ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第5章

第46話

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 「ここが迷宮か…。」

 「地竜山迷宮って言ってたぜ。沢山の竜が住んでたんだと。奥に進むと強い龍が住んでた場所になって出てくる敵も強くなるんだってさ。」

 「…竜が住んでたら何で敵が出てくるんだ?」

 「…何でだろ…?」

 「ま、いいか。とっとと中に入って火蜥蜴をぶち殺そうぜ。」

 「そうだな。」

 しかし…なんというか本当に普通って感じの洞窟だな。
 
 草も木も無い山肌に唐突にポッカリと穴が空いてて…それだけだ。

 御大層な門とかそういうのは全く無い。

 一応看板で地竜山迷宮って書いてあるだけだ。

 普通何ていうの?


 冒険者とかが出入りしててそこに出店が沢山あってもっと活気があるもんじゃないの?

 活気が無いっていうかむしろ…寂れてない?

 プラスじゃなくてゼロじゃなくてマイナスじゃん!みたいな。

 何でこんなに人いないの?

 こんなもんなの?

 っていうか喰也は何で気にせず入っていこうとしてんのさ。…まぁ入るけど。

 「なんていうか…人が全然いないよな。」

 「そうか?こんなもんなんじゃないのか?みんな中に入ってるのかもな?」

 「そうか…そうか?それにしたって出店の一つもないもんなのかな?」

 「まぁ、細かいこと気にすんなよ。とっとと火蜥蜴見つけようぜ。」

 「そうだな。気にしてもしょうがないか。」

 砂塵・土魔法を展開。

 もう風探査魔法、土探査魔法、魔力の糸は同時に発動できるようになった。

 いつからだっけな…。

 アザンの街に全力ダッシュした時には出来ていたような気がする。

 別に何時でもいいか。使えるようになる分には構わないし。

 「暗いな…俺の火魔法で明かりを…っと。」

 「おお!なんか随分スマートに使えるようになってるじゃん!」

 「わかる?実はこっそり練習してんのよ!基本的なところなら前と同じ様に使えるようになってんだよ!成長してるってより思い出してるって感じだけどさ!」

 「へぇ~。俺火魔法苦手だから助かるわぁ~。」

 「お、そうか?じゃあ迷宮の明かりは任せろよ。」

 「おう。頼んだ。」

 まぁ、砂塵・土蜘蛛があるから暗くても問題ないが…明るいに越したことはない。

 大体4m四方の道を進んでるが、当然光源が無いから真っ暗。

 …この世界に来てわかったのは本当の暗闇は本当に怖いってこと。

 たとえ魔法で周りを把握出来てるからと言って怖さが無くなることはない。

 できれば明るいに越したことはないんだけど…どうも俺は火魔法が苦手で炎の維持も移動もうまく出来ない。

 ファイヤーボールみたいなものを手元に作って歩くと火の玉はその場所に残ったまんまなわけ。

 しかもすぐ消えるし。

 焚き火の火付け位には役立つけど。

 でも、喰也の火の扱いは上手い。

 すでに俺が維持できる時間を超えている。移動しながら使えてるし。

 取り敢えずは俺が前衛で、喰也が後衛。

 喰也が後衛を得意としてるわけではなく、俺が防御力高いポンチョを着てて、探査魔法が使えるからだ。

 不意打ちを受けてもポンチョで全身を固めてればそうそう大怪我をすることはない。

 っていうか探査魔法が使えてるから不意打ち自体がほぼ無い。

 土探査魔法で地面と壁の状態を確認できるから罠にかかる可能性も少ない。

 この迷宮に罠はないと言ってはいたが実際はわからないからな。

 しかしこのポンチョ優秀だよな。

 めちゃくちゃ使えるわ。

 武器にも防具にも大きな手にもなる。

 最強の道具といっていいんじゃないのか?

 確かアダウロラ会派の人達はこれを持ってるんだっけか?

 …強い人達なんだろうな…。

 ん?

 敵か?動物か?

 四足の生き物がい…。

 …まさかこれが火蜥蜴じゃねぇだろうな。

 「なぁ…この先に四足の動物っぽいのがいたんだけど…。」

 「お!それが火蜥蜴ってやつじゃねぇ?早速行こうぜ。火っていうくらいだから水が弱点だよな?一応水魔法も使えるからそれをぶち当てようぜ。」
 
 「マジで?俺水魔法も苦手だから助かる…じゃなくてさ、その火蜥蜴が5,6m位あるんだけど…。」

 「…5,6m?5,60cmとかじゃなくて?」

 「いや、5,6m。高さは俺達の腰くらいだけど、体長は…俺達二人以上は余裕であるよ。」

 「…最初はそんなに強い敵って出ないんじゃなかったっけ?」

 「俺もそう聞いてたんだけど…。」

 「…。」

 「…まぁ、行ってみるか。喰也は後ろで水魔法での援護頼む。ポンチョがあればそんなに大怪我になることはないと思うし。」

 「…そう。ならまぁいいけど…。やばくなったら逃げようぜ。」

 「そうだな。取り敢えずそのファイヤーボールもう少し小さく弱く出来るか?見つかっちまうかも知れない。」

 「わかった…そういやどうやって火蜥蜴を見つけたんだ?全然見えないだろ?」

 「あぁ~…、俺は探査魔法が使えてさ。結構遠くの方まで分かるんだ。それでな。」

 「…そうか…。…ひょっとしてこの明かり用のファイヤーボールもいらなかったか?」

 「いや、そんなことはねぇよ。やっぱり周りが見えるのと見えないのじゃ動きがぜ全然違うからな。でも戦いが始まったら消したほうがいい。もしかしたらハルの方に敵が行っちまうかも知れないから。」

 「…そうだな。いや、かなり遠くの所に火魔法を発動できるから問題ねぇよ。端溜が気にならなねぇんならな。」

 「そうか…じゃあ、最初の不意打ちが終わったら辺りを照らすように火魔法を発動させてくれるか?」

 「…わかった。」

 さて、ゆっくりと行くか。

 道は一本道だが大分曲がりくねってるから隠れることは可能だ。

 喰也が隠れる場所は十分にあるし、小さな明かりに気付かれることは…多分無いかな?

 取り敢えずナイフに魔力は込めておこう。

 全力で魔力込めて引力・斥力でぶちかませば…どうなるんだ?

 そういえば全力でそれやったことって無いか?

 ジャキジョイから逃げてる時はナイフ投げなんて出来なかったし…。竜の巣辺りで使ったっけ?いや、よく覚えてないな…。

 …。

 …あいつか…。

 「喰也…そろそろ…。」

 「わかった…。」

 向こうは気付いてない…というより後ろを向いてる。

 寝てる…のか?

 息遣いに合わせて口から火が出てる。

 それに合わせて顔周りが明るくなってる。

 「で、でけぇ…。」

 本当にでかいな。

 牛3頭位を並べたでかさ。

 …本当にまだ初心者レベルなのか?

「俺は一応逆側に回るから…攻撃が成功したら明かりを…。」

 「…分かった。」

 いやもうあれドラゴンじゃね?
 
 飛ばないドラゴンじゃん。

 飛べない豚はただの豚だって言うけど飛べないドラゴンはドラゴンだよ。

 他の迷宮より敵は強いとか何とか言ってたけど限度ってもんがあるだろ。

 人が少ないのもこれが理由か?

 畜生、騙された。

 いや、向こうは騙したって感覚も無いかも知れないな…。

 まぁ動きはトロそうだし、まだ気付かれてないんだから逃げることも出来るか。

 騙されたってのは大げさか。

 取り敢えず喰也の正反対に辺りに隠れて…、直線上に隠れるのはやめよう。念の為ね。

 …。

 …やるか。

 魔力を全力で込めて……、引斥力魔法で思いっきり…行け!!

 「グッ!!………。」

 …。

 …。

 …ん?

 あれ?

 当たったよな?…外れた?

 いや、頭に当たったはずだ…。

 弾かれた?

 いや、手応えはあったけど…。

 お?

 なんだ?

 敵が…溶けてく?

 おお…?

 「喰也!明かりを!」
 
 「お、おう!」

 敵は?

 いなくなった?

 これは…魔石か?

 野球ボール位の大きさがある。

 「これ…魔石って奴じゃね?」

 「それっぽいな…。」

 「で?さっきのやつ溶けて消えたけど…やったのか?」

 「う~ん…手応えは合ったけど…一回しか当たってないしなぁ…。」

 「…それって一発で殺っちまったってことじゃねぇのか?」

 「…そうかな…。」

 「…う~ん…、取り敢えず無傷で終わったんだからもう一匹くらいやってみたらどうだ?」

 「そ、そうだな。時間はまだあるし。もうちょっと調べてくか。」

 「しかし一発かよ…。」

 「いや、そうと決まったわけじゃ…。」

 「でも貫通したっぽいナイフがあっちの…壁の大分深くまで突き刺さってるし…。」

 「…。」

 「狩れるだけ狩ろうぜ。」

 「…そうだな。いっちょやるか。」

 「そうそう。いける時にいこうぜ。」

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 結局一発で倒してた。

 流石に3匹連続で倒せば馬鹿でもわかる。

 俺の魔法は結構強いらしい。やったね。

 途中から、まず喰也の魔法でダメージを食らわせてから俺が止めを指す方法になったけどそれでも問題なかったな。

 どうせ余裕なんだから俺にもやらせろって頼まれたし、まぁ断る理由は無いし。

 喰也の水魔法はただぶつけるだけだったけどそれでもそこそこのダメージが入っていたように見えた。

 最後に俺の土魔法で体を拘束して喰也に好きなだけ魔法を打ち込ませてみたら、大体12,3発で倒せた。一番柔らかそうなお腹を中心にぶちかましたけど。…ちょっと最後は可愛そうだったな。鳴き声が普通に泣き叫ぶ感じだったもん。

 喰也は魔力量が少なくなったとか言ってた。

…10発以上も打てるなら全然低くないじゃないかって聞いたら、勇者の時はこんなの十分の一にもならないって言いやがった。チートめ…。

 そんなこんなで7体ほど狩れた。

 魔石も7つ。

 正直そこまで火蜥蜴がいないから馬鹿みたいに狩れたわけじゃなかった。

 この内の4個、ギルドに卸そうという話になった。のこり3つは裏ギルド用に取っておこうと。

 んで、今は冒険者ギルドの査定待ち。

 「いやぁ~~。まさか本当に火蜥蜴を狩れるとはなぁ。ニギには会わなかったか?」

 「本当にって…どういうことだよ?っていうかあの火蜥蜴って初心者用なのか?でかすぎない?」

 「デカイけど動きはトロいからな。とはいってもタフだし硬い。最低限の攻撃力がなけりゃとてもとても…。だがやつを殺せるだけの攻撃力があればそこそこおいしい相手だ。逃げるのも楽だしな。」

 「ふぅん…冒険者が殆どいなかったのは?」

 「あぁ…ニギが入ってるからなぁ。迷宮であったら殺されるって噂があって地竜山に行くやつが全然いないんだよ。」

 「…マジかよ。そんなとこ勧めんなよ。」

 「まぁまぁ、噂だからよ。それにお前ら素人なのは間違いないんだろ?罠感知・解除関係の仲間がいないと迷宮は普通攻略できねぇが…、この迷宮だけは違うからな。それとも仲間を募って他の迷宮に行くか?それが出来るならそうした方がいいだろうなぁ…。なんてったって火蜥蜴を4体も殺れるんだからなぁ。」

 「…いや、ここでいいよ。ニギが迷宮であったやつを殺すってのは噂なんだよな…?」

 「…噂だよ、噂。ヘヘッ。正しくはニギがムカつくと思ってる冒険者は殺されるって内容だから。」

 「…てめぇ…。」

 「まぁまぁ。ああいう奴はペコペコしてくるやつに危害を加えねぇよ。そういうもんだ。会った時に下手に出ておけば大丈夫だって。」

 「…まぁ、しょうがないか。で?魔石はいくら位よ。」

 「1つ金貨2つで、全部で金貨8枚だ。一回の攻略で一体狩れれば十分暮らしてけるだろ?あんたらはもう初心者じゃねぇな…2人とも村長級に上げておくぜ。火蜥蜴を一人で殺せれば城下級だ。そうなったら一応試験があるから受けに来い。」

 「そんな簡単に上げていいのかよ。で?試験って?」

 「誰か適当なやつに付いてもらって、一人で火蜥蜴か基準になってる魔物をぶち殺せば終いだよ。」

 「なんかもうちょっと厳正だった気が…。」

 「他所はそうかもな。でもここは完全実力主義だ。その分実力のハードルは高いんだぜ?火蜥蜴一人でぶち殺せるって、他でチームを組んでたら荘園級扱いだぜ?」

 「ふぅん…一応そういう体裁は取ってるのか…って荘園級の魔物を新人に進めんなよ!」

 「はっはっは。ここに来るやつってのはもう既にかなり強いやつが多いから。ついな。」

 「…。」

「まぁ、冒険者としての知識だとか、有事の際の対応だったりだとか本来なら他にも習得しなきゃならんのだがな?ここは迷宮が主だった仕事先だから、有事の対応も知識もあまり意味がないんだよ。だから簡単な講習を受けて終わりにしてる。その分実力のハードルを上げてバランス取ってんのさ。ちゃんとギルド本部に許可されてるんだぜ?」

 「…まぁいいよ、別にどうでもいいよ。俺には関係ない。またちょくちょく収めに来る。」

 「毎度ぉ~~」

 いつもいつもやる気ねぇな。

 終わって速攻酒飲むなよ。っていうか酒飲みながら仕事するな。

 「どうだったよ?」

 「全部で金貨8枚だ。1つ金貨2枚だとさ。ほら4枚。俺達結構稼いでるらしいぜ?」

 「…半分ももらえねぇよ。殆ど端…シャムがやっちまったじゃねぇか。」

 「今はな。でも今後どうなるか解らねぇ。迷宮に潜ってる間もハルの魔法は強くなっていってたし、すぐ強くなるって。そしたら俺を助けてくれよ?つまりこれは投資だよ投資。」

 「…でも明かり役ですら役になってねぇしよ。」

 「まぁな。だから迷宮に潜るのはハルの訓練目的にしようぜ。すぐに強くなるって。それに裏ギルドへ繋ぎが出来たのは金貨100枚以上の価値がある。だろ?」

 「…。」

 「貰っとけって。気にしてるんだったら早く強くなってくれよ。」

 「…ああ。悪いな。」

 「気にすんなよ。とっとと宿に戻って飯食おうぜ。」

 「…ああ。…そうだな。」

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
 
 「「とりあえず乾杯!!」」

 「いや~、しかしこんな簡単に火蜥蜴が片付けられるとは思わなかったなぁ。」

 「なぁ~。俺でも一匹だけなら何とかなりそうだったしなぁ。」

 「そうだよなぁ。でも喰な…ハルの魔法は相性悪いよな。火は効かないだろうし、水は攻撃力が高いわけじゃないし。」

 「それなんだよ。つっても土と風はどちらかと言うと苦手だしなぁ。まだ万全じゃない状態で火と水以外の属性に手を出したくないんだよ。」

 「それはよく分かる。前も別の人に教えてるの見たけど、やっぱある属性は絞ったほうが成長が早いとか何とか……ん?」

 「?どうした?」

 「あぁ…いや、これは別の人に教えてた時のことなんだけど、その人も火と水をメインで修行してたんだよね。」

 「うん?」

 「その人が別れる時に魔法を使ってたんだけど…、周りの温度を下げてた様な気がするんだよね。それに爆発みたいなことも起こしてた。」

 「温度…冷やす…爆発か…。」

 「爆発の方はどうやってんのかわかんなかったけど、温度を下げるって火魔法の一つ何じゃないのかなって。」

 「風魔法とか使ったのかもしれんぜ?ていうか世には氷魔法ってのもあるみたいだしな。」

 「そうなのか?いやでも…、氷魔法なんて使えるほど魔法を使いこなせてたとは思えないし、そもそも俺達は囚われていたようなもんだ。外の情報を得ることなんて出来なかった。氷魔法を知るチャンスなんてなかったはずなんだよね。」

 「ふ~ん…じゃあ、その爆発も温度を下げるのも火か水を使って…編み出したってことか?」

 「…じゃ無いのかと…。その2つしか使えなかったはずなんだ。」

 「…爆発の方は解らないが、温度を下げるってのは…なんとなく分かる…かも。火魔法で温度を上げられるなら下げられるってのもおかしい話じゃないしな。」

 「…あぁ、確かに。そう考えるとそうかもしれない。」

 「少しその練習してみるよ。もし出来たら火蜥蜴にはすげぇ効きそうだしな。」

 「確かにな。まぁ、無理せずに。」

 仲立さん…元気にしてるだろうか。

 今情報を裏ギルドに集めてもらってるが…、もし危ない状況なら助けに行かなければ。

 今度こそ確実に助けるんだ。

 失敗はできない。

 確実に情報を集めて…。

 今度は人を雇うか?金は無限に湧いてくるし…。悪い考えじゃないような気がするな。

 「毎度ぉ。注文の飯と酒だ。」

 「お。あざぁっす親父さん。ずいぶん早いね。」

 でもまずは腹ごしらえしないと。急いては事を仕損じる。腹が減っては戦は出来ぬ。

 「ん?あぁ、あんたらほど景気がいいのは最近じゃ久しぶりだからな。他の客があんま来ないんだよ。今日もあんたら以外には少しだけなんだ。はぁ…泊まりだけで飯は保存食だけとかよぉ、うまい飯食ってなんぼじゃねぇのかよ…。やっぱナガルス族関係で財布の紐が固くなってんのかねぇ。」

 「…ナガルス族がどうかしたのか?」

 「ああ…。ここ最近ナガルス族が目撃されてんだよ。前はそんなことなかったんだがなぁ…。」

 「目撃って…何処でですか?」

 「色々だよ色々。最初は…ラミシュバッツで目撃されたんだっけな?そっからはハルダニヤ大陸中でだ。南はクランドン伯爵領から北はズウェルトガルム伯爵領。タラゴナ、フィー、ホーダー領とかな。オールドタウンでも見つかったって聞いたが…あそこはまた特殊か。」

 「見間違いとかじゃなくてってことですか…?一体何故…。」

 「さぁなぁ。今まで王都に攻め込んで来たことはあったんだよ。直接王都に乗り込んでずらかる。その繰り返しだったからよぉ。今まで他の街でナガルス共が見つかったことなんて殆どなかったんだ。」

 「へぇ…。」

 「とは言っても、そのナガルス共に傷つけられたって話も聞かねぇし、確かに幻覚じゃねぇかって話もあるんだよ。だが国中でそういう目撃があるってのはなぁ…。」

 「そりゃ俺も聞いたことあるぜ。おやっさん。」
 
 「おお、ダンケルもか。」

 お、冒険者か。

 最近この宿でよく見る男だ。なんとなくベテランっぽい感じ。
 
 「特にリヴェータ教の奴らが血相変えて情報を集めてるからな。ちょいと酒でもおごりゃあ口が滑る滑る。」

 「あぁ…、リヴェータ教か…あいつらの情報収集力はすげぇもんがあるからな。もう宗教団体って範囲を超えてるよな。」

 「っはっは~~。おやっさん。んなこと言ってるとリヴェータ教に…。」

 「やめろやめろっ。あながち冗談じゃねぇ所が怖ぇんだよ。…んで、また戦争か?」

 「ん~~…どうやらそんな感じじゃないらしいんだよな。上空を数人が2,3回転旋回してすぐにどっか行っちまうらしい。まぁ、これも偵察の内ってんなら戦争もあり得るんだろうが…、それにしちゃわかり易すぎるし、偵察する街に規則性がない。本気で戦争する気ならもうちょっと戦略が見えても良いんじゃねぇかな。」

 「ほう…ダンケルもやるようになったじゃねぇか。随分理屈だった予測だな。ひょっとして城下級を本気で目指してるってわけか?」

 「…リヴェータ教の司祭様がそう言ってたんだ…。」

 「か~~~!せっかく見直したと思ったらこれだよ!ったくよぉ。」

 「良いんだよ!こういう風にかっこつけて言いたかっただけなんだからよ!」

 「なっさけねぇ!そんなんだから迷宮の奥にも行けず…!!…!」

 「ま、まだ時期じゃねぇんだよ!それに…!……!」

 そうなのか…。

 なんでナガルス族が…一体何のために…。

 でも、もしうまくナガルス族に会うことが出来たら俺の目的も叶うかも知れない…。

 「なぁ、なんて言ってたんだ?なんか…ナガルス族が出てる?来てる?って言ってたのか?」

 「ああ、ナガルス族がそこかしこで目撃されてるんだと。っていうか今言ってたこと分かってるじゃん。言葉通じないんじゃなかったの?」

 「喋る方は全然なんだが、聞くだけだったら…単語を追うくらいなら何とか思い出したって感じかな。」

 「なるほどね…。ここからはこっちの言葉で話そうか?そうすれば言葉の練習にもなるだろ?」

 「そうだな。喋れたほうがヒモをするにも都合が…!シャム後ろに…。」

 「!……あんた誰だ?なんか用か…?」

 いつの間にか俺達の後ろに人が立ってやがった。

 っつーか冒険者ギルドにいた情報屋じゃねぇか。

 …全然気付かないでやんの。

 「船のチケットと情報を探してると聞いた。迷宮のブツもこっちに卸してくれるともな。受け渡し場所に今から案内する。」

 「…随分いきなりだな。」

 「これでもそっちに気を使ったんだぜ。んで?来るのか?来ないのか?」

 「ハル。残りの魔石の取引相手だ。付いてこいとさ。」

 「…わかった。行こうぜ。」

 「ああ。了解だ。連れてってくれ。」

 「来い。」

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「随分としっかりしてるところなんだな。」

 街の外側に向かって歩き、スラムを抜けて、地下に入ったらそんな言葉が出てきてしまった。

 もっとスラムっぽいというか、ゴミ溜めっぽい所というかそんな感じを予想してたんだけど…。

 しっかりとした作りの拠点だ。

 地下にある冒険者ギルドってかんじか。

 なんか奥に盛り上がってる大部屋もあるし…。

 「奥の部屋が気になるか?」

 「まぁ…あんだけ賑わってりゃな。祭りか何かか?」

 「祭りか…あながち間違っちゃねぇ。今は奴隷オークションをやってる。勿論、表じゃ取引されない極上の一品物ばかりだ。」

 「…。」

 「そんな顔するんじゃねぇよ。どんなに規制しててもやっぱりそれを欲しがる奴らはいるんだよ。そんな不幸な連中のために俺らが危険を負ってご提供差し上げるのさ。へっへ。」

 「…そもそもハルダニヤ国は奴隷を認めてるんだろ?それなのに規制されてるのか?」

 「されてるさ。基本奴隷は、犯罪奴隷、借金奴隷のみだ。それと、人間じゃないって事になってる奴らか。しかし、綺麗で、美しい奴隷を欲しがるやつはいる。例えば、エルフとか外交問題になりそうな奴らとかな。」

 「…。」

 「そういう奴らを、ま、俺達の伝手で集めて売るってわけさ。今回の目玉は…確かナガルスの餓鬼だったかな。」

 「!…ナガルス族の、子供が奴隷にされてるのか…!」

 「ん?あぁ、そうだよ。普通はナガルス族は戦争でしかかかわらないし、殺しちまう。運良く捕まえても成人だけだ。だが今回は偶々手に入ったらしくてな…外見の良さも相まって大分高値が付くと思うぜ。」

 「…いくら位になるんだ?」

 「なんだ!?買うつもりなのか?やめとけやめとけ。もう既に侯爵様のバカ息子が買うって裏で決まってるんだよ。んな、横入りしたらとんでもねぇことになるぞ。っつーか、金貨にして1000枚は下らないぞ。んなことしてる暇はあるのか?」

 「…。」

 「…逃げなきゃ行けないんだろ?」

 「…。」

 「だったら自分の都合を優先しなきゃなぁ。下手な正義感出してあんたの人生を台無しにしたくはねぇだろ?」

 「…まぁな。」

 それはもうやった。もうやったんだよ。

 自分のことだけ考えて逃げ続けてきた。自分の都合だけを優先してさ。

 仲立さんもガークも見捨ててきた。
 
 ヴァルだって見捨てようとしたさ。

 …でもそういうやり方、俺には合わなかったみたいでね。

 …。

 …この街から出る時、そのナガルスの子を攫っていこう。

 どうせ逃亡奴隷だ。追われてるのは変わらない。
 
 全ての奴隷を助けることは出来ない。

 でもナガルス族は別だ。モニには助けられた。でも俺は助けることが出来なかった。

 その分、ナガルス族に返したい。

 ナガルス族に裏切られたこともあったけど…、それはそれだ。

 その子は関係ない。

 全てのナガルス族の奴隷を助けることは出来ない。それも分かってる。

 成人の奴隷は…覚悟して戦争に行った。結果負けて奴隷になった。

 あまり好きじゃない考え方だけど、自分のケツは自分で拭いてもらおう。

 …でも子供は別だ。

 子供は…自分で人生を決められない。

 だから出来る限り助ける。

 全員助けられないことは分かってる。だからこれが俺の線引だ。

 偽善でも何でも良い。

 自分に出来ることを出来るだけする。

 …そうしないと反吐が出るほど気持ち悪くなるからよ。

 ゲロ吐く毎日を過ごすか、正義面して下手こいて死ぬか。

 台無しの人生はどっちかって話だよ。

 「さて、ここが取引所だ。後はこいつと取引してくれ。あんたが乗船券と情報を欲しがってるのは知ってる。情報が集まってればこいつが教えてくれるぜ。」

 「…取引所なのに、顔隠してるんだな。」

 「…?いや、普通は顔を隠すだろ?むしろ顔を隠さないあんたらのほうがおかしいと思うが。」

 「…そういう物なのか?」

 「おいおい…。そりゃそうだろ。裏で生きてる奴らだって食いもんは買うし、普通の家にも住む。日常生活を過ごしてる時に、裏ギルドであった人間に鉢合わせたらどうする?」

 「気まずいな…。」

 「そんなレベルじゃねぇぜ。下手すりゃ脅されて骨の髄までしゃぶられる。裏ってことはそこそこやばいことしてるわけだしな。ひょんなことからお互いの組織同士の戦争になったことだってある。基本正体は隠すもんだよ。まともな頭してりゃな。」

 「…次からはそうする。…これが火蜥蜴の魔石だ。3つだ。」

 「…金貨3つだ。」

 「随分ぼったくるな。税金だってかかってないだろうに。」

 「…船の乗船券の代金に上乗せしてる。そういう契約だと聞いている。」

 「なるほど。じゃあ、もう一つの情報の方はどうなってるんだ?」

 「…まだ調査中だ。情報伝達が早くなってるとはいえ、王都に搬送された奴隷を調べるのにはそれなりに掛かる。もう少し待ってもらうようだな。」

 「…全く嫌になる。気分が落ち込む話ばっかりだな。」

 「おいおい、最近話題のエイサップと反乱奴隷頭目の話を知らんのか?」

 「?エイサップが王女に雇われたってことだろ?奴隷を追うために。」

 「ああ。だがその前にな、実は一回エイサップが奴隷を取り逃がしているらしいんだよ。ラミシュバッツの街でよぉ。」

 「それがそんなに凄いことなのか?追っかけてんだから逃げられることもあるだろ?」
 
 「ほかの奴ならそうかもな。だが、エイサップに関しちゃそうでもねぇ。」
 
 「どういうことだよ?」

 「エイサップは一度も敵を取り逃がしたことがねぇんだ。だから万里見敵なんて二つ名がある。王女に雇われた経緯はよく解らねぇが…、その奴隷は一回はエイサップから逃れたんだ。本腰を入れるたのかもしれねぇな。」

 「ふ~ん…、で、それがなんで気分が上がる話なんだ?」

 「そりゃ、貴族のラミシュバッツや王族のラドチェリー様を手玉に取ってるんだ。俺らみたいなコソコソしてる連中やクソミソ扱いの冒険者はそりゃもうお祭り騒ぎだ。お前もそうだろ?」

 「いや、今はじめて聞いたからよ…。ラミシュバッツも手玉に取ってるのか?」

 「おお…なんと子爵から男爵に降格よ。しかも財産が大分取り上げられたようでなぁ…。男爵の地位も怪しくなってる。何て言ったってラドチェリー王女様が骨の髄までしゃぶろうとなされてるからな。クックック。もうあいつは終わりだよ。」

 「なるほどね…。とにかく定期的に魔石は卸しに来るよ。あと顔も隠してくる。」

 「そうしな。ボロでも良いから外套を着て装備も体型も隠したほうが良い。」

 「…了解だ。」

 …金を貯める必要があるのに出費が…。
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2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
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俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

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