死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

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第10章 心を誘い出されて

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 抱きしめられたぬくもり。

 それが自然なものであっても。

 人生に訪れたことがないものが突如現れると人は困惑するように。

 今まで触れてきた外界とのギャップの激しさに、機械はエラーを起こした。




 次の瞬間頽れ、床に手をついていた。

 口から漏れ出る声のない浅い吐息は激しく。

 身体が震えるのを感じる。




 追いかけるように身をかがめ、また彼女が抱きしめてくる。




「息ができないほど苦しい? 全身が痛むのね」



「いったい、なにをしたんだ」




 わけがわからない。

 実際思考すら遮られる痛みだった。

 肩も背も足も頭の中も。

 今まで数多の相手とわたりあってきたが、どんな屈強な男も自分をこんな状態にさせたことはなかった。

 言い聞かせるような、それでいて優しい声が背中をなぞっていく。




「突然こうなったんじゃないの。ずっとこうだったのよ。ずっと目を逸らしてきた痛みなの」

 哀しそうに、彼女は微笑んだ。

「ぼろぼろになってる自分から目を逸らして、だいじょうぶって笑うから」




 妨げられる思考を呼び戻そうと、ロジェは奥歯を噛み締める。

 彼女の発する単語一つ一つの意味がわかっても。

 全体がつながらない。




「だから呼びかけたの。あなたの中でずっと、目を向けられずにいたあなたに」

「なに言ってんのか、ぜんぜん、わかんねーよ」




 この華奢な女性が、いったいどんな魔法を使ったというのか。

 今まさに自分の動きを封じている人とは思えない、泣きそうな声が追ってくる。

「つらいでしょうけど、今は感じて。痛みを感じなくなったら致命傷になってしまう」
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