戦闘兵器を人間にする

日明

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悪い子

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「よし!街に行くか!」
ダリルの不意の言葉にゼーリッヒは首を傾げる。
「いつも行ってくるって言うのになに?」
「お前も一緒に行くんだよ」
「僕も?」
「俺以外の人間と話すのも社会に出る上でめちゃくちゃ大事なことだからな」
ほらと手を伸ばされ、その手をとる。ダリルは嬉しそうに口元を緩め、それじゃあ行こうと二人で家を出た。
ゼーリッヒにとって街は馬車の中で過ぎていく景色だった。たまに施設の移動で馬車に乗っていたが、ノースエイシェンの街はゼーリッヒの居た国ゼネラルとは全く違った。
人々が生き生きと笑顔で街中を闊歩している。ゼネラルでは人の姿を見ることも稀だった。居たとしても暗い顔で視線を下げている者たちばかりだったのに、こんなにも違うのかと驚いた。
「ダリル!」
「ミーシャねえさん!元気そうだな」
声をかけて来たのは八百屋を営んでいる女性だった。ミーシャと呼ばれたその人は当たり前よぉと言いながら、腕を曲げて力こぶを作ってみせる。
「あたしが毎日皆のためにどれだけ重い荷物運んだりしてると思ってんのよ」
「ほんといつもありがとな」
「あら?」
不意にミーシャの目がゼーリッヒに止まる。
その視線に気づいたダリルが、問われる前に口を開いた。
「こいつはゼーリッヒ。戦争孤児でな。今は俺と一緒に暮らしてるんだ」
「あらそうなの!」
ミーシャはゼーリッヒの前で屈むと視線を合わせた。
「初めましてゼーリッヒ。あたいはミーシャ。ミーシャねえさんって呼んでね」
「初めまして。ミーシャねえさん」
「いい子じゃないか。ちゃんとご飯は食べさせて貰ってるかい?」
「うん。毎日美味しいご飯を食べさせて貰ってる」
「そう。出会った記念だ。リンゴいくつか持ってきな」
「いいのか!?じゃあついでに野菜も買うからちょいとオマケしてくれよ」
「全くしょうがないねぇ」
しょうがないと言いつつ、ミーシャの表情は笑顔だ。
買い物が終わり、街を歩いていると沢山の人から声をかけられた。
その度にミーシャと同じように挨拶をする。
皆ダリルに対してあまりにも好意的で驚いた。
「この街にダリルを知らない人は居ないの?」
「あぁ。なんてったって英雄様だからな」
ダリルはふふんと鼻を鳴らす。
英雄...。優れた才を持ち、非凡な事を成し遂げた人を指す言葉だ。
優れた才はあの強さだろう。
「ダリルの成し遂げたことって何?」
「あー...」
ゼーリッヒの問にダリルは気まずそうに頬を掻く。その様子に首を傾げていると、不意に近づく気配に揃って勢いよく後ろを向く。
そこには青年が立っていた。ひと目見るだけで鍛え上げれている兵士のものだと分かる。
「ルード...」
ダリルが青年の名前を呼んでいる以上、知り合いである事は確かだ。だが、今までの街の人達とは違う表情をしている。
それは敵意だ。
「隊長...【それ】は戦闘兵器です」
「過去の話だ」
「そいつに何人殺されたと思ってるんですか!?」
その言葉にダリルは眉間に皺を寄せた。
「それは殺すべきです。隊長が子供を殺しづらいのだと言うのなら俺がやります」
ルードと呼ばれた青年の鋭い視線がゼーリッヒに向けられる。だが、そんなゼーリッヒを庇うようにダリルが前に立った。
「こいつは俺の子だ」
「隊長!」
「例えお前だろうと、こいつに手を出すことは許さん。確かにこいつは俺達の仲間を殺した。だが...それは俺達も同じだ」
ダリルの後ろから相手を伺えば、ぐっと唸っているのが分かった。
そんなルードにダリルは続ける。
「こいつはただ命令に従っていただけだ。刃物だって果物の皮を剥く道具だが、人を刺せば途端に凶器に変わる。使う者次第だ。こいつは使われていただけだ」
「それでも...それでも俺はそいつを許せません」
「許せとは言わない。ただそっとしておいてやって欲しい。責任は俺がとる」
「...そいつが街の人間一人にでも危害を加えたら即座に殺します。いいですね」
「分かった」
ルードは去り際ゼーリッヒを鋭く睨みつけ、歩き去った。
少し間を置いて、ダリルが振り返る。
「そろそろ帰ろうか。ゼーリッヒ。お腹空いたろ」
「うん」
再び手を繋ぎ、歩き出すとポツリとゼーリッヒが問いかけた。
「ねぇダリル。人を殺すのは悪いことだよね」
「...そうだな。悪いことだ」
「じゃあ、僕は悪い子だね」
不意にダリルが立ち止まり、ゼーリッヒの前に回り込むとしゃがんで視線を合わせた。
「確かにお前が沢山の人間を殺した事実は一生変わらない。人を殺すことはそいつの人生を奪うこと。そいつの家族から大切なものを奪うこと。そして、悲しみを生むだけの所業だ。でも...当時のお前はそれを知らなかった。お前が悪いんじゃない。お前を利用した国が悪いんだ」
「でも、僕はその事になんの疑問も持たなかった。その意味も理解しようとはしなかった。無知であることも1つの罪のように思うよ」
「お前...よく喋るようになったなぁ。そんで賢くもなった」
ダリルはくしゃりとゼーリッヒの頭を撫で、笑った。
「罪を犯したと思うなら償えばいい」
「どうやって?」
「人を助けるんだ。人にやさしくするんだ。奪う人間ではなく、分け与えれる人間になれ。それを続ければお前を悪いなんて言う人間は居なくなる。少なくとも俺にとってお前はいい子だよ」
人を助ける。人にやさしくする。
ゼーリッヒの中ではいまいちイメージのつかない内容だ。
それでも、人にやさしくするということを学んでいこうとそう思った。
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