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第5章 王子のひみつ
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恋人たちが想いを伝え合う日。
愛の聖人に纏わる祝日。
それはこのアッセンブル王国にも存在する。
「イッツ、バレン、バレンタインデ~」
そして、国中の乙女たちを沸き立たせる。
アッセンブル王室付き侍女のコリンヌも御多分に洩れず、ご機嫌だ。主のベッドメイキングをする小さな身体が鼻歌とともに揺れている。
自分が本命チョコを渡す相手は今のところいないけれど、大好きな主の恋の手助けができれば十分というものだ。
なのに。
コリンヌはベッドフレームにシーツを折り込みながら主人をちらと盗み見る。
「パエリエ様、なんで浮かない顔なんですか? 」
ドレッサーの前に座る主の顔は蒼白だ。
この世の終わりのようにも見える。
アッセンブル中の女性の憧れである鬼百合色の髪を抱え、未来の皇太子の妻たる彼女は呟いた。
「なんて間の悪い人なの。愛の告白の日と同日に生まれるなんて」
「あぁ! リシャール様の誕生日でもあるんでしたっけ! 」
ぱちりと手を合わせて直後、コリンヌはお団子の頭を傾げる。
「でもそれがなんでそんなにご不満なんですか? 」
パエリエはむくりと身を起こした。
曇り一つない鏡に映った自分の顔を睨む。
――おおいにまずいのだ。
二週間後に迫ったその日には、日頃の礼をと考えていたのだが。
契約婚約とはいえ彼には色々と世話になっているし、ついこの間も、シェンデルフェールから助けられたばかりだ。
あれからどうにも、ふとした合間にリカルドのことを考えてしまう自分がいて。
頭がぼーっとして。
思考がゆっくりになって。
勉強すら手につかないこともしばしばで。
『パエリエさま……! わかります。コリンヌにはわかります。婚約者に颯爽と助けられたんだもの。そうなって当然です! 乙女たるもの』
『やっぱりそう思う?』
『はい! コリンヌはそう思います!』
侍女に相談役になってもらいながら、パエリエは結論付けた。
『このわけのわからない気持ちは。あたしはあの人に恩義と、それに伴う引け目を感じてるのね』
『……は?』
『つまり、相応の礼を贈れば事は解決する。そういうことだわ』
『……パエリエさま』
おっつとコリンヌが両目を覆ったのは気になったが、事が明らかになったのでよしとする。
お礼の品が解決の鍵だ。きっと。——そう思いたい。
彼の誕生日が迫っているなら好都合だ。
お礼も兼ねてと、ごく自然に品を贈ることができるではないか。
だがよりによって、愛の告白の日とは!
「あ、そっかぁ。 パエリエさま、照れ屋なところがおありだから」
そう。最悪の場合、感謝以外の別の意味も加わってしまう。
自分たちが当然のように愛し合う婚約者同士だと思っているコリンヌには説明しようがないが。
「ああもうほんと、生まれるタイミングもうちょっと選んでほしいもんだわ」
「パエリエさま、それはちょっとさすがに理不尽かと」
「で、悪いんだけど相談にのってほしくて」
「え? 」
まんまるい目をさらに丸めて自らの顎を指すコリンヌに、パエリエは頷いた。
「そう、あんたに」
ぱぁぁっ と、真珠一つ飾っていない侍女の首周りが輝いて見える。
「パエリエさまがあたしにご相談‼ 感動です! なんでもどうぞ! さぁトロワ、ドゥー、アン! 」
「……ええと」
前のめり気味に手を差し出され、少々戸惑うが、問題も差し迫っているのでパエリエは答える。
「なにを贈ったらいいもんなのか、あたしにはさっぱり」
「あああ~! 愛する人へのプレゼントですか! 重要ですね~」
やたら響く音で手を打つと、コリンヌはいっぱしに哲学者のように眉間に皺を寄せて室内を歩き回る。
「リシャール様のお誕生日はお城で毎年盛大に祝われているって聞きました。豪華なものはもらいなれているでしょうし……」
しばらく部屋の側面を歩いた後、ぱっと顔を輝かせ立ち止まる。
「王子様のツボっていうと多分、手の込んだものですね!」
「なるほどね……」
「お金より手間重視でいきましょう!」
助言できたことが嬉しいのか、リズミカルに朝の支度にかかるコリンヌの傍ら、パエリエは深くドレッサーの前に腰かける。
これはなかなかにして、的を得たヒントといえる。
思案しながらパエリエが大窓の外に視線を投げかけると、どこの家からかやってきたのか中庭にうずくまるポメラニアンの横に、野生らしき子猫がうたたねしている。
珍しい組み合わせだと、思うともなく思った。
愛の聖人に纏わる祝日。
それはこのアッセンブル王国にも存在する。
「イッツ、バレン、バレンタインデ~」
そして、国中の乙女たちを沸き立たせる。
アッセンブル王室付き侍女のコリンヌも御多分に洩れず、ご機嫌だ。主のベッドメイキングをする小さな身体が鼻歌とともに揺れている。
自分が本命チョコを渡す相手は今のところいないけれど、大好きな主の恋の手助けができれば十分というものだ。
なのに。
コリンヌはベッドフレームにシーツを折り込みながら主人をちらと盗み見る。
「パエリエ様、なんで浮かない顔なんですか? 」
ドレッサーの前に座る主の顔は蒼白だ。
この世の終わりのようにも見える。
アッセンブル中の女性の憧れである鬼百合色の髪を抱え、未来の皇太子の妻たる彼女は呟いた。
「なんて間の悪い人なの。愛の告白の日と同日に生まれるなんて」
「あぁ! リシャール様の誕生日でもあるんでしたっけ! 」
ぱちりと手を合わせて直後、コリンヌはお団子の頭を傾げる。
「でもそれがなんでそんなにご不満なんですか? 」
パエリエはむくりと身を起こした。
曇り一つない鏡に映った自分の顔を睨む。
――おおいにまずいのだ。
二週間後に迫ったその日には、日頃の礼をと考えていたのだが。
契約婚約とはいえ彼には色々と世話になっているし、ついこの間も、シェンデルフェールから助けられたばかりだ。
あれからどうにも、ふとした合間にリカルドのことを考えてしまう自分がいて。
頭がぼーっとして。
思考がゆっくりになって。
勉強すら手につかないこともしばしばで。
『パエリエさま……! わかります。コリンヌにはわかります。婚約者に颯爽と助けられたんだもの。そうなって当然です! 乙女たるもの』
『やっぱりそう思う?』
『はい! コリンヌはそう思います!』
侍女に相談役になってもらいながら、パエリエは結論付けた。
『このわけのわからない気持ちは。あたしはあの人に恩義と、それに伴う引け目を感じてるのね』
『……は?』
『つまり、相応の礼を贈れば事は解決する。そういうことだわ』
『……パエリエさま』
おっつとコリンヌが両目を覆ったのは気になったが、事が明らかになったのでよしとする。
お礼の品が解決の鍵だ。きっと。——そう思いたい。
彼の誕生日が迫っているなら好都合だ。
お礼も兼ねてと、ごく自然に品を贈ることができるではないか。
だがよりによって、愛の告白の日とは!
「あ、そっかぁ。 パエリエさま、照れ屋なところがおありだから」
そう。最悪の場合、感謝以外の別の意味も加わってしまう。
自分たちが当然のように愛し合う婚約者同士だと思っているコリンヌには説明しようがないが。
「ああもうほんと、生まれるタイミングもうちょっと選んでほしいもんだわ」
「パエリエさま、それはちょっとさすがに理不尽かと」
「で、悪いんだけど相談にのってほしくて」
「え? 」
まんまるい目をさらに丸めて自らの顎を指すコリンヌに、パエリエは頷いた。
「そう、あんたに」
ぱぁぁっ と、真珠一つ飾っていない侍女の首周りが輝いて見える。
「パエリエさまがあたしにご相談‼ 感動です! なんでもどうぞ! さぁトロワ、ドゥー、アン! 」
「……ええと」
前のめり気味に手を差し出され、少々戸惑うが、問題も差し迫っているのでパエリエは答える。
「なにを贈ったらいいもんなのか、あたしにはさっぱり」
「あああ~! 愛する人へのプレゼントですか! 重要ですね~」
やたら響く音で手を打つと、コリンヌはいっぱしに哲学者のように眉間に皺を寄せて室内を歩き回る。
「リシャール様のお誕生日はお城で毎年盛大に祝われているって聞きました。豪華なものはもらいなれているでしょうし……」
しばらく部屋の側面を歩いた後、ぱっと顔を輝かせ立ち止まる。
「王子様のツボっていうと多分、手の込んだものですね!」
「なるほどね……」
「お金より手間重視でいきましょう!」
助言できたことが嬉しいのか、リズミカルに朝の支度にかかるコリンヌの傍ら、パエリエは深くドレッサーの前に腰かける。
これはなかなかにして、的を得たヒントといえる。
思案しながらパエリエが大窓の外に視線を投げかけると、どこの家からかやってきたのか中庭にうずくまるポメラニアンの横に、野生らしき子猫がうたたねしている。
珍しい組み合わせだと、思うともなく思った。
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