死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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第8章 セーヌ河にて楽園を想う

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「たぶん……多くの人はそれが家族とか恋人とかになるんじゃないかしら」



 マンダリンオレンジがうごめく波間を視線で追いながら、言葉を重ねる。



「一日にあったことを話したり、いっしょに食事したり、カードゲームなんかで、笑い合ったり?」



「そういうもんか……」



「……ロジェ」





 緩やかな風に身を委ねながら、プレヌは思う。



 少し前まで喉につかえていたような重苦しい塊が消え去り、安心した心地。



 その中に漂うかすかな違和感。



 ――この感覚は、なんだろう。





「ロジェ」



 いつだって一瞬で、小波一つない海原の上を滑るような安心感を差し出す。 

 

「もしかして」



 この人の言葉の中に。



「緊張してるの?」



 口をついて出た問いに目を見開くと、ロジェは首をかしげた。



「なんだよ突然」



 戸惑いはすぐに、軽やかなしぐさに溶けて消える。



「そりゃ、緊張してるよ。こんな美女を前にして冷静でいられるわけがないって」



 冗談交じりの賛美にものせられることなく、プレヌは海原を見つめたままだ。



「違う」

 

 ただ、大河の奥へと目をこらす。



「そんなふうに軽口たたいてみせて、いかにも力が抜けてるみたいだけど」



 そうして見ると、水の底の世界が、透けて見えてくるとでもいうように。





「たぶん、あなたは緊張してる。心のどこかがずっと」



 上げた顔は、どこか困ったような色を宿していて。



「そうじゃない人は、ほっとできる場所って言葉がでて、どういうこと? なんて訊かないと思う」
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