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心の距離
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彼の言葉が、胸の奥でじんわりと広がっていく。
こんなふうに誰かに気持ちを向けられるのは、いつぶりだろう。
話したい。伝えたい。聞こえないけれど、わかってほしい。
そんな気持ちが高まっていって、私は彼の差し出した紙を受け取った。
――それから、私は自分のことを話し始めた。
どうして耳が聞こえないのか。
ここに来るまでのこと。
ここでの生活が寂しいこと。
そして――さっき、彼の言葉がとても嬉しかったこと。
話しているうちに、不思議と涙は出なかった。
笑っていた。
自分でも驚くほど、たくさん笑っていた。
彼も、そんな私につられて笑った。
声は聞こえないけれど、きっと彼の笑い声は明るいのだろう。
それだけで、胸がふわっと軽くなった気がした。
心が通じるって、こういうことなのかもしれない――
そう思っていたとき、彼が一枚の紙をそっと差し出してきた。
『いろいろ聞きたいことだったのに、全部話してくれるとは思ってなかったよ。ありがと。もっと知りたいから、また教えて?』
その文字を見たとき、泣きそうになるのを必死で堪えた。
でも、この気持ちは、もう誤魔化せない。
彼と、もっと話したい。もっと一緒にいたい。
そう、心から思った。
夕方、まだ日も暮れきらないうちに、私は彼を部屋に招いた。
相部屋のもう一人はまだ決まっておらず、今のところこの部屋は私だけ。
それもあって、安心して誘えた。
彼は「いいの?」というように目を丸くしていたけど、すぐに笑顔になって「ありがとう」と口を動かした。
机に並んで座り、お互いのことを少しずつ話した。
好きな食べ物、得意な教科、苦手なこと……
言葉を声にはできないけど、筆談ならいくらでも伝えられる。
気づけば私たちは、何度も笑い合っていた。
そのうち、彼がぽつりと呟くように書いた。
『あみ、笑った顔すごく素敵だよ』
突然の言葉に、胸がきゅっとなった。
照れくさくて、でもとても嬉しかった。
頬が熱くなるのを感じて、思わず俯いてしまう。
そのとき、彼が紙に書き足した。
『あ、同い年だってさっき気づいた!だからもっとタメ口でいいよ、俺もそうするし』
「うん」と私は笑ってうなずいた。
彼は時折、他の子たちに呼ばれて部屋から出ていくことがあった。
ほんの数分なのに、彼の姿が見えないだけで胸がざわついた。
――なんでだろう。
寂しい。たったそれだけのことなのに、胸がぎゅっと痛む。
そんな気持ちをどうしていいかわからず、私はその夜、少しだけ眠れなかった。
こんなふうに誰かに気持ちを向けられるのは、いつぶりだろう。
話したい。伝えたい。聞こえないけれど、わかってほしい。
そんな気持ちが高まっていって、私は彼の差し出した紙を受け取った。
――それから、私は自分のことを話し始めた。
どうして耳が聞こえないのか。
ここに来るまでのこと。
ここでの生活が寂しいこと。
そして――さっき、彼の言葉がとても嬉しかったこと。
話しているうちに、不思議と涙は出なかった。
笑っていた。
自分でも驚くほど、たくさん笑っていた。
彼も、そんな私につられて笑った。
声は聞こえないけれど、きっと彼の笑い声は明るいのだろう。
それだけで、胸がふわっと軽くなった気がした。
心が通じるって、こういうことなのかもしれない――
そう思っていたとき、彼が一枚の紙をそっと差し出してきた。
『いろいろ聞きたいことだったのに、全部話してくれるとは思ってなかったよ。ありがと。もっと知りたいから、また教えて?』
その文字を見たとき、泣きそうになるのを必死で堪えた。
でも、この気持ちは、もう誤魔化せない。
彼と、もっと話したい。もっと一緒にいたい。
そう、心から思った。
夕方、まだ日も暮れきらないうちに、私は彼を部屋に招いた。
相部屋のもう一人はまだ決まっておらず、今のところこの部屋は私だけ。
それもあって、安心して誘えた。
彼は「いいの?」というように目を丸くしていたけど、すぐに笑顔になって「ありがとう」と口を動かした。
机に並んで座り、お互いのことを少しずつ話した。
好きな食べ物、得意な教科、苦手なこと……
言葉を声にはできないけど、筆談ならいくらでも伝えられる。
気づけば私たちは、何度も笑い合っていた。
そのうち、彼がぽつりと呟くように書いた。
『あみ、笑った顔すごく素敵だよ』
突然の言葉に、胸がきゅっとなった。
照れくさくて、でもとても嬉しかった。
頬が熱くなるのを感じて、思わず俯いてしまう。
そのとき、彼が紙に書き足した。
『あ、同い年だってさっき気づいた!だからもっとタメ口でいいよ、俺もそうするし』
「うん」と私は笑ってうなずいた。
彼は時折、他の子たちに呼ばれて部屋から出ていくことがあった。
ほんの数分なのに、彼の姿が見えないだけで胸がざわついた。
――なんでだろう。
寂しい。たったそれだけのことなのに、胸がぎゅっと痛む。
そんな気持ちをどうしていいかわからず、私はその夜、少しだけ眠れなかった。
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