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南山城国(7)
旅立ち(1)
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「問題は……和束の国が、道を封鎖したことです」
「和束? ああ、バクエット・ド・パクスか。少しド忘れしていたよ」
旅団の一行たちは、蝋燭の揺れる明かりに照らされた古地図を見ていた。
童仙が地図上の和束――バクエット・ド・パクスの右に描かれている経路を指で示している。
「パクスが道を封鎖するというのは、少し妙だね。むしろ、スゴくわかりやすいと表現すべきかな」
遠藤が言葉を続ける。
童仙がパクスの右の位置から、パクスを通り南山城国まで指で線を引く。
「本来ならば、この経路が使えるはずでした。和束は“まれびとの召喚”を行わないはずでしたので、予てより繋がりの深い我が国に、経路を提供してくれるはずだったのですが……」
「具体的に、どう封鎖されていたんだい?」
「木と結界です。木は何とでもなりますが、結界は強固なものですね」
「ふむ……ボク一人ならば通れようものだが、皆は無理だろうね」
龍之介とカオルは置いてけぼりだ。
なんかシャクだったので、口を挿むカオル。
「さっきパクスが道を封鎖するのが、スゴくわかりやすいって遠藤さん言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「ん? ああ、いや簡単なコトさ。パクスは平和主義だから滅多なコトじゃあ、こんな態度は取りはしない。で、こんなタイミングで滅多なコトは一つしかない」
「つまり、和束が“召喚”をしたと?」
カオルも、バクエット・ド・パクスの事情については聞いていた。
過去にこういった“まれびとの召喚”事象は5回あった。だが、その5回目でパクスは災害に見舞われ、以降は国として平和主義的な態度を取るとともに、“召喚”を禁止した。
「あるいは召喚をしていないのに、向こうから勝手にやって来たかじゃあないかな」
「“まれびと”が勝手に? そんなことがあるんですか、天狗殿?」
童仙が遠藤に聞き返す。カオルも同じ気持ちだった。
「ありうるとも。普通はありえないがね。今年は普通じゃあない」
「やはり、そうなのですか?」
「やはりって、どういうことですか?」
龍之介が遂に遠藤と童仙の会話に参加する。
「今年は召喚時に魔術回路のズレがあったのです。この世界にあまねく張り巡らされている魔術回路を検めることで、我々は“まれびと”の顕現する地を予測するのですが、その際にズレが存在していたのです」
「なんで?」
カオルがあっけらかんと聞く。
遠藤が、それに顔をほころばせながら答える。
「魔術回路に誰かが介入したんだよ。まあ、その誰かが誰かは大体わかっているがね」
「誰なんです?」
「シュロッス・イン・デル・ゾーネ。南山城国の言葉で言うと城陽の国の、とあるお嬢さまさ」
「ふーん、簡単に介入できるんですか? 魔術回路」
「まさかだねえ。ちょっと特殊なお嬢さまなんだ」
「和束? ああ、バクエット・ド・パクスか。少しド忘れしていたよ」
旅団の一行たちは、蝋燭の揺れる明かりに照らされた古地図を見ていた。
童仙が地図上の和束――バクエット・ド・パクスの右に描かれている経路を指で示している。
「パクスが道を封鎖するというのは、少し妙だね。むしろ、スゴくわかりやすいと表現すべきかな」
遠藤が言葉を続ける。
童仙がパクスの右の位置から、パクスを通り南山城国まで指で線を引く。
「本来ならば、この経路が使えるはずでした。和束は“まれびとの召喚”を行わないはずでしたので、予てより繋がりの深い我が国に、経路を提供してくれるはずだったのですが……」
「具体的に、どう封鎖されていたんだい?」
「木と結界です。木は何とでもなりますが、結界は強固なものですね」
「ふむ……ボク一人ならば通れようものだが、皆は無理だろうね」
龍之介とカオルは置いてけぼりだ。
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「さっきパクスが道を封鎖するのが、スゴくわかりやすいって遠藤さん言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「ん? ああ、いや簡単なコトさ。パクスは平和主義だから滅多なコトじゃあ、こんな態度は取りはしない。で、こんなタイミングで滅多なコトは一つしかない」
「つまり、和束が“召喚”をしたと?」
カオルも、バクエット・ド・パクスの事情については聞いていた。
過去にこういった“まれびとの召喚”事象は5回あった。だが、その5回目でパクスは災害に見舞われ、以降は国として平和主義的な態度を取るとともに、“召喚”を禁止した。
「あるいは召喚をしていないのに、向こうから勝手にやって来たかじゃあないかな」
「“まれびと”が勝手に? そんなことがあるんですか、天狗殿?」
童仙が遠藤に聞き返す。カオルも同じ気持ちだった。
「ありうるとも。普通はありえないがね。今年は普通じゃあない」
「やはり、そうなのですか?」
「やはりって、どういうことですか?」
龍之介が遂に遠藤と童仙の会話に参加する。
「今年は召喚時に魔術回路のズレがあったのです。この世界にあまねく張り巡らされている魔術回路を検めることで、我々は“まれびと”の顕現する地を予測するのですが、その際にズレが存在していたのです」
「なんで?」
カオルがあっけらかんと聞く。
遠藤が、それに顔をほころばせながら答える。
「魔術回路に誰かが介入したんだよ。まあ、その誰かが誰かは大体わかっているがね」
「誰なんです?」
「シュロッス・イン・デル・ゾーネ。南山城国の言葉で言うと城陽の国の、とあるお嬢さまさ」
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「まさかだねえ。ちょっと特殊なお嬢さまなんだ」
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