美しさの中の願い

日明

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危険性

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「ところであんたの名前は?」
山頂にあるとされる天国に向かいながらふとお互いの名前を知らなかったことを思い出す。
「エリスだ。君の名も聞こうじゃないか」
「ハンジェッド」
「ならば私は君をジェッドと呼ぼう。私のことは好きに呼んでくれ。この子はペランス。私が雛から育てたんだ」
「ヨロシクネ」
言った言葉をそのまま返す鳥や、決まった言葉を繰り返す鳥は聞いたことはあったが、会話が成立していると思うような鳥は初めてだ。
羽繕いをしている姿は至って普通のフクロウだと言うのに。
「ペランスはメスなのか?」
「いいやオスだよ。あ!見てくれ!」
指さされた方へ目を向ければ木の実をつついている鳥の姿があった。
「あの魚の鱗のようにも見える胸元の羽毛、目立つ赤色の足、しっぽのような尾羽根。間違いない!この辺りにしか生息していないシャクケイという鳥だ!」
「あいつが食べてるってことは人間も食べれるかな。ちょっと取ってくる」
「待ちたまえ!」
腕を掴んでまで止められ少し驚く。
「あの木に紫の花がついているだろう?」
確かに沢山の紫の花がついている。花びらを縁取るように白が入っており綺麗だ。
「連なるような紫の花、ギザギザの葉。特徴に合致する植物はランダという木だ。あの木の葉も実も毒性を持つ。シャクケイはその毒に抗体があるから食べられているんだ」
「マジかよ...」
他の生き物が食べているなら毒性は無いだろうと勝手に思い込んでいた。エリスが居なければ毒の実を食べて死んでいたかも知れない。
生きるためには知識が大事だということを痛感した。
「なぁ、この山にある危険について...」
色々教えてくれないかと続くはずだった言葉が止まる。何故なら先程毒だと言った実を取って食べている馬鹿が居たからだ。
「何してんだあんた!?」
「ランダの実は確かに毒性を持つが、死ぬほどのものではない。お!ほうら来たぞ!激しい腹痛だ!ランダの実で引き起こされるのは激しい腹痛、下痢、嘔吐だ!なるほど即効性とは...っ」
「感心してんじゃねぇよ!!さっさと吐けこの馬鹿!!」
無理矢理指を突っ込んで吐かせたが、下からも出るようで暫し待つことになった。
「いやぁすまない待たせたな」
「あんたは本当に馬鹿なのか?」
「バーカ!」
彼女のペットであるペランスも俺の味方のようだ。
「私の知識は全て人から聞いた話でね。実際に体験することでより聞いた話が鮮明に記憶に残る。素晴らしいだろう!?」
キラキラと曇りなき眼で見つめられるが、こちらは正気を疑う淀んだ目しか相手に向けられなかった。
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