの妹を託せる人物とは認められないだろう?」
王太子のウインクに、ダニエルは脱力する。
まさか妹の結婚の話が、こんな大それた話になるとは、ダニエルとて思ってもいなかった。
そして思う。どうしてうちの妹たちは普通の貴族のように結婚してくれないのか、と。
自分の娘が同じ道をたどらないように願うばかりだ。
ライの言葉に、第二王子は、うーん、と声を上げた。
「どうかしましたか」
「ねぇ、ロビン。協力してくれるって言ってたでしょ」
即答しない第二王子を、ファリスが急かす。
「…ご褒美が欲しいんだよね」
ご褒美。
思いがけない言葉に、アリーナは第二王子を凝視してしまう。
もう30を超えているだろう大人の口から、“ご褒美”という単語が出てくることに驚いた。この第二王子は大丈夫なのか、とアリーナは一瞬思ったが、他の人々の反応が拒否とは言えない、呆れともちょっと違う、受け入れているような反応に思えたため、この第二王子がこんな反応を示すのは別におかしくはないのかもしれないし、それはアリーナが思うよりまともな反応なのかもしれない。
「…一体、何をご褒美に欲しいんですか。学院の不正が暴けるだけでも、ご褒美になるような気がするんですが」
ライが首をかしげる。
「エリックが欲しいんだよね」
第二王子の視線は、ダニエルに向かう。
第二王子と視線が合ったダニエルは、思いがけない言葉に、瞬きをする。
ダニエルを見ると言うことは、次兄のエリックのことを言っているらしいと、何とかアリーナにもわかった。
「エリック…を?」
ダニエルが第二王子に聞き返す。
「そう。エリック。」
にっこりと笑っている第二王子に、アリーナは疑問しかわかない。
「…ロビン殿下、エリックは…。」
ダニエルが言い淀んだことに、アリーナも頷いてしまう。
第二王子はエリックを側近として望んでいるらしい。だが、である。
アリーナの知る次兄は、ものすごくやる気のない人間だ。…仕事はきちんとしているようだが、求められている以上の仕事はしていないだろうと想像はできるくらいに、やる気と言うものがない。
「あのやる気のなさは、ふりでしょ」
落ち着かない様子でお茶を飲んでいたダニエルがむせた。
「…ふ…りでは、ありません」
「やだな、ダニエル。エリックが学院のときトップの成績を出したことがあっただろう? あの時、エリックが『失敗した、体調不良でテストなんか受けるもんじゃない。』って呟いてたの聞いたんだよね。トップの成績出して失敗したって何だろうって思ったんだけど、どうやらエリックはいつも平々凡々な成績しかとらないよね? と言うことは、いつものテストの成績がコントロールされててるって考えたほうがいいだろう?」
アリーナは第二王子が言い出した昔の話に、そう言えば一度エリックが学院でトップを取ったとうちで騒ぎになったことがあったな、と思い出す。それはあの時一度きりで、エリック曰く、たまたま山を張っていたところばかりが出たことと、成績優秀者たちが皆体調不良だったから、という理由だった気がした。
「いえ、そんなことはありません。ロビン殿下の勘違いかと。」
ダニエルが首を横に振る。アリーナもそう思う。
「ずーっと真ん中の成績を維持し続けるのも大変だよね」
どうやら第2王子はエリックの成績を調べたらしい。
「…それは偶然では?」
ダニエルの言葉は最もだとアリーナも思う。エリックは可もなく不可もなく、中の中と言うのがアリーナの認識である。
「ものすごく難しいテストがあってさ、これはできるやつは出来るし、できないやつは出来ないって内容のやつでね。その時の試験結果はできるやつは高得点、できないやつは点数もない、ってまれに見る悪問だったわけだけど、一人だけ、見事に真ん中の点数とったやつがいたわけ。で、何で真ん中だったかって、ケアレスミスみたいなやつで点数がマイナスになってて、丁度真ん中。ある意味すごいよね」
それが誰とはアリーナもこの話の流れでわかる。
「エリックはできないやつではないんですが、何しろそう言ったケアレスミスが多いやつで。」
「で、先生が首捻ってたのが、エリックの答案用紙が一番きれいだったってこと。まるで頭の中の答えをそのまま書き写したみたいだって」
「ですから、エリックは確認もしないで書くから点数が取れないんですよ。だからいつまでたっても成績が伸びなかった」
「エリックは、希代の天才かと呼ばれてたらしいね」
ああそれは聞いたことがある。とアリーナは思った。エリックは小さい頃天才だと言われていたと。だがアリーナが物心ついた頃には、やる気のない兄だった。だから本当にそんな時代があったのか信じられないし、小さい頃は天才だとちやほやされても大きくなったら凡人になる人はいくらでもいると聞くからその類いだと思っている。
「それは小さい頃だけです」
「エリックが表舞台に立つと、なにか不都合があるのかな?」
「いえ。何の取り柄もない愚弟をこれだけ買い被っていただけるのはありがたいですが、取り立ててもロビン殿下の利になるとは思えません」
「表舞台に立たせようとするなら家を取り潰して見せると言ったらしいね」
第2王子の言葉にダニエルが目を見開く。
アリーナだって目を見開いた。あのエリックから出てくる言葉だとは信じられないと言うこともある。
「大丈夫。私がそんなことさせないから。兄さんだって自分の側近の家が取り潰されるのは嫌だよね」
「そうだな。何が理由で取り潰すかに寄るが、取り潰した家の者を側近として使うのは嫌だな。」
それはそうだろうとアリーナは思うが、表舞台に云々で家を取り潰すと言い切ったエリックに問いただしてみたい。
それほどのやる気があるなら最初から見せとけ、と。
だが、未だにそれが事実なのだとは思えない。
「ダニエルはずっと兄さんの側近でしょう? 私だってダニエルみたいに優秀な側近が欲しいんだよね。いいよね、ダニエル?」
「…私はパレ家の跡継ぎではありますが、家督を持っているわけではありませんので、返事はできません」
アリーナにもダニエルが逃げたのだとわかった。だが、事実上のダニエルの敗北宣言である。
「うん。じゃあ、パレ侯爵に頼んでみる。」
「…それと本人を説得してください」
「そうだね。じゃ、協力するよ」
ここにはいないエリックの自由と引き換えに、ロビンの協力が得られることになった。
アリーナは、いまだ、有能なエリックと言う姿を思い描けずに、とまどったままだった。
****
「しかし、本当にダニエルのところの兄弟は面白いよね」
食堂には、王太子、第二王子、ファリス、ダニエルが残っていた。
「…そうでしょうか。」
王太子の言葉に、ダニエルがちらりとアリーナが帰って行ったドアを見る。
「だって、ライが国の決まりを変えようと思うぐらいの相手なわけでしょう? ファリスだって協力的になるぐらいだし。何もないわけがないよね」
「まあ、アリーナは面白いと思いますけど。副団長がなぜ執着しているのかは理解してないようでしたけど」
ファリスが肩をすくめる。
「そもそも私がファリスと結婚できたのは、君んところのノエルのおかげなわけだし。」
第二王子がダニエルを見る。
「…ロビン殿下、それは勘違いだと思います。ノエルがそんなことをするとは思えませんが。」
そう言いながらダニエルは第二王子から目を逸らしている。何があったのかは知っているらしい。
「どういうことですか」
ファリスは初耳らしい。
「自分が私の婚約者候補に名前が挙がりそうになったとたん、裏工作してその話がなかったことにしたんだよ。私がそれに気づいた時、だって恋愛結婚の方がいいでしょ、ロビンだってファリスが好きなんだし、って言い放ったんだよ。本当に、パレ家の兄弟は行動が突飛だよね」
パレ家の次女ノエルと第二王子の年齢は近く、婚約者候補として名前が挙がってもおかしくないわけである。だが、実際にはそんな話は全く表立って言われることはなかった。それは、ノエルの工作の結果である。しかもその結果には、ロビンにはファリスがふさわしいという話までついて来たのだ。
「それで言うとサーシャも面白いよね。あの地は必ず立て直せる、あの地を放置するのは国の損失だとか言って、嫁に行くんだもん。あの当時、あんな寂れたルトワック侯爵家の領地がどうにかなるなんて思っていた人間はわずかだろうね」
王太子が、その時のことを思い出したのか、クスリと笑う。パレ家の長女サーシャが嫁いだルトワック侯爵家の領地は、今では他国との交通の要所としてとても栄えているが、サーシャが嫁ぐ前は寂れてしまい領民は減るばかりの土地だった。
現実主義者であるサーシャは、貴族の学院を卒業すると早々にルトワック侯爵家の長男と結婚した。女官として過ごす時間もどうせ嫁ぐのなら無駄な時間だと言って、他の貴族であれば1,2年ほど過ごす女官としての時間をすっ飛ばしての結婚だった。ルトワック家とパレ家の間に何かメリットがあったわけでもない。ルトワック家の長男は、それこそ可もなく不可もなく、という風な人間で、そのままあの領地を継げば、あの領地は廃れていく一方だったと思われる。ただあの地を放置したくないという現実的な問題を解決すべく、サーシャはルトワック家長男と結婚したと言っていい。
それから17年。ルトワック侯爵家の領地は、見事に生まれ変わっている。可もなく不可もないルトワック家の長男がサーシャにとって御しやすかったのもこの結果をもたらした要因ともいえる。
「末っ子が文官として金庫番で働いていると聞いた時にも、面白いな、と思ったけどさ、あのライをメロメロにするぐらいの人間だと思うと、ますます面白いよね」
王太子の言葉に、ダニエルがため息をつく。
「マイク殿下、面白がるのはいいですが、我々、ライ殿から結構な宿題を出されたんですが。忙しくもなるし、議会も紛糾するでしょ」
「それは、またライに頼めばいいだろう。多分だけど、あいつはまだ奥の手をもってそうな気がする。」
「奥の手?」
ダニエルの疑問に、王太子が頷く。
「…あそこで私が否、と言ったら、たぶん他の手を出すつもりだったはずだ。ライならそうだろう?」
「…確かに、たった一つの案でライ殿が交渉にあたるわけもありませんね」
「だから、議会が紛糾した暁には、ライに活躍してもらおうじゃないか。そうでないと、ダニエルの妹を託せる人物とは認められないだろう?」
王太子のウインクに、ダニエルは脱力する。
まさか妹の結婚の話が、こんな大それた話になるとは、ダニエルとて思ってもいなかった。
そして思う。どうしてうちの妹たちは普通の貴族のように結婚してくれないのか、と。
自分の娘が同じ道をたどらないように願うばかりだ。
10
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる