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第5章 執事と主様としんみり
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マロンブラウンのテーブルに、水色や紫など、寒色系でまとめたソファ。
わたしは今、都内のおしゃれカフェにいる。
「ほのさん。改めて、『癒執』イベントのときは、ありがとうございました。これ、ハーヴェイ似カレシさんと食べてください」
そして差し出されたおしゃれマカロンの入ったかわいい紙袋。
差し出したその手はピンク地にストーンのついたネイル。
ゆるふわマロンブラウンの髪。
フェミニン系のワンピースがお洒落な梅ちゃんこと梅原美玖さんと、今日はお茶会だ。
「あ、ありがとう……。わざわざ」
そつのない気配りまでされて、恐縮してしまう。
「なんか、今日もすごくお洒落だね」
対するわたしと言えば、装飾品は唯一、胸元のキャンドルナイトの石だけだ。
「ふふふ」
艶のある唇で、梅ちゃんは微笑む。
「オタ活も自分磨きも貪欲に楽しむがモットーなんです」
「ほほう……」
いろいろと見習うところが多そうだ。
お互いの職業や近況なんかはラインで報告済みだ。
梅ちゃんは都内に勤めるOLらしい。
注文したカフェオレが運ばれてくると、品よくカップを手で包みながら、梅ちゃんは切り出した。
「わたしこそ、ほのさんがうらやましいです。おタク趣味全肯定してくれるどころか、全力で再現してくれるカレシさんなんて、超理想ですね……!」
「あ、それは……」
うーんどう説明したものか。
「イベントのときもほんもののハーヴェイ顔負けにかっこよかったし。あ、ダメダメっ。わたしはボイス様一筋ですからねっ」
頬を抑えて首を横に振る姿なんかじつに可愛らしい。
この子ならカレシの一人くらい今日にでもできるだろうに。
「ハーヴェイにいさんもいいですけどねー。あのストイックで自分追い込んじゃうとことか……」
「そう、そう!」
思わず指をふって賛同してしまう。
「仲間たちに見せるきりっとした姿と、あたしにだけ甘えてくれる感じのギャップがいいのよ!」
「えーっ、甘える? そんな台詞あるんですかー? アプリで担当執事、ボイス様しか普段選択しないから知らなかったー」
「あるあるー!」
やばい推し活トーク、楽しい。
「でもボイス推しなんて、梅ちゃん渋い趣味だよね」
コワモテ執事なんて、なかなかいないキャラだ。
「そうですかー? けっこうファン多いですよ、彼」
「ふーん。そうなんだ」
「コワモテで『無理すんじゃねーぞ』ってすごまれたいんです!」
「ほほう……」
うん、推しの話になると一段とかわいいな、梅ちゃん。
なんて眼福に浸っていると、ピロリンと音がして、梅ちゃんがスマホを見ると、顔をしかめる。
「あー、だっるい。また婚活アプリだ……」
「え? 梅ちゃん婚活してるの?」
「親がしろってうるさくて。もう……」
これです、と言って見せてきたのは、婚活アプリの梅ちゃんのプロフィール画面だった。
見ちゃっていいのかな、と思いつつ、ある一点が目に飛び込んできてしまう。
「これ。プロフィールに、めっちゃいいねついてるね」
なるほどかわいいからモテるんだな。
「そういうんじゃないですよ。誰だってこれくらいの数字フツーですって」
「そ、そうなの……?」
「現実にいる男なんて、所詮若い女子なら誰だっていいんですよ」
意外と現実派だな。
「達観してるね……」
真剣に相手を探してる人だっているだろうし、あまり決めつけるのもあれだと思うけど……。
梅ちゃん表情を消して、スマホを持った手を投げ出しながら言う。
「まぁ近い将来、そういう男の中からテキトーに選んで、落ち着くつもりではありますけど」
「え。そうなの?」
「まぁ、仕事にバリバリ自信があるわけじゃないし。経済的理由ですね」
「……そっか……」
なんか、モヤモヤする。
会ったばかりだけど、いい子だし。
……幸せになってほしいな。
「あの、梅ちゃん。大丈夫?」
なんとなくそんな言葉が口をついて出ると、梅ちゃんは大人の笑みを見せた。
「わたしはほのさんみたく、本を書くような突出した才能もないってわかってますから。生きるためならしょうがないって、割り切ってますよ」
「そっか……」
ミルクが渦状になって溶けていくコーヒーの水面を見つめながら、考える。
「いや、あたしだって十分稼げるほど好きなことで結果出してるわけじゃないし。経済的安定の保証もなんらないんだけどさ……」
答えは出ないながら、言葉なら少しずつ、出てくる。
「なにがなんでも結婚しろって言われるつらさは、わかるつもりっていうか……」
『ほの。あなたのためを思って……!』
『このできそこないが』
ちょっとよろしくない記憶までフラッシュバックして、あわててコーヒーをかきこんで脳内の映像をかき消す。
あなたのためを想って、なんて嘘だ。
実に巧妙な、嘘。
冷めきった夫婦関係の両親が、娘の結婚に期待するのは娘の幸せでもなんでもない。
ただのメンツ。
ばっさり言うとそうだと思う。
結婚したほうが幸せだと思っている。そう言うけど、それもとどのつまり、自分の思う幸せを子どもに押し付けたいだけだと思う。
「……その、なんていうか、梅ちゃん。自分の気持ちも、大切にしてね」
ようやくそれだけ言うと、ふふふっと、梅ちゃんはなぜか嬉しそうに笑った。
「ほのさんって、優しいですね。みんな、子ども考えるなら早いほうがとか、あと十年したらどんどん求められる条件は下がるとか……急かしてばっかりくるのに」
カップを改めて包んで、上目遣いで言う。
「なんだか、ほのさんとは、仲良くなれそうです。よかった」
そんなふうに囁くように言われたら、きゅんときちゃうじゃないか。
「あーあ、暗くしちゃってごめんなさい。話戻しましょ! ほのさん的二番手執事は誰ですか?」
「ふふふ、それはねー」
それからわたしたちは時間の許す限り、『癒執事』トークに花を咲かせたのだった。
わたしは今、都内のおしゃれカフェにいる。
「ほのさん。改めて、『癒執』イベントのときは、ありがとうございました。これ、ハーヴェイ似カレシさんと食べてください」
そして差し出されたおしゃれマカロンの入ったかわいい紙袋。
差し出したその手はピンク地にストーンのついたネイル。
ゆるふわマロンブラウンの髪。
フェミニン系のワンピースがお洒落な梅ちゃんこと梅原美玖さんと、今日はお茶会だ。
「あ、ありがとう……。わざわざ」
そつのない気配りまでされて、恐縮してしまう。
「なんか、今日もすごくお洒落だね」
対するわたしと言えば、装飾品は唯一、胸元のキャンドルナイトの石だけだ。
「ふふふ」
艶のある唇で、梅ちゃんは微笑む。
「オタ活も自分磨きも貪欲に楽しむがモットーなんです」
「ほほう……」
いろいろと見習うところが多そうだ。
お互いの職業や近況なんかはラインで報告済みだ。
梅ちゃんは都内に勤めるOLらしい。
注文したカフェオレが運ばれてくると、品よくカップを手で包みながら、梅ちゃんは切り出した。
「わたしこそ、ほのさんがうらやましいです。おタク趣味全肯定してくれるどころか、全力で再現してくれるカレシさんなんて、超理想ですね……!」
「あ、それは……」
うーんどう説明したものか。
「イベントのときもほんもののハーヴェイ顔負けにかっこよかったし。あ、ダメダメっ。わたしはボイス様一筋ですからねっ」
頬を抑えて首を横に振る姿なんかじつに可愛らしい。
この子ならカレシの一人くらい今日にでもできるだろうに。
「ハーヴェイにいさんもいいですけどねー。あのストイックで自分追い込んじゃうとことか……」
「そう、そう!」
思わず指をふって賛同してしまう。
「仲間たちに見せるきりっとした姿と、あたしにだけ甘えてくれる感じのギャップがいいのよ!」
「えーっ、甘える? そんな台詞あるんですかー? アプリで担当執事、ボイス様しか普段選択しないから知らなかったー」
「あるあるー!」
やばい推し活トーク、楽しい。
「でもボイス推しなんて、梅ちゃん渋い趣味だよね」
コワモテ執事なんて、なかなかいないキャラだ。
「そうですかー? けっこうファン多いですよ、彼」
「ふーん。そうなんだ」
「コワモテで『無理すんじゃねーぞ』ってすごまれたいんです!」
「ほほう……」
うん、推しの話になると一段とかわいいな、梅ちゃん。
なんて眼福に浸っていると、ピロリンと音がして、梅ちゃんがスマホを見ると、顔をしかめる。
「あー、だっるい。また婚活アプリだ……」
「え? 梅ちゃん婚活してるの?」
「親がしろってうるさくて。もう……」
これです、と言って見せてきたのは、婚活アプリの梅ちゃんのプロフィール画面だった。
見ちゃっていいのかな、と思いつつ、ある一点が目に飛び込んできてしまう。
「これ。プロフィールに、めっちゃいいねついてるね」
なるほどかわいいからモテるんだな。
「そういうんじゃないですよ。誰だってこれくらいの数字フツーですって」
「そ、そうなの……?」
「現実にいる男なんて、所詮若い女子なら誰だっていいんですよ」
意外と現実派だな。
「達観してるね……」
真剣に相手を探してる人だっているだろうし、あまり決めつけるのもあれだと思うけど……。
梅ちゃん表情を消して、スマホを持った手を投げ出しながら言う。
「まぁ近い将来、そういう男の中からテキトーに選んで、落ち着くつもりではありますけど」
「え。そうなの?」
「まぁ、仕事にバリバリ自信があるわけじゃないし。経済的理由ですね」
「……そっか……」
なんか、モヤモヤする。
会ったばかりだけど、いい子だし。
……幸せになってほしいな。
「あの、梅ちゃん。大丈夫?」
なんとなくそんな言葉が口をついて出ると、梅ちゃんは大人の笑みを見せた。
「わたしはほのさんみたく、本を書くような突出した才能もないってわかってますから。生きるためならしょうがないって、割り切ってますよ」
「そっか……」
ミルクが渦状になって溶けていくコーヒーの水面を見つめながら、考える。
「いや、あたしだって十分稼げるほど好きなことで結果出してるわけじゃないし。経済的安定の保証もなんらないんだけどさ……」
答えは出ないながら、言葉なら少しずつ、出てくる。
「なにがなんでも結婚しろって言われるつらさは、わかるつもりっていうか……」
『ほの。あなたのためを思って……!』
『このできそこないが』
ちょっとよろしくない記憶までフラッシュバックして、あわててコーヒーをかきこんで脳内の映像をかき消す。
あなたのためを想って、なんて嘘だ。
実に巧妙な、嘘。
冷めきった夫婦関係の両親が、娘の結婚に期待するのは娘の幸せでもなんでもない。
ただのメンツ。
ばっさり言うとそうだと思う。
結婚したほうが幸せだと思っている。そう言うけど、それもとどのつまり、自分の思う幸せを子どもに押し付けたいだけだと思う。
「……その、なんていうか、梅ちゃん。自分の気持ちも、大切にしてね」
ようやくそれだけ言うと、ふふふっと、梅ちゃんはなぜか嬉しそうに笑った。
「ほのさんって、優しいですね。みんな、子ども考えるなら早いほうがとか、あと十年したらどんどん求められる条件は下がるとか……急かしてばっかりくるのに」
カップを改めて包んで、上目遣いで言う。
「なんだか、ほのさんとは、仲良くなれそうです。よかった」
そんなふうに囁くように言われたら、きゅんときちゃうじゃないか。
「あーあ、暗くしちゃってごめんなさい。話戻しましょ! ほのさん的二番手執事は誰ですか?」
「ふふふ、それはねー」
それからわたしたちは時間の許す限り、『癒執事』トークに花を咲かせたのだった。
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