子ぎつねさま

菜花さくら

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0章 山里

0-7 封印

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翌朝。
 加奈は目を覚ますと、まだ夢の中にいるような気分だった。手のひらに小さな光を生んだ感覚――それは幻ではなく、確かに残っている。

「……わ、私、本当に魔法が……」
 布団の中でころりと転がり、枕に顔をうずめる。
 胸の奥が熱くなるのを感じながら、同時に、不思議な不安も芽生えていた。

 学校に行く道すがらも、帽子をかぶる手がやたらと落ち着かない。
「……やっぱり、帽子自動回収魔法、最優先かも」
 ひとりごちた瞬間、道端の枯葉がふっと舞い上がり、帽子の縁にぺたりと張り付いた。

「うわっ、違う違う!」
 慌てて手を振る加奈。その様子を見ていたクラスメイトが首を傾げる。
「なにしてるの、加奈?」
「えっ!? い、いや、なんでもないっ!」

心臓が跳ねる。――もし知られたら。普通の暮らしが終わってしまう気がした。

◆ ◆ ◆

 その日の放課後、森の祠へ向かうと、子ぎつねさまが先に立って待っていた。
 だが、今日はいつもと少し違う。彼女の横には、昨日心臓が跳ねる。――もし知られたら。普通の暮らしが終わってしまう気がした。

◆ ◆ ◆

 その日の放課後、森の祠へ向かうと、子ぎつねさまが先に立って待っていた。
 だが、今日はいつもと少し違う。彼女の横には、昨日姿を現した少年――ノアが立っていた。

「……あ、あの子は?」
 加奈が思わず声をひそめると、子ぎつねさまは笑顔を見せた。
「紹介するね。ノア。私の……助手みたいなものかな」
「はじめまして、加奈様」
 ノアは丁寧に一礼する。その落ち着きは、同じ年頃には見えないほど大人びていた。

「さ、様!? いやいやいや、普通に加奈でいいよ!」
 加奈が慌てて手を振ると、子ぎつねさまがくすくす笑う。心臓が跳ねる。――もし知られたら。普通の暮らしが終わってしまう気がした。

◆ ◆ ◆

 その日の放課後、森の祠へ向かうと、子ぎつねさまが先に立って待っていた。
 だが、今日はいつもと少し違う。彼女の横には、姿を現した少年――ノアが立っていた。

「……あ、あの子は?」
 加奈が思わず声をひそめると、子ぎつねさまは笑顔を見せた。
「紹介するね。ノア。私の……助手みたいなものかな」
「はじめまして、加奈様」
 ノアは丁寧に一礼する。その落ち着きは、同じ年頃には見えないほど大人びていた。

「さ、様!? いやいやいや、普通に加奈でいいよ!」
 加奈が慌てて手を振ると、子ぎつねさまがくすくす笑う。
「ノア、ちょっと固いから」

 しかしノアの視線は真剣そのものだった。
「加奈様が“灯”を得られた以上、私たちは守らねばなりません。あなたは、もう選ばれてしまったのですから」

「……選ばれたって、何のこと?」
 加奈は問い返した。
 子ぎつねさまの表情が、一瞬だけ揺れる。

◆ ◆ ◆

 風が木々を揺らす。
 子ぎつねさまは小さく息をつき、言葉を選ぶように口を開いた。

「祠に封じられているものがあるの。ずっと昔から……。その封印は“灯”を持つ人に大きく影響される。加奈が光を生んだってことは……」

「封印が、揺らぐ」
 ノアが静かに言い足す。

加奈の背筋に冷たいものが走った。
「ちょ、ちょっと待って! 私、ただ魔法をちょっと触ってみたかっただけで……そんな大事になるなんて聞いてない!」

 帽子を抱きしめるようにして加奈は声を上げる。
 子ぎつねさまは困ったように笑い、しかし瞳には憂いを宿していた。
「ごめんね、加奈。言わなくちゃと思ってたけど……まだ楽しいままでいてほしくて」

「……でも、もう関わっちゃったから」
 ノアが真顔で告げる。

◆ ◆ ◆

 その瞬間――祠の鈴が強く鳴り響いた。
 風ではない。大気そのものが震えている。

「……っ!」
 子ぎつねさまが振り向く。祠の奥から、薄い影のようなものが漏れ出していた。黒い靄が木々の間ににじみ、鳥たちが一斉に飛び立つ。

「封印が……!」
 ノアの手に杖が現れる。

 加奈は呆然とその場に立ち尽くした。
「な、なにあれ……!」

 子ぎつねさまは振り返り、加奈の手を強く握った。
「加奈、落ち着いて。あなたが“灯”を持っているなら――絶対に、怖がらないで」

 その瞳は、いつもの無邪気な金色ではなく、強く鋭い光を宿していた。

◆ ◆ ◆

 赤黒い靄が迫る。祠の鈴が鳴りやまぬ中、加奈の胸に再びあの温かさが芽生えた。
 しかし、それは光か、それとも――炎に呑まれる前触れなのか。

 彼女はただ息を呑み、子ぎつねさまとノアの背にすがるしかなかった。
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