ラスボスを倒した変身ヒーローの次の敵は異世界にありました

濵野々鳴杜

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一章:変身ヒーローの転生

第二話:変身ヒーローの受難(前編)

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 大人たちに危険と教えられた立ち入り禁止の森。

 そんな森にゴリラおっさんことザクに案内されて入る事が出来た。正しく言うなら背負われ連れてこられたという現状。

 少し開けた場所に到着してからザクが周りを見渡し安全を確認すると片手で背中に背負う俺を強く放り投げた。

 受け身を取れそうにない。せめて頭部だけでもと思い、両腕で頭を庇い体を丸くする。

 致命傷はないものの体は擦り傷だらけになった。

「おい、さっさと立て。構えろ……」

 先程までのザクとは違い醜く笑う姿は一切ない。両拳を構えて戦闘態勢に入っている。俺は言われた通りに立ち上がった。

 前世の俺なら何度も死にかけて、ちょっとやそっとの痛みでは痛がる事なんか無かったが今は違う。

 転生後、サンとしての人生では怪我という怪我をした事がない。平和に暮らしてのんびり生きてきた。大の大人が乱暴に子供を放り投げて無事な訳がない。

 着地の際に膝や肘の皮膚は擦りむいてしまい血が流れ出ている。この体では初めての出来事で手足が震えて立つ事もままならない。

「そんな状態でよく俺をぶっ飛ばすと宣言したな……威勢は認めよう。だがお前にこの森はまだ早すぎる」

「ッ……クッソが、これくらいすぐになれるさ」

 震える手足を何度も叩いて体を鼓舞する。深く息を吸って呼吸を整える。

「あぁぁぁあああァァァァア……技能スキル、変身ッ」

 変身という言葉と共に、自分自身の右足だけが薄く光を浴びている。

「フッ、それが変身が小僧の技能スキルというのか?それは何か変わったと言っていいのか?見たところ右足のみ」

 ザクは相変わらず両拳のガードを固めたままで警戒を解いてはいないが俺の変身を見るなり鼻で笑う。何がそんなにおかしいのか自身の体の変化を確認してみた。

「これは……」

 神に与えられた呪いはトコヤミと離れていると完全な変身が出来ないという事。

 前世の記憶。神様の前で実践した時は下半身だけでも完全に武装されていたのに今回は右足のみ。しかも光り輝くだけで一切武装もされない。

「トコヤミとの距離で変身度合いが変わるのか……」

 これはトコヤミを探す手がかりにもなる。変身が完全なモノに近ければそれだけトコヤミも近いという事。

 自身の変身の現状に驚きを通り越して自分でも少し笑ってしまった。光り輝く右足を一瞥して溜息をつく。肘や膝は相変わらず痛いし手は震えている。

 右足を後ろに下げて左足を前に構える。手は大きく広げて腰より少し上の位置で構える。

 通常、喧嘩や格闘の類は両手を軽く握って拳を作る。そして拳の位置は攻撃を防ぐ為に高く構えるものではあるが手が震えて思うように動かない。

「それが構えだとでもいうのか?つくづくふざけているようにしか思えん」

「誰かさんのおかげで手が震えてしまってね。使えない腕ならいっそ自由にさせてた方がマシだと思って……おっさん、俺から行っていいんだね?」

 ザクは大げさに歯を見せてニヤけて答える。イエスの合図か、俺もつられてしまい震える手足とは裏腹に口角が吊り上がってしまった。

「ああぁぁあっ!――」

 自分自身を鼓舞するように叫ぶ。動き出しの際、右足で蹴った地面が思った以上に力強く地面を捉えて推進出来る。その事に驚いて姿勢がとても低くなってしまった。

 推進力と姿勢を維持した状態で走り込みザクとの間合いを詰めにいく。

 ザクは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに姿勢を俺へと向けて強襲に備える。

 ふと思い出す戦闘時における感覚。一瞬一瞬が遅く感じ、思考がとてもクリアになる。

 そしてよくよく考えると俺とザクでは圧倒的に体格差がある事を思い出した。変身ライダーとしての全盛期なら余裕で勝てるが今の変身は右足のみ。

 地面を蹴る推進力で分かったが右足の攻撃力もザクを倒せる保証は一切ない。

 何か何か……と、そう考えていると推進力が衰えてしまい躓きそうになる。右足を前へ出し地面を蹴るとザクの顔面に向けて飛び上がってしまった。

 高速でザクの顔面に突撃してしまう直前、自身の顔面を守る様に腕を交差させた。

 結果、偶然ではあるがザクの意表を突く事が出来たのかザクは大きく後ろへとのけぞってしまう。

 空へ流れた自身の体を捻り右足を上へと突き出す。後ろへとのけぞったザクの顔面に向けて踵を勢いよく振り落とす。

 ザクは攻撃が当たる前に自身の顔面を両腕で防御した。振り落とした右足がザクの腕へと激突。瞬間、大きな衝撃と共に砂が舞い上がり視界が悪くなる。

 砂煙でどうなったかはわからない。結局はふさがれてしまったが確かに伝わるザクを踏む確かな感覚。

 次第に砂煙が落ち着いて足元を確認すると地面はザクの体を中心にひび割れている。

「ハァッ、ハァッ、ハハ、案外いけるもんだな……」

「甘いわ小僧が!」

「!?」

 急なデカい声に驚いてザクを踏みつけていた右足を離してしまった。瞬間、大きな手で鳥でも捕まえたように両足を拘束されてしまった。

 景色は真っ逆さま。

「おっさん……今度は鳥になった気分だよ」

 大げさに何度も頷いてザクは笑った。

「このザクの意表を突いた事は評価しよう。だがお前じゃこの森はやはり早い。お前の変身なんとやらは確かに強力だがそれしかない。それならまだ武闘家の技能(スキル)、身体強化で手数多く攻められた方が余程強い」

 ザクの指摘は耳に痛い。確かにこのレベルの変身では自分の右足に翻弄されてしまう。

「おっさん、そんなことより早く下ろしてくれないかな」

「おっ、そうだったな」そういうとザクは急に手を放してしまった。

「チッいってぇ~……」受け身が取れずに背中を強打する。

「受け身も取れない小僧がハネッ返りよって、しかも擦り傷が少々出来たくらいで震えて腕が使えなくなるとはな!」

 ぐうの音も出ない。

『捕まえろー!そっちへ行ったぞー!』

 ザクの背後から大人たちが何やら騒いでいる声や物音がする。

「む、今年は息のいい餓鬼(ガキ)が多いな」ザクは騒がしい方向へ振り向き確認する。

「オッサンも行かなくて大丈夫なのかい?」

「その必要はない、何故ならーー」

 ザクが話している途中で強い向かい風が吹く。

「サン!ここにいるの?」

 聞き慣れた高い声とあの可愛らしい容姿はペルデルだ。あの人数の大人たちを走って撒いて来た所をみると、とてつもない速さで走って来たんだろう。

「小娘!この小僧に用があって来たのか?」

「そうよ!サンを虐めてるゴリラの話を聞いたのだけれど貴方で間違いないかしら?」

「虐めるのと教育とは訳が違う。小娘も教えてやろうか?」

「はっ、おじさんが可愛い女の子に襲い掛かったけど返り討ちに合ったって広めてやるんだから!」

 ザクとペルデルは俺を置いてけぼりの臨戦態勢。

 二人が構え合うと同時にペルデルを追いかけて来た大人たちが漸く追い付いたようだ。

 大人たちは皆、走って乱れた呼吸をゆっくりと整えている。

「ペルデルは汗一つかいていない?」

 一つの疑問が生まれると様々な事まで気になるようになる。ペルデルとザクの適正職はなんなのか?この森が危険であるならもうとっくに危険な目に遭ってるはず……

 幸い皆んなの目はペルデルとザクに向いている。こっそり抜け出そう。

「小僧!変な真似はするなよ?」

 ザクは横目に俺を見下ろして威嚇する。それに続くようにペルデルからも殺気に近い目線を送られて身動き出来ない事を察した。

 そう言えば前世でも似たような経験があった。つい昨日の様に思い出せるが、懐かしくもある。

 早くトコヤミに逢いたいな。気持ちばかりが先行してまだ何も進んじゃいない。そう思うと哀しくて、ザクとペルデルの戦いもどうでもよくなる。

 早く終わらせてくれと願うばかりだ。
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