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第1話 宅配司書と作家志望
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現れた依頼主は、艶やかなウエディングドレス姿をしていた。
腰に纏わりつくデザインのシルクのドレス。
髪には纏っている美女と同じ名の純白の花。そして胡蝶蘭。
「プルメリア様…… 素晴らしいです」
塗れ羽色の髪に小麦色の肌に、その衣装はこの上なく似合っていて、同性のラヴェンナでもくらりときてしまう。
「あ、あれ。今日がお式でしたっけ」
「ううん。ただの前撮り」
短く答えると、プルメリアはむんずと繊細な造りのスカートを両手で掴んだ。
「見惚れてないで」
よく見れば肩に添えられた白い花のその横には頑丈な縄が幾重にもかけられている。
先端のくいを窓辺にかけると、プルメリアは綱を外へと垂らした。
「ついてきて。ここを伝って降りるの」
「は、はい……?」
じれったそうに振り返り美女は告げる。
「あと十五分で婚約者が来る。その前に隣町まで逃げる」
「あ、あの……」
鋭い吐息をつくと、プリメリアはなめらかなオイルを塗ってある首筋をかきむしった。
「親もお手伝いさんも、血眼になって探してる。その目をかいくぐる。それを手伝ってって言ってるの」
呑み込みの悪いラヴェンナに苛立っている。
だが決して狂気ではない。
極めて沈着で淡々とした口調である。
沼に嵌った車輪を持ち上げるように。回転しない頭をラヴェンナは必死で動かす。
プルメリアは結婚から逃げようと計画しているのか。
決然としたブラックカラントの瞳はさらに迫る。
「安心して。夜には戻ってこられる」
ますますわからない。
首を傾げていると、整えられた眉を吊り上げられた。
「あんたあたしに雇われてるのよね? 協力するの? しないの?」
彫の深い美女が睨みをきかせ仁王立ちになるとそれなりのすごみがある。まるで脅しだ。
「で、ですが」
縄を伝っての脱出は司書業務には。
そう言おうとして、ふいに口を噤む。
ラヴェンナの耳朶を声がかすめた。
助けてくれ、というかすかな声。
『クリスマス・キャロル』の主人公。家族がともに過ごすクリスマスなど儲からないだけだと豪語する、強欲でけちなスクルージ老人が実はクリスマスの歓談を求めていたように。
本には描かれていない、人物の叫び声。
常にあたりに怒鳴り散らしているがその胸中は恐怖に満ちている孤独な老人の声なき声。
誰も自分を好きじゃない。助けてくれと。
直後にはつい先頃――自らの不安を包み込んだ言葉が耳朶を温める。
『人を読み解くのは本のごとしです。一ページずつ、丁寧に繰っていきます。焦らずに』
『お客様が本当に求めているもの。それを探し出すのが司書の仕事ですよ』
今ラヴェンナがすべきなのは、プルメリアを知ること。
唐突で強引とはいえ彼女はアクションを起こしてくれたのだ。
「わかり、ました」
意を決しラヴェンナは窓辺に片足をかけた。
腰に纏わりつくデザインのシルクのドレス。
髪には纏っている美女と同じ名の純白の花。そして胡蝶蘭。
「プルメリア様…… 素晴らしいです」
塗れ羽色の髪に小麦色の肌に、その衣装はこの上なく似合っていて、同性のラヴェンナでもくらりときてしまう。
「あ、あれ。今日がお式でしたっけ」
「ううん。ただの前撮り」
短く答えると、プルメリアはむんずと繊細な造りのスカートを両手で掴んだ。
「見惚れてないで」
よく見れば肩に添えられた白い花のその横には頑丈な縄が幾重にもかけられている。
先端のくいを窓辺にかけると、プルメリアは綱を外へと垂らした。
「ついてきて。ここを伝って降りるの」
「は、はい……?」
じれったそうに振り返り美女は告げる。
「あと十五分で婚約者が来る。その前に隣町まで逃げる」
「あ、あの……」
鋭い吐息をつくと、プリメリアはなめらかなオイルを塗ってある首筋をかきむしった。
「親もお手伝いさんも、血眼になって探してる。その目をかいくぐる。それを手伝ってって言ってるの」
呑み込みの悪いラヴェンナに苛立っている。
だが決して狂気ではない。
極めて沈着で淡々とした口調である。
沼に嵌った車輪を持ち上げるように。回転しない頭をラヴェンナは必死で動かす。
プルメリアは結婚から逃げようと計画しているのか。
決然としたブラックカラントの瞳はさらに迫る。
「安心して。夜には戻ってこられる」
ますますわからない。
首を傾げていると、整えられた眉を吊り上げられた。
「あんたあたしに雇われてるのよね? 協力するの? しないの?」
彫の深い美女が睨みをきかせ仁王立ちになるとそれなりのすごみがある。まるで脅しだ。
「で、ですが」
縄を伝っての脱出は司書業務には。
そう言おうとして、ふいに口を噤む。
ラヴェンナの耳朶を声がかすめた。
助けてくれ、というかすかな声。
『クリスマス・キャロル』の主人公。家族がともに過ごすクリスマスなど儲からないだけだと豪語する、強欲でけちなスクルージ老人が実はクリスマスの歓談を求めていたように。
本には描かれていない、人物の叫び声。
常にあたりに怒鳴り散らしているがその胸中は恐怖に満ちている孤独な老人の声なき声。
誰も自分を好きじゃない。助けてくれと。
直後にはつい先頃――自らの不安を包み込んだ言葉が耳朶を温める。
『人を読み解くのは本のごとしです。一ページずつ、丁寧に繰っていきます。焦らずに』
『お客様が本当に求めているもの。それを探し出すのが司書の仕事ですよ』
今ラヴェンナがすべきなのは、プルメリアを知ること。
唐突で強引とはいえ彼女はアクションを起こしてくれたのだ。
「わかり、ました」
意を決しラヴェンナは窓辺に片足をかけた。
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