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30、君のせい

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ヨハンナとカロリーナは西の林を中心に、調査を始めた。
歩きながら、何を話そうか悩んでいたら、ヨハンナから話しかけてきた。

「セヴェリは、かなり優秀な魔術師なんだ。ここの領主様も宮廷の宰相様も、セヴェリの能力を認めている」
「そうなんですね!」

やっぱり、セヴェリはすごい人なんだ。
カロリーナは感心した。
ところが、ヨハンナは声を低くして、付け足した。

「それが、こんな森の外れでずっと過ごしている。もったいないと思わないか?」

もったいない?
白樺の林が、ざわっと揺れた。
カロリーナはおずおずと反論した。

「……でも、セヴェリ様は、ずっと森にいたいって言ってました」

王都や宮廷にいると疲れる。
森にいるのが一番落ち着く。
セヴェリはよくそう言っていた。
だから、そのまま伝えたのに、ヨハンナは固い声で、言い返した。

「もちろん、森にいるのはいい。でも前はもっと頻繁に王都に来ていた。それが全くこなくなった。なぜかわかる?」

ぴしぴしぴし、と棒で木を叩くような喋り方だった。
怒る前の叔母様の口調に似ていた。
カロリーナは、首をすくめて黙ってしまった。
それをどう取ったのか、ヨハンナはカロリーナを鼻で笑った。

「わからないんだね。呑気だな」

ヨハンナは、白樺の木に手を当てて言った。

「君のせいだよ」

白樺がまた、ざわっと揺れた。

「……私?」
「ああ、君を一人にできないからだ。わかる?」

ざざざっ。
白樺は梢を揺らして、その存在を主張していた。

「君は彼の邪魔をしているんだ」
「邪魔……」

ヨハンナは頷いた。

「君さえいなければ彼はもっと出世してるし、村ももっと繁栄してるだろう。それを君が台無しにしているんだ」
「で、でも、私、そ、そんなつもりは」

置いてもらえるだけでいい。
カロリーナはそう思っていた。
邪魔してるなんて、思ってなかった。

「よく言うよ」

ヨハンナはカロリーナに少し近づいた。
背の高いヨハンナから、見下ろされるような格好になる。

「そんな顔で、細い手足で、セヴェリの周りをうろちょろして、邪魔してるつもりはない? 君がいるだけで、彼の障害になるんだ。なぜわからない?」

ーー私がいるだけで。

カロリーナが呆然としていると、ヨハンナはさらに言った。

「記憶がないって本当?」
「あ、はい……」
「だとしても、図々しいよね」

ヨハンナの目は氷のように冷たかった。

「いつ記憶が戻るかわからないんだろ? 何年、ここで世話になるつもりだ? 君がセヴェリに少しでも恩を感じているなら、元いた場所に帰れ。私ならそうする」

ざわわっ。
ざわわっ。
白樺の林が、いつもより揺れている。
今日は、特に風が強いらしい。

「一目見てわかった。セヴェリがずっと命令を無視してるのは君のせいだって」

ーー私のせいで。

「セヴェリは優しいから」

ーーセヴェリ様は確かに、優しい。

「まあ、こんなことを君に言っても、仕方ないか。君が本当にセヴェリを思うなら、とっくの昔に出ていっているはずだものね」
「え、そんな、私」

カロリーナの言葉を無視して、ヨハンナは背を向けて歩き出した。

「イラクサのこちら側を、私が見る。君は向こうを見て」

そして、離れてしまった。
言い返すことのできなかったカロリーナは、仕方なく、向こう側のイラクサのの茂みを見ることにした。
それでも、頭の中は、さっき言われたことで一杯だ。

ーーそんなつもりじゃなかった。

帰らなくていいと言われて、嬉しかった。
ここの人たちはみんな優しいから、それを鵜呑みにしてしまった。
そんなにいけないことをしてるなんて、知らなかった。

しゃがみ込むと、ぽたぽたとエプロンに滴が落ちた。

ーーあれ?

なんで泣いているのだろう。
カロリーナは、イラクサを見ながら、涙を止めようと必死になった。



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