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ダリル以外の大人
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ダリルが居ない間、勉強をしたり、読書をしたり、薪を割ったりとしたことをしているゼーリッヒ。
この日は山に薬草を取りに行っていたが、何かが飛んでくる気配があり反射的に避けた。
「あ!避けやがった!」
そこに居たのは自分と変わらぬ歳の子供達が2人。指をさしてきた少年の隣の赤髪の少年の手に石が握られていたため、彼らが投げてきたものだろうことは悟った。
「どうして石を投げるの?」
「お前化け物なんだろ?化け物がこの街に住むんじゃねぇよ!」
「さっさと出ていけ」
子供達は落ちている石を次々投げてくるが、ゼーリッヒにとってこの程度避け切るのは容易いものだった。それを示すように投げる子供達の体力の方が先に尽き、肩で息をしている。
「マジで化け物かよ...。当たんねぇじゃん...」
「だって避けれないほどの数じゃないもん」
「じゃあもっと増やしてやるよ!!」
ヤケになった子供達が更に投石の数を増やすが、ゼーリックは先程と対して変わらず避けていく。すると不意に聞こえた怒鳴り声で子供達の動きが止まった。
「何をしとるかお前ら!!」
現れたのは杖をつきながら歩いてくる初老の男性だった。その男性を見て子供達はげっ!と声をあげる。
「ガミガミジジイだ!」
「逃げろ!!」
途端に子供達は走って逃げ出し、その背に男性は家は知っとるんだからな!と叫んでいた。
全くとブツブツ言いながらゼーリッヒに視線を向ける。
「大丈夫じゃったか?」
「うん。一つも当たってないよ」
「お主は...なるほど。余程の世界を生き抜いて来たんじゃな」
男性の手が頭に伸びてきた瞬間反射的に距離をとり、ゼーリッヒはハッとする。
「ごめんなさい。攻撃の意図が無いことは分かっていたんだけど、体が勝手に動いてしまって...」
「いいんじゃいいんじゃ。分かっとる。そうせんと、生きられんかったんよな」
「上手くできないと頭を掴まれて水に沈められてたから。それで死んだやつも居て。だから頭に触られるのは死を意識してしまって...」
頭に触られることは害されることだと本能的に染み付いてしまっていた。自分が生きるためには上手くやることしか無かった。
それを思い出していると、男性は眉を下げた。
「なんと惨いことを...。ここではもうそんな事は起きんからな。安心せい」
「うん。分かってる。最近ダリルに頭を撫でて貰うのも好きになってきたんだ」
ダリルの手は暖かい。初めて頭を触られるのが怖くなかった。偉いと褒めてもらえるのが嬉しかった。
「そうか。良かったなぁ。坊主、飯は食ったか?」
「ううん。薬草をとったら家で食べようと思ってたから」
薬草は自分たちの怪我の治療にも使え、売ればお金にもなるため定期的に取りに行っている。
「そうか。それじゃあうちで飯でもどうじゃ。鹿の肉もあるからダリルに持って帰ってやるといい」
「じゃあ僕はこの薬草を貴方にあげる」
「いいいい!子供がそんな気を遣うな!」
「でもそれじゃあ等価交換にならない」
「いいか。大人が子供を助け、導いてやるのはこの国では当たり前のことなんじゃ。まぁ悪い大人もおるが、わしのことは信用してくれていい」
「貴方が悪い大人でないことを僕はどうやって判断すればいい?」
「お主が嫌なことをすればわしを悪い大人と思ってくれればいい。敵だと思った人間を倒せる力はあるだろう」
「でも、この街の人間に危害を加えたら殺されてしまうから」
ゼーリッヒは街で会ったルードの事を思い出していた。彼はダリルの知り合いでもあった。何かあればダリルにも迷惑がかかるだろう。
それだけは避けたかった。
「そうか。なら、わしが悪い人間ならダリルに言えばいい。その他の悪い奴らはわしに言ってくれれば叱りに行ってやる。あの悪ガキどもみたいなな」
「あの子は悪い子なの?」
「お前さん石を投げられていたんじゃぞ?」
「でも、僕のことを殺してないよ」
「いいか。人を傷つけることも悪いことなんじゃ。傷つけるのは何も肉体だけではない。心を傷つける人間も悪い奴なんじゃよ」
「僕怪我してないよ」
「そうじゃな。それはお前さんが強かったから怪我をしなかっただけじゃ。これが弱い人間なら怪我をし、心だって傷つく」
男性の言葉はゼーリッヒには難しく、考え込んでいると男性は笑った。
「お前さんが傷ついてないならそれでいい。ほら、飯にしよう」
促されるまま家に行き食事をご馳走になった。
帰りに鹿の肉を持たせてくれ、帰ったダリルに男性と会ったことを伝えると口元を片手で覆って苦笑した。
「ゲントじいさんに世話になったのか...。あの人は子供嫌いで有名だが、随分好かれたもんだな」
「あの人はゲントという名前なの?」
「あぁ。あの人は俺の師匠でもある。人柄は保証する。安心して相手してもらえ」
「分かった。ゲントからお肉貰ったから食べよう」
「鹿肉か!いいな!ステーキにするか!」
ウキウキした様子のダリルが調理し、出してきた料理を食べようとした直後ふとダリルの言葉を思い出した。半分に切った鹿肉のステーキをダリルの皿に乗せる。
「どうした?食欲ないか?」
「ううん。優しい人になりたいから」
人に何かを分け与えられる者も優しい人なのだとダリルに教わった。
ダリルは少し驚いた表情をしていたが、その表情が嬉しそうな、泣きそうな複雑な顔に変わった。
「ありがとうゼーリッヒ。じゃあ!1口貰うけどあとはちゃんとお前が食べろ」
「分かった」
「ゼーリッヒ。焦んなくてもお前はちゃんといい子だ。大丈夫」
「僕は...ダリルのような優しい人になりたい」
思ったことを言っただけなのに、ダリルは号泣してしまった。
何を間違えたのかと動揺していたが、嬉し泣きだから大丈夫だと説明を受けた。
嬉しい時も、悲しい時も出る涙の判断はまだ難しい。
この日は山に薬草を取りに行っていたが、何かが飛んでくる気配があり反射的に避けた。
「あ!避けやがった!」
そこに居たのは自分と変わらぬ歳の子供達が2人。指をさしてきた少年の隣の赤髪の少年の手に石が握られていたため、彼らが投げてきたものだろうことは悟った。
「どうして石を投げるの?」
「お前化け物なんだろ?化け物がこの街に住むんじゃねぇよ!」
「さっさと出ていけ」
子供達は落ちている石を次々投げてくるが、ゼーリッヒにとってこの程度避け切るのは容易いものだった。それを示すように投げる子供達の体力の方が先に尽き、肩で息をしている。
「マジで化け物かよ...。当たんねぇじゃん...」
「だって避けれないほどの数じゃないもん」
「じゃあもっと増やしてやるよ!!」
ヤケになった子供達が更に投石の数を増やすが、ゼーリックは先程と対して変わらず避けていく。すると不意に聞こえた怒鳴り声で子供達の動きが止まった。
「何をしとるかお前ら!!」
現れたのは杖をつきながら歩いてくる初老の男性だった。その男性を見て子供達はげっ!と声をあげる。
「ガミガミジジイだ!」
「逃げろ!!」
途端に子供達は走って逃げ出し、その背に男性は家は知っとるんだからな!と叫んでいた。
全くとブツブツ言いながらゼーリッヒに視線を向ける。
「大丈夫じゃったか?」
「うん。一つも当たってないよ」
「お主は...なるほど。余程の世界を生き抜いて来たんじゃな」
男性の手が頭に伸びてきた瞬間反射的に距離をとり、ゼーリッヒはハッとする。
「ごめんなさい。攻撃の意図が無いことは分かっていたんだけど、体が勝手に動いてしまって...」
「いいんじゃいいんじゃ。分かっとる。そうせんと、生きられんかったんよな」
「上手くできないと頭を掴まれて水に沈められてたから。それで死んだやつも居て。だから頭に触られるのは死を意識してしまって...」
頭に触られることは害されることだと本能的に染み付いてしまっていた。自分が生きるためには上手くやることしか無かった。
それを思い出していると、男性は眉を下げた。
「なんと惨いことを...。ここではもうそんな事は起きんからな。安心せい」
「うん。分かってる。最近ダリルに頭を撫でて貰うのも好きになってきたんだ」
ダリルの手は暖かい。初めて頭を触られるのが怖くなかった。偉いと褒めてもらえるのが嬉しかった。
「そうか。良かったなぁ。坊主、飯は食ったか?」
「ううん。薬草をとったら家で食べようと思ってたから」
薬草は自分たちの怪我の治療にも使え、売ればお金にもなるため定期的に取りに行っている。
「そうか。それじゃあうちで飯でもどうじゃ。鹿の肉もあるからダリルに持って帰ってやるといい」
「じゃあ僕はこの薬草を貴方にあげる」
「いいいい!子供がそんな気を遣うな!」
「でもそれじゃあ等価交換にならない」
「いいか。大人が子供を助け、導いてやるのはこの国では当たり前のことなんじゃ。まぁ悪い大人もおるが、わしのことは信用してくれていい」
「貴方が悪い大人でないことを僕はどうやって判断すればいい?」
「お主が嫌なことをすればわしを悪い大人と思ってくれればいい。敵だと思った人間を倒せる力はあるだろう」
「でも、この街の人間に危害を加えたら殺されてしまうから」
ゼーリッヒは街で会ったルードの事を思い出していた。彼はダリルの知り合いでもあった。何かあればダリルにも迷惑がかかるだろう。
それだけは避けたかった。
「そうか。なら、わしが悪い人間ならダリルに言えばいい。その他の悪い奴らはわしに言ってくれれば叱りに行ってやる。あの悪ガキどもみたいなな」
「あの子は悪い子なの?」
「お前さん石を投げられていたんじゃぞ?」
「でも、僕のことを殺してないよ」
「いいか。人を傷つけることも悪いことなんじゃ。傷つけるのは何も肉体だけではない。心を傷つける人間も悪い奴なんじゃよ」
「僕怪我してないよ」
「そうじゃな。それはお前さんが強かったから怪我をしなかっただけじゃ。これが弱い人間なら怪我をし、心だって傷つく」
男性の言葉はゼーリッヒには難しく、考え込んでいると男性は笑った。
「お前さんが傷ついてないならそれでいい。ほら、飯にしよう」
促されるまま家に行き食事をご馳走になった。
帰りに鹿の肉を持たせてくれ、帰ったダリルに男性と会ったことを伝えると口元を片手で覆って苦笑した。
「ゲントじいさんに世話になったのか...。あの人は子供嫌いで有名だが、随分好かれたもんだな」
「あの人はゲントという名前なの?」
「あぁ。あの人は俺の師匠でもある。人柄は保証する。安心して相手してもらえ」
「分かった。ゲントからお肉貰ったから食べよう」
「鹿肉か!いいな!ステーキにするか!」
ウキウキした様子のダリルが調理し、出してきた料理を食べようとした直後ふとダリルの言葉を思い出した。半分に切った鹿肉のステーキをダリルの皿に乗せる。
「どうした?食欲ないか?」
「ううん。優しい人になりたいから」
人に何かを分け与えられる者も優しい人なのだとダリルに教わった。
ダリルは少し驚いた表情をしていたが、その表情が嬉しそうな、泣きそうな複雑な顔に変わった。
「ありがとうゼーリッヒ。じゃあ!1口貰うけどあとはちゃんとお前が食べろ」
「分かった」
「ゼーリッヒ。焦んなくてもお前はちゃんといい子だ。大丈夫」
「僕は...ダリルのような優しい人になりたい」
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