カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(2)

ウィーと杖茶杓

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ツヅキに自分が今、起きた場所が自室ではないと気づかせたのは、最初に目に飛び込んできた光景ではなく、自分が横たわっている場所の感触だった。ソファの不安定感。そうだ、異世界だった。

とは言え、寝起きの動作はどこでも一緒だ。起き上がり、目をこすり、伸びをする。
異世界に来ても自分の習慣とやらからは逃れられないのが、残念と言えば残念だ。しかし、どこか安心感もある。

朝になったら起こしに来る、というメイの台詞をツヅキは思い出した。
外は明るく、つまり朝。少し焦燥感があったが、何をしなければならないというわけでもない。

部屋の中を観察しようとしたが、すぐに昨夜の気恥ずかしさが返ってくる。
何せ他人の部屋、しかも女性の部屋だ。

と、その時、目の前の床に影が伸びた。
ツヅキは背後に誰か立ったのかと振り向く。

ベッドが宙に浮かび上がっていた。
それはゆっくりと上昇を続けたかと思うと、突然床に落下した。

「おわっ。何だ?」

「オハヨーございまーす!」

扉を開け、ツインテールでメイド服の女性が入ってくる。
後ろにはメイもいた。

「アレ? もお起きてらっしゃいますよお。残念失敗です」

メイド服の女性はずかずかとツヅキに近づくと、腰をかがめ、上から下まで舐めるように観察した。というか舐められた。頬を。

「ちょっ、何すんだ」

「ふーん、普通に人間ですねえ。今回のゼルテーネくんは話と違って若いですねえ」

「ウィー、先にベッドメイキングをお願いできるかしら」

「しっつれいしましたー」

ウィーはベッドに向き直って、右手に持っていた杖を振った。
持ち上げて落とされ、少しシーツが乱れていたベッドだったが、一瞬で何もかもがぴしりと整った。

ウィーはドヤ顔でツヅキに首を向けると、また腰をかがめた。
デッサンを書く時のように、ツヅキの顔の縦横を杖で測る。ウィーは左人差し指を自らの唇に当てると、少しニヤけた。

いきなりは面食らったツヅキだったが、否応なく目の前で振り回される杖に視点が行った。
杖は先が少し曲がっており、大きい耳かきか小さな孫の手と言ったような形をしていた。

「あ、コレなんだっけ? 見たことあるぞ」

「杖のことですかあ?」

疑問に疑問で返すウィーの背後から、メイが答える。

「それは杖茶杓よ」

「あ、そうだ! 茶杓だ。確か茶道で使うヤツ」

ウィーがメイの方を見る。
「まだ説明してないわ」とメイ。

「行く前に言っといた方が良いわね、これについては」


◇◇◇


「あなたの言う通り、それは“茶杓”よ」

「なんか抹茶とか、すくうヤツって覚えてるけど」

「そうね。ただ、ウィーの持ってるのは“杖茶杓”」

「杖茶杓?」

「術者の“魔力”をすくう茶杓のことをそう呼ぶわ。異世界には付き物でしょう? 魔法は」

ツヅキはまた“心中お察し”された。

「この、あなたの考えてる“心中お察し”技術は私しか持ってないけど、杖茶杓を使えば大抵の魔法は誰でも使えるようになるわ」
「一ついいかな。なんで茶杓なんだ」
「え?」
「いや、普通は杖ってこう……魔法学校的にはスタイリッシュだろ」

メイが少し首をかしげたが、怪訝そうな目つきにツヅキは察した。あ、読まれる。

「あなたのイメージでは、茶杓はダサいのね。そうなのかしら?」

メイがウィーに問いかける。

「うーん……耳かきとか孫の手って言われると、そうですかねえ」

「でも、むしろ耳かきや孫の手が茶杓の形って感じよね」

「それもそうですねえ♪」

「まあ、感性は人それぞれとして。ツヅキくんの『なんで茶杓』の疑問については、これから私なんかよりもっと造詣が深い方々に聞けば答えてくれるわ。さあ、行きましょうか。
あ、ちなみに“コレ”はウィー・シュタッシュトルテ。私のメイドで、ちょっと変わり者よ」

「お嬢さまとはいい勝負ですよ~。ツヅキさま、よろしくです。さあ、行きましょうか」
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