死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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第9章 歌姫の来訪

8

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 くっと喉から忍び笑いを漏らすと、男性は会釈し、去っていく。



 長居は無用とばかりに短く息をつき、ヒールの音を一音、響かせた彼女。



 ヴェッティーナに、プレヌは声をかけた。



「どういうこと、ですか」



 ゆっくりと、華やかな顔立ちが振り返る。



 その瞳にはあろうことか、笑みが湛えられていた。



「昼間の、ロビーでの騒ぎ。あれは、自作自演だったんですか」



 一語一語、自分自身に確認するように紡ぎだす。



 信じがたいことだが、ほんとうだとしたら素通りできない。



 あれは評判を買うための演出などではない。

 プレヌには心当たりがあった。



 にっこりと、歌姫が破顔する。



「そうよ。あの人に。――彼に近づくために彼らを雇ったの」




 その艶やかな口元が紡ぐあの人とは。



 その茶番でつい身体が動いてしまった、元恋人。



「ロジェに、近づくために?」



 恐る恐る確認するプレヌに、白薔薇のように無邪気な笑みで、歌姫は肯定した。
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