カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
21 / 307
United Japanese tea varieties of Iratsuko(3)

塩味の効いた朝食

しおりを挟む
アサヒは目が覚めた。目の前には、端正な人形の顔があった。アサヒは知らないが、ドールを思わせる顔だ。
寝起きの頭が、思考を麻痺させていた。ただ「キレイだなあ……」と見つめる。

と、その人形が瞬きした。驚きの感覚がアサヒの頭の頂点から突き刺すように足先まで走った。

「うわっ!」

と後ろに勢いよく頭を引いて、後頭部を壁に強打した。

「何してるの、ケガするわよ」

「っつう……いや、ジュディさんこそ何してたんですか」

「完全に生身の人間の顔を、まじまじと見る機会は少なくてね。さあ、起きましょうか」

アサヒは徐々に、自分の置かれた状況を思い出していた。
昨日、異世界とかいうところに気づいたら“誘拐”されてしまっていて、あれよあれよという間に、“特捜6課”なるチームに配属されてしまったこと。
この“国”が捜索してくれていたっていうくらい自分は重要人物だって聞いたけど、寝るところがないって言われたこと。

「留置所なら空いてるぜ、それか俺の部屋」というフランシスの提案に、ジュディが「それなら留置所一択ね」と返したこと。
結局、ジュディの部屋で寝ることになってしまったこと(それに対してのフランシスの一言は「なるほど、留置所ね」)。

小さな窓からは、高層ビル群が輝いていた。青空はほぼ見えなかった。

「朝食よ。私は食べたことがないから、味は保証できないけど」

フレンチスクランブルにベビーリーフ、味噌汁と白米という、およそ異世界らしくない朝食だった。
アサヒは朝食の前に立ったまま、しばらくそれらを見つめてしまった。

「何かおかしい? この国の異世界についての研究は、かなり進んでいるはずなのだけれど。朝食についても」

アサヒは、ぽろぽろと泣き出してしまった。

「ちょっと! どうしたの?」

アサヒの前に膝をついて、顔を窺うジュディ。
鼻を啜りながらアサヒは笑って、答えた。

「いや、こんな朝食まで研究が進んでるのにビックリして……へへ」

「……心配させないでよ。ほら、食べて」

ジュディは、アサヒが泣き出した本当の理由を知っていた。
だが、会って二日目の相手にそれを話されるのは、アサヒにとっては嫌に違いないのだ。
それにその“理由”は、これからアサヒを協力させ続けるのに“利用”できる。

我ながら、反吐が出そうな振る舞いだ。と、ジュディは思った。
このクソみたいな世界で育ってきた子供ならともかく、異世界で育った子供なのだ。
そんな相手を利用するような振る舞いは、赤子に対して行うのと一緒で、気分が良いはずがない。

「んっ!」

「味が良くなかったかしら?」

「……塩味が効いてますね」

「……それはあなたの味付けね」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...