ラスボスを倒した変身ヒーローの次の敵は異世界にありました

濵野々鳴杜

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一章:変身ヒーローの転生

第一話:変身ヒーロー職業を授かる(前編)

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「森羅万象である汝が創りし魂は、芽吹き世界の歯車として放たれるーー」

 祈りを捧げる俺の頭に神父は手を添えた状態で、聖書に書かれた言葉を淡々と読み上げている。

 自身の生涯を決める職業を神より授かる儀式の最中だ。

 この世界では十五歳を迎える共に神より適性職を与えられる。王も職。村人は勿論、職人や農家、貴族や騎士、魔法使いにまでに至る様々な能力や才能が職業として扱われ、神より与えられる。

 神より与えられた職業は変える事は出来ない。

 俺はそんな儀式を受けている時に前世の記憶を思い出した。死んでからの神とのやり取りやトコヤミの事。自分の果たすべき使命もハッキリと思い出した。

 それにしても不思議な感覚だ。この世界は以前に生きていた世界と比較しても文明レベルは低く魔法やモンスター、魔族などが存在している。いかにもな異世界ファンタジーって世界に転生したんだな。

 子供の頃に夢見たような異世界を救う救世主、か……この世界じゃ俺は勇者様か......って今はまだ子供だった。前世と合わせるとおっさんになった気分だ。

 そんな事を考えていると神父の聖書を読む声が妙に震えているのと、何度か同じ箇所を読み直している気がする。

 気になった俺は恐る恐る顔を上げると、眼を閉じた状態で眉間にシワを寄せ顎先まで汗が滴るくらい動揺した神父の姿がそこにはあった。

 この教会には俺だけじゃない。今年で十五歳を迎える他の子供たちや新たな職業を期待する大人たちも参加して見届ける大事な儀式。

 そんな儀式の中で子供でもわかるくらい動揺を隠せていない神父の姿は教会の中にいる人たちをざわつかせた。

「おい、神父の様子がおかしくないか?」
「あの子の神託に何があったの?」
「まさか凄い適正職か?」
「そんな事言っちゃダメよ。酷い職だったらどうするのよ」

 各々が憶測で好きに話している中で俺だけが“勇者”の職を与えられる事を知っている。

 神父もきっと俺の適性職を授かって動揺しているのだろうが早く言って欲しいものだ。

「沈まれ!……今、この者の適性職を神より授かった」神父は教会中にいる人たち全員に聞こえる様に大きな声で話した。

「サン......お前の適性職は…...」

「もったいぶるなー!」「早く言えー!」

 後ろの方からヤジが飛ぶ。神父もようやく決心したのか深く息を吸って口を大きく開けた。

「サンの適性職は……変身ヒーローだ!」

 儀式に参加した人たちは神父の言葉を聞いて唖然としている。神父の額からは大量の汗が噴き出ている。

「神父様……恐れながら変身ヒーローとは?」シスターが神父の耳元で問いかける。

「ワシも知らん、何度も神託をやり直しても変身ヒーローとしか出ないんだ」困惑した様子で神父も返答した。

 無理もない。この世界には変身ヒーローの概念はないし、今までにない適正職になるのだから。俺自身も勇者だと決めつけていたので正直驚いている。

「神父様。そして神様。私に変身ヒーローという職を与えて頂いた事を感謝いたします。その職に恥じない生き方を全うする事を誓います」

 深く頭を下げ、もう一度お祈りをする。神父は我を取り戻し儀式の終了の言葉を述べる。

「そ、そうであったな......適性職“変身ヒーロー”のサン。その誓いを胸にその生涯を全うしなさい」

 神父はそう言って聖書を閉じた。

 シスターは聖杯を模した器を神父に差し出すと、神父は器の中に入った水を確認して右手人差し指を軽く濡らした。

「サン。こちらを向きなさい」

 言われた通りに神父を見上げた。

 神父は先ほど軽く濡らした指を俺の額に押し付けた。すると神父に触られた額から数秒だけ幾つも淡く光る小さな球体が現れ、瞬く間に消えてしまった。

「サンの儀式はこれにて終了だ。次の者、来なさい」

 先ほどまで取り乱していた神父はまるで何事もなかったかのように冷静に残りの者たちの儀式を進めていった。

 もちろん教会の中にいる者たちは“変身ヒーロー”という聞きなれない興味を示し、この場を去ろうとする俺を取り囲み儀式の邪魔にならない程小さな声で質問攻め。

「変身ヒーローってなんだ?」
「ステータスを見せてくれ」
「外れ職か?」

 見せ物小屋に出た者の気分はこんな気持ちなのだろうか好奇心旺盛な眼がギラついて少し怖く感じた。

「サン!こっちにおいで」人に囲まれてるせいで姿は見えないが、綺麗な手だけが人混みの中でこちらを手招きしている。

「俺も詳しくわからないんだ。人を待たせてるし、そこを通してくれ」

 無自覚に行き先を阻む人たちに対して、俺は軽く頭を下げながら一人一人に無難な説明をしながら道を開けてもらった。

 苦労してようやく人混みから外れる事ができた。

 軽くため息をして背伸びをする。

「変身ヒーローさん、おっ、お疲れ様っふ。フフッ……」

 先程、俺を呼んだ手の主はペルデルという幼なじみの女の子。同じく儀式に参加する子供の一人だ。

 これでも必死に笑わないように堪えているつもりなんだろう。声は押し殺していても強く俺の背中を叩いてくるあたりは爆笑なんだろうな。

「労いたいのか馬鹿にしたいのかどっちなんだ......ペルデル.....ペルデルさん?ペルデルさん?......そろそろ背中を叩くのを辞めてくれないか」

「あ、あぁあ?ごめんなさいね。つい、ね......フフッ」

 ちょっとは落ち着いたがまだ笑いの余韻があるようだ。変身ヒーローという言葉がこの世界ではそんなに笑えるくらい珍味に聞こえるのだろうか?

 取り敢えず背中を叩くのを辞めただけでも良しとしよう。

「サン、その話し方やめてよね。笑っちゃうじゃない。俺とか私とか、そんな落ち着いた話し方出来たの?」

「あぁ、そういえばそうだね。ついね……これからはこんな感じでいくよ」

「なになに?イメチェンですか?イメチェンですか?」

「頼むから一人称が変わったくらいでそう煽らないでくれ」

 前世の記憶は二十代後半の男の人生。そんな記憶を思い出してしまえば精神的にも少し落ち着いてしまうのは致し方ないことだ。今が十五歳でも流石に自分自身の事を僕とか言ってられない。恥ずかしくて演技だって出来やしない。

「そろそろ、ペルデルの番じゃないか?」

「そうね。サンも見ていってくれるでしょ?」

「いいや、見なくてもわかる。その細い体に似合わない腕力はきっと野蛮な職業になるに違いない」

「なにそれ、乙女に対して失礼じゃない?」またしても強く背中を叩かれた。今度は背中に痣が残るんじゃないかというくらい痛い。

「イッ、たいなぁもう。そういう所があるから女の子らしくないんだ......それがなければ可愛いのにね」

「ふーん……」嫌味を含めて放った言葉が案外嬉しそうなら良かったよ。

「ーー次の者!来なさい」神父が大きな声を出して次に儀式を行う人を呼んでいる。

「今いきまーす!サン、それじゃ行ってくるねっ」

 急ぎ足で神父の元へ行ったペルデルの背中を見送った後、教会から出た。

 出口には儀式を邪魔する者が入れないように形だけではあるが、教会の者が甲冑を着て門番をしている。

「サン。お前は皆の適正職を見ていかないのか?」急いで目的地に向かおうとする俺を引き留めて門番が声をかけてきた。

「あぁ、俺はいいよ。それより早く試したいことがあるんだ」

「おっ、さっそく職業の技能を試したいのか?」

「そうだよ。ペルデルが俺を探していたら家で待っててくれって伝えといて」

 伝言を残して門番の返答を待たないまま、急いで町のはずれにある森へ向かった。
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