死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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序章

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 何度も殴打されぼんやりした頭で、我がヒロイン、プレヌリュヌは回顧する。

 彼女の数ある残念令嬢的特徴の極めつけが、この男に嫁いだことだった。




 だが、不用品にも不用品の利点がある。

 転び慣れていること、すなわち転んでもただでは起きない技術を身につけられることだ。




 嫁いでほどなくして、とある噂を聞いた。

 パリのオペラ座の近くに本店をかまえるヴェルレーヌ宝石社――コルネイユ家のライバル社が銀採掘のために雇っている奴隷管理官の噂である。




 16世紀以降、黒人奴隷は安上がりな労働力として鉱山・砂糖・綿花・ゴム・コーヒーなどの大農園で酷使され、次々と供給された。

 アメリカの南北戦争終結時のリンカーンの奴隷解放宣言に先立ち、十九世紀に入るとイギリスで奴隷制に対する人道的な立場からの批判が強まり、ヨーロッパ諸国でも徐々に廃止されはじめる。だがフランスは西インド諸島で起きた黒人奴隷蜂起をナポレオンの部隊が鎮圧してから依然として奴隷廃止を拒み続けていたのだった。

 そんな中、異常な銀の採掘量を誇る凄腕の管理官がいた。

 エスポール・ディアマン――当時フランスに出回っていた呪いのダイヤモンドにあやかった通り名を持つ彼は、その業績のよさと奴隷の殺人もいとわない冷徹さでその名を轟かせていた。

 西インド、アフリカにアジア。奴隷商売のために縦横無尽に海をしきっているとかいう話。

 執念深い夫に見つかることなく遠くへ逃げおおせるなら、これだ。

 噂を聞いてすぐに手紙を書いた。

 エスポールに宛てて、パリの奴隷要塞へ。

 自身の身の上と、どこでもいい、ここから波の彼方へと逃がしてほしいという請願をしたためた文書を。



 数か月辛抱強く待ったあと、ようやく返事が来た。



 なんと彼は今日、セーヌに迎えに来てくれるというのだ。
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