子ぎつねさま

菜花さくら

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0章 山里

0-5 少女はいずこや

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 午後の森は、陽光が斜めに差し込み、木々の影が長く伸びていた。加奈は、昨日見かけた金髪の少女のことを思い出しながら、子ぎつねさまといつもの祠へ向かう。

「今日こそ……正体わかるかな……」
 加奈は少しドキドキしながら、小道を進む。ふわりと白い毛並みが見え、子ぎつねさまがぴょんと跳ね、尻尾をふわふわ揺らして加奈の足元に寄ってきた。

「子ぎつねさま、昨日の金髪の少女……」
 加奈が言いかけると、子ぎつねは「こん」と小さく鳴いた。その瞬間、子ぎつねはふわりと体を光らせ、毛が縮み、耳が伸び、あっという間に金髪の少女の姿になった。巫女服を着た姿は昨日のあの少女そのものだ。

「わ、わぁっ!」
 加奈はびっくりして後ろに転びそうになる。足元の枝につまずき、思わず「うわっ!」と叫ぶ。バッグが森の地面に転がり、ころころと小さな坂を滑っていく。

「ちょっ、待って!」
 加奈は必死でバッグを追いかけるが、足を滑らせて尻もち。森の葉っぱと土にまみれながら、顔を上げると、金髪の少女がクスリと笑って手を差し伸べていた。

「ふふ、びっくりした?これが本当の私の姿なんだ」
 加奈は手を取られて立ち上がるも、今度は枝に引っかかり、派手に転ぶ。森の小道がまるで滑り台のようだ。

「も、もう……私ってドジすぎ……」
 加奈は頭をかき、顔を真っ赤にして笑った。少女はクスリと笑い、しっぽを振る。
 ふと目の前に、小さな池があった。加奈が近づくと、水面に映った自分の顔と子ぎつねさまの姿が並んで見える。
「…これ昨日の池だ」
 加奈が小声でつぶやくと、子ぎつねさまは手を軽く振り、水面に小さな波紋を作った。
 その波紋に触れた瞬間、加奈のバッグがふわりと水面に浮かび、まるで自ら泳いでいるかのように池の中央に進む。

「ええっ!?バッグが勝手に!」
 加奈は大慌てで池に手を伸ばすが、滑って尻もちをつく。背中に小さな水しぶきが跳ね、バッグはさらに池の奥へ。子ぎつねさまはクスッと笑いながら、「ちょっと魔法を混ぜちゃった」と言うように手をかざす。すると、バッグはふわりと跳ね上がり、加奈の手元に戻った。

「うわぁ、すごい……でも……びしょびしょ!」
 加奈は思わず叫び、バッグを拭き水滴を飛ばす。子ぎつねさまは楽しそうに光を散らし、森中に小さな虹ができた。

 その後も、森の中では小さなドジハプニングが続く。
 加奈が落ち葉を踏んで滑ると、子ぎつねさまが尻尾ではなく髪で軽く加奈を支える。加奈は慌てて「わっ!」と叫ぶが、二人で転びながらも笑いが止まらない。

 夕暮れになり、二人は祠に戻る。加奈は息を整え、やっと落ち着く。「ふぅ……今日は大騒ぎだったけど、なんだか楽しかったな」
 子ぎつねさまはにっこり笑い、ふわりと光を散らす。加奈の頭に小さな光の花がぽとりと落ち、思わずくしゃみをする。

「くしゅん!もう……光でくすぐったいってば!」
 加奈は笑いながら光を振り払う。子ぎつねさまは「こん」と鳴き、森の葉に光を散らし、まるで笑い声を森全体に響かせるかのようだった。

 家に帰る道すがら、加奈は帽子を抱えつつ、今日の出来事を思い返す。
 金髪の少女=子ぎつねさまの正体がわかり、森の魔法もますます楽しくなった。帽子や水しぶきのハプニングも、後で思い返せば笑い話になるだろう。

 夜、窓の外に星が瞬き始める頃、加奈は布団に潜り込み、今日の出来事を反芻する。子ぎつねさまの正体が分かり、森の冒険はさらに面白くなる予感。
 胸の奥に、小さなわくわくと、ちょっとした笑いの余韻を抱きながら、加奈は目を閉じた。
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