死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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第1章 シャンゼリゼで旅支度

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 必死の訴状を聞いているのかいないのか、涼しい顔でロジェが引っ張り出してきたのは朱鷺色のシフォンドレスだった。

 文字通り桃色の空に舞う優雅な鳥のようなそれをプレヌの身体にあてがっては吟味するようにゆっくりと瞬きする。




「とってもお似合いでございます。ご試着されますか?」

 にこにこと後ろから店員さんが言ってくれるが、

「もう少し、他のも見してくれるか」

 よせばいいのに彼は次々にドレスを取り出してきてはプレヌにあてがっていく。

「……」 




 できることなら奥の試着室にこもって丸まりたくなった。

 どれもかわいらしかったり、上品だったり、ほどよく流行をとりいれたハイセンスなものばかりで、自分に似合うはずがないものだったからだ。

 どれもこれも地味な自分にはちぐはぐで、きっとロジェも困り果てているのだろう。

 せっかくの気持ちはありがたいが、どう辞退しようか考えあぐねて頭を抱えそうになったとき。

 ふいに彼の口元に弧が描かれた。




 一歩引いてその腕に下がったドレスとプレヌを眺め、満足そうにうなずく。




「うん、これがいい。――この色が一番映える」


 ――あれ。

「あ、立ってるの疲れた?」

「……そうじゃないけど」

「あらまぁほんと。とってもよくお似合いでございますわ」

 もう片方の腕にかかった無数のドレスをロジェから引き取りながら、店員さんも心にないお世辞を満面の笑みで言ってくれる。

 そんな彼女にうなずきながら、未だ思案するように、ロジェは言った。




「ベビーピンクは白い頬や淡いブロンドを引き立てるし、少し強めのロイヤルパープルも品のある雰囲気にあっていていい」

 そこまで言うと、ふっとその目元に茶目っ気のある笑みを浮かべて。

「なんでも似合うから迷った」

「……」




 お世辞にしてはストレートすぎるし、その顔が無邪気すぎる。

 プレヌは硬直した。

 まずい。

 なんと返したらよいかわからない。

奥は試着室になっているらしい、金の紐でくくられたマカライトグリーンのカーテン前で、胸に、ドレスをそっと押しあて、囁かれる。

 秘密を囁くように、そっと。



「これ、着てみ」



 ぱくぱくと、ニースの海岸を横歩きするカニのようにうごめく口からなにか言葉が出る前に、カーテンを閉められてしまった。

 お召し替え、お手伝いいたしますよっ、と、あわてて店員さんがふくよかな身体を苦心してねじり、潜り込んできた。
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