死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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第9章 歌姫の来訪

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 第124話

 苦虫をかみつぶしたようなその表情はまるで、しまった、とでも言っているようだ。



 周りの人々によって取り押さえられた政治家に、その表情のまま、呟く。



「言い分はあれど、手をあげるのは、さすがにまずい。と思う。しかるべき手順を踏んで抗議するべき、だ。多分」



 ……救いのヒーローの決め台詞にしては、歯切れが悪いけど?



 心の中でつっこむプレヌ。



 政治家が連れられて行き、どうにか秩序を取り戻しつつあるその場に、



「ありがとう」



 妖艶なアルトは響いた。



「――久しぶりね、ロジェ」



 ――ん?





 今、言葉を発したのは、ヴェッティーナ、よね?



 ロジェに久しぶりって言った?



 歌姫のくしゃっとゆがめた親し気な表情からして、プレヌの聞き間違いではないようだ。



 彼の袖に、バイカラーのネイルのついた手をからめながら、歌姫は言う。



「こんなところで会うなんて。懐かしくなっちゃったわ。ねぇ、覚えてる? あの頃のこと――」



 興を得たように饒舌になる彼女に、ベルタン嬢、そろそろお部屋に戻られて打ち合わせのお時間ですとガードマンが耳打ちする。



 少しだけ残念そうにむき出しの肩を竦めたあと。



 またね――またすぐ、と蠱惑的な唇は囁いた。
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