3 / 9
問い
しおりを挟む
日が暮れる前に食糧になりそうなものをエリスに聞きながら集めた。
焚き火の準備が完了し、座っているとエリスが俺の周りにだけ謎の液体を撒いた。
詳しく聞けば最初の話に出た人喰いアリも避ける虫除けだそうだ。エリス自身の周りに撒かない理由は最早聞かず、問答無用で虫除けを撒いた。
少し唇を尖らせているエリスにため息をつく。
「あんたが変態なことは理解してるが、アリに食われてるあんたを見る俺の身にもなって貰えるか」
「変態ではない!ただ知りたいだけだ!」
「ヘンタイ!ヨクナイワ!」
ペランスに悪い言葉を教えてしまっている気がするが、今回に関してはしょうがない。
「好奇心は猫をも殺すって言葉知らないのか」
「知っているとも。だが、冒険と危険は常に隣り合わせだ」
「知らないで危険な目に遭うのは分かるが、知ってて自ら危険に向かうのはただの馬鹿だろ」
エリスは反論をやめ顔を逸らした。
正直人喰いアリに食われてるとこを見せつけられる可能性を黙っている、なんてことは勘弁して欲しい。
暫しお互い無言でいたが、思わず口を開く。
「何も聞かないのか」
「何をだい?」
「俺の事」
みすぼらしい格好の男が森で倒れていた。
その事実は大抵の人間なら疑問に思うはずなのに、彼女は名前以外のことを問いかけてきたことはなかった。
「聞いて欲しいのかい?」
あまりにも優しい声での問いかけだった。それを聞いた瞬間に何かが決壊し、零れる。
「俺の妹は...ハーリィは病気だった。治らないと言われた。それでも生きて欲しくて必死に金を稼いで医者達に頭を下げた。でもやっぱり、ハーリィの死は避けられなくてハーリィは死ぬ前に言ったんだ『お兄ちゃんりんごが食べたい』って」
俯き、膝に置いた手を強く強く食い込むほど握りしめる。
「でもハーリィの治療費でお金がなくて俺は...りんごを盗んだ。でも...戻ったら妹はもう...死んでた」
視界が歪み、雫が幾つも幾つも滴り落ちる。
「ハーリィの願いだとしても傍に居てやれば良かった...っ。そうすれば一人で死なせなくて済んだのに...っ」
「いいや。君は自分の最善を尽くそうとしただけだ。妹さんの最後の願いを叶えるためにね。いい兄だよ」
「違う!!!」
彼女は俺を慰めてくれている。分かっているのに、感情が止められなかった。
「ハーリィに無理に治療をさせなければもっと苦痛は短く済んだ!治らないと分かっていたのに...っ。俺のエゴであいつを苦しめたんだ!そんな奴が...っいい兄でたまるかよ...っ」
強く唇を噛めば下げていた顔が無理矢理上を向かされる。最初に見惚れた金の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
「大切な家族に生きていて欲しいと願わない者が何処にいる。大切な家族と少しでも長く一緒に居たいと願わない者がどこにいる。もう問いかけることは叶わないが、君がいい兄かどうか決めるのは妹さんだ。君がどう思おうとね」
「でも...っ俺は...っ」
「罪の意識があるのは理解できる。だから、忘れなければいい。大切な妹さんと生きた時間を。愛した気持ちを。思い出す度、胸を刺されるような痛みを覚えるだろう。だが、それは愛の証だ。そしてその証はきっと君を救う」
頬に添えられていた手で頭を撫でられる。
暖かくて、優しい手だ。
「この国で窃盗は死罪だ」
「あぁ...。でも俺を逃がしてくれた看守が居たんだ。彼にも病の妻が居て、俺の事を理解してくれた...。でも俺がいないことがバレれば彼は鞭で打たれ、減給もされるって言うのに...」
とても優しい人だった。
最初はどんな理由でぶち込まれたんだと軽い調子で問いかけてきた。でも理由を言うと彼の表情が一変し、彼は自身に起こる全ての痛みを承知の上で俺を逃がしてくれた。とても、優しい人だった。
「だから俺は生きなきゃいけない。妹の分まで、俺を救ってくれたあの人の分まで」
不意にエリスは天使のように優しく微笑んで、また頭を撫でてくれた。
「君はきっとこれからもずっと、沢山の人に愛されるだろう。だからこそ、ここで別れるべきだ」
「どうして!」
「危険だからだ。この先標高が高くなればなるほど空気が薄くなり、体調不良を引き起こす。重度になれば死すら有り得る。君は生きなければならないだろう」
そうだ。生きなければならない。それは確かな事実だ。
それでも。
「俺は見たい。あんたが天国と称する場所を。ただ生きるっていう漠然とした目標しか持ってなかった俺の、初めての目的だ」
暫く睨み合うように見つめ合う。やがて、エリスがため息をついた。
「危険だと思えば問答無用で君を置いていく」
「意地でもついて行ってやる」
「イノチハダイジダヨ!」
ペランスにも心配されたが俺の気持ちは変わらない。先に進むことで何が得られるかは分からない。それでも、今の俺にとって天国にたどり着くことは1番大事なことなんだ。
焚き火の準備が完了し、座っているとエリスが俺の周りにだけ謎の液体を撒いた。
詳しく聞けば最初の話に出た人喰いアリも避ける虫除けだそうだ。エリス自身の周りに撒かない理由は最早聞かず、問答無用で虫除けを撒いた。
少し唇を尖らせているエリスにため息をつく。
「あんたが変態なことは理解してるが、アリに食われてるあんたを見る俺の身にもなって貰えるか」
「変態ではない!ただ知りたいだけだ!」
「ヘンタイ!ヨクナイワ!」
ペランスに悪い言葉を教えてしまっている気がするが、今回に関してはしょうがない。
「好奇心は猫をも殺すって言葉知らないのか」
「知っているとも。だが、冒険と危険は常に隣り合わせだ」
「知らないで危険な目に遭うのは分かるが、知ってて自ら危険に向かうのはただの馬鹿だろ」
エリスは反論をやめ顔を逸らした。
正直人喰いアリに食われてるとこを見せつけられる可能性を黙っている、なんてことは勘弁して欲しい。
暫しお互い無言でいたが、思わず口を開く。
「何も聞かないのか」
「何をだい?」
「俺の事」
みすぼらしい格好の男が森で倒れていた。
その事実は大抵の人間なら疑問に思うはずなのに、彼女は名前以外のことを問いかけてきたことはなかった。
「聞いて欲しいのかい?」
あまりにも優しい声での問いかけだった。それを聞いた瞬間に何かが決壊し、零れる。
「俺の妹は...ハーリィは病気だった。治らないと言われた。それでも生きて欲しくて必死に金を稼いで医者達に頭を下げた。でもやっぱり、ハーリィの死は避けられなくてハーリィは死ぬ前に言ったんだ『お兄ちゃんりんごが食べたい』って」
俯き、膝に置いた手を強く強く食い込むほど握りしめる。
「でもハーリィの治療費でお金がなくて俺は...りんごを盗んだ。でも...戻ったら妹はもう...死んでた」
視界が歪み、雫が幾つも幾つも滴り落ちる。
「ハーリィの願いだとしても傍に居てやれば良かった...っ。そうすれば一人で死なせなくて済んだのに...っ」
「いいや。君は自分の最善を尽くそうとしただけだ。妹さんの最後の願いを叶えるためにね。いい兄だよ」
「違う!!!」
彼女は俺を慰めてくれている。分かっているのに、感情が止められなかった。
「ハーリィに無理に治療をさせなければもっと苦痛は短く済んだ!治らないと分かっていたのに...っ。俺のエゴであいつを苦しめたんだ!そんな奴が...っいい兄でたまるかよ...っ」
強く唇を噛めば下げていた顔が無理矢理上を向かされる。最初に見惚れた金の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
「大切な家族に生きていて欲しいと願わない者が何処にいる。大切な家族と少しでも長く一緒に居たいと願わない者がどこにいる。もう問いかけることは叶わないが、君がいい兄かどうか決めるのは妹さんだ。君がどう思おうとね」
「でも...っ俺は...っ」
「罪の意識があるのは理解できる。だから、忘れなければいい。大切な妹さんと生きた時間を。愛した気持ちを。思い出す度、胸を刺されるような痛みを覚えるだろう。だが、それは愛の証だ。そしてその証はきっと君を救う」
頬に添えられていた手で頭を撫でられる。
暖かくて、優しい手だ。
「この国で窃盗は死罪だ」
「あぁ...。でも俺を逃がしてくれた看守が居たんだ。彼にも病の妻が居て、俺の事を理解してくれた...。でも俺がいないことがバレれば彼は鞭で打たれ、減給もされるって言うのに...」
とても優しい人だった。
最初はどんな理由でぶち込まれたんだと軽い調子で問いかけてきた。でも理由を言うと彼の表情が一変し、彼は自身に起こる全ての痛みを承知の上で俺を逃がしてくれた。とても、優しい人だった。
「だから俺は生きなきゃいけない。妹の分まで、俺を救ってくれたあの人の分まで」
不意にエリスは天使のように優しく微笑んで、また頭を撫でてくれた。
「君はきっとこれからもずっと、沢山の人に愛されるだろう。だからこそ、ここで別れるべきだ」
「どうして!」
「危険だからだ。この先標高が高くなればなるほど空気が薄くなり、体調不良を引き起こす。重度になれば死すら有り得る。君は生きなければならないだろう」
そうだ。生きなければならない。それは確かな事実だ。
それでも。
「俺は見たい。あんたが天国と称する場所を。ただ生きるっていう漠然とした目標しか持ってなかった俺の、初めての目的だ」
暫く睨み合うように見つめ合う。やがて、エリスがため息をついた。
「危険だと思えば問答無用で君を置いていく」
「意地でもついて行ってやる」
「イノチハダイジダヨ!」
ペランスにも心配されたが俺の気持ちは変わらない。先に進むことで何が得られるかは分からない。それでも、今の俺にとって天国にたどり着くことは1番大事なことなんだ。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる