戦闘兵器を人間にする

見えない傷

ダリルの話を聞きたくてゲントの家に行った。
ドアをノックして声をかけるが反応がない。
外出してるのかと窓から中を覗けば、ゲントはベットに入ったままだった。
まだ寝ているのかと理解し、起きるまで待とうと思った。だが、随分日が傾いてもゲントが起きてくる気配はなかった。
不意に何かがざわりと胸を撫でた。
ゼーリッヒは鍵のかかったドアをもう一度叩く。
「ゲント！返事がなければドアを蹴破るよ！」
やはり反応はなく、ゼーリッヒはドアを蹴破った。
木製のドアは案外簡単に壊れ、すぐに飛び込んだゼーリッヒはベットのゲントに駆け寄る。
「ゲント！！」
近づいてすぐに分かった。

死んでいる。

途端に頭が真っ白になって、できた行動は街でダリルを探して呼びに行くことだった。
大人達と共にゲントの家に行き、やはり、死んでいると分かった。
死んだ人間は埋葬される。
別れの儀式を葬式と呼ぶのだと聞かされた。
土に埋められたゲントの遺体の前で立ち尽くす。
戦場と実験以外で人が死ぬところを初めて見た。
「ダリル...もうゲントと話せないよね」
「あぁ。そうだな」
確認をするようにぽつりぽつりと呟く。
「ゲントに今度ダリルの昔の話を聞かせてもらう約束をしたんだ」
「...俺が代わりに話すよ」
「僕ゲントに沢山貰ったのに、ゲントは僕と居て何の得もなかった」
「いいや。ゲントじいさんはお前と居て楽しくて、幸せだったよ。その時間に価値があるんだ。お前と一緒にいたゲントじいさんは楽しそうだったろ？」
「うん...。僕も楽しかったんだ。でも...もう、遊んでもらえない。ゲントに美味しいご飯を作って貰えない」
そう口に出すのと同時に涙が零れた。
いつからか、流れることが無くなった涙が幾つも、幾つも零れる。
痛い以外で泣いたことはなかった。
でも、今は傷なんてない。
あぁでも...胸の辺りが締め付けられるように痛い。
そうか。今心に傷がついているんだ。
ゲントと会えなくなったことが、悲しいんだ。
理解した途端声をあげて泣いた。
周りが驚いて目を丸くするほど大声で。
そんなゼーリッヒをダリルが泣き止むまでずっと抱き締めて頭を撫でてくれた。