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人工内耳
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入学式は一通り終わり、今は彼とふたりきり。
春の風が心地よく吹き抜ける中、私はずっと胸の奥にしまっていた言葉をようやく伝える決意をした。
「……実はね、話しておきたいことがあるの。黙ってたことだけど……怒らないで聞いてくれる?」
そう言うと、彼は小さく首をかしげて、優しい眼差しで私を見つめた。
「里親に引き取られて……いろいろ不安もあったけど、里親――義両親がね、たくさん調べてくれて……人工内耳の手術を受けたの」
息をのみ、私は彼の反応をうかがいながら続けた。
「だから今……聞こえるんだ、いろんな声が」
言い終えた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるようで、私は自然と目を伏せた。
怒られるかもしれない。拒絶されるかもしれない。
けれど――
ふわりと、彼の温もりが私を包んだ。
「え……?」
抱きしめられた瞬間、身体がこわばった。だけど、それは拒絶ではなかった。
彼は、震えていた。
顔を覗くと、彼の目から涙がこぼれていた。
「……うれしいよ。あみの声、これからもっと聞いてもらえるんだね……!」
彼の涙は、うれし泣きだった。
胸がいっぱいになって、私もそっと彼に腕を回す。
この日、この瞬間、ようやく私は新しい一歩を踏み出せた気がした。
春の風が心地よく吹き抜ける中、私はずっと胸の奥にしまっていた言葉をようやく伝える決意をした。
「……実はね、話しておきたいことがあるの。黙ってたことだけど……怒らないで聞いてくれる?」
そう言うと、彼は小さく首をかしげて、優しい眼差しで私を見つめた。
「里親に引き取られて……いろいろ不安もあったけど、里親――義両親がね、たくさん調べてくれて……人工内耳の手術を受けたの」
息をのみ、私は彼の反応をうかがいながら続けた。
「だから今……聞こえるんだ、いろんな声が」
言い終えた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるようで、私は自然と目を伏せた。
怒られるかもしれない。拒絶されるかもしれない。
けれど――
ふわりと、彼の温もりが私を包んだ。
「え……?」
抱きしめられた瞬間、身体がこわばった。だけど、それは拒絶ではなかった。
彼は、震えていた。
顔を覗くと、彼の目から涙がこぼれていた。
「……うれしいよ。あみの声、これからもっと聞いてもらえるんだね……!」
彼の涙は、うれし泣きだった。
胸がいっぱいになって、私もそっと彼に腕を回す。
この日、この瞬間、ようやく私は新しい一歩を踏み出せた気がした。
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