カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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南山城国(10)

忌村(11)

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覗き穴の向こうでは、“奴ら”の三体が突っ伏していた。
サイズ感から見て、大人二人に子供一人だ。

その三体はお互いに向かい合うようにして、膝を抱えて額を地面に付けるかのようにうずくまっていた。
しかしその額……というか首は、およそ人間にはあるまじき角度で直角以上に曲がり、天を向いてうねうねと伸びていたが。

一通り順番にその光景を見て、最後に通りの見張りを龍之介と交代した遠藤が穴を覗いた。

「うへぇ、おぞましいね。何だろう、いったい」

「同じ姿形でも、外を人間のように歩いてる時のソレと、今のように首が変な方向に曲がっててハッキリと“人っぽいけど人じゃない”のを見せられるのとでは、生理的ショックが違いますね」

「そうだね、カオルちゃん。天井に額をこすりつけてるのは何ともおぞましいよ」

「え。ソコまで首が伸びてるんですか」

カオルが覗き役を替わる。
カオルが覗いた時には人の頭一つ分、余分に長い程度だった奴らの首が、今では天井につっかえて折り返すように伸びきっていた。

「うええ、何なんだよホントに」

「ろくろ首というか何と言うか……。首を長くして何かを待っているのか、或いは芋虫がツノをだすように、ある種の怯えの表現か。何にしても、問題はその相手だろうけど」

ソレを聞いて、カオルは覗き穴から目を離して龍之介の方に近づいた。
龍之介の頭の上から、同じように外の通りを窺う。
龍之介は思わぬ密着に少し照れくさくなったが、今はソレどころではないと頭を振った。

「特に何も起こってないよねぇ」

「……あの、カオルさん」

「はい?」

「“しおく”って何ですか?」

「ん?」

「さっき、遠藤さんと話されてたじゃあないですか。“せいりてきしおく”って」

「ああ、生理的ショックね。まあ……生々しい気持ち悪さ、っての?」

「ふーん、なるほど」

そんな龍之介とカオルの上から、次は童仙が頭をだして外の様子を窺った。

「……皆さん、来たようです」

全員がその声に外を確認する。

「え? どこどこ?」

「皆さんがこの村に入る前に、私に教えてくださったアレですよ。少し見方を調整しないと背景に溶け込んで見えなくなる、アレです」

皆がソレを聞いて思いだした。
空を仰ぐ。

通りの先、遥か向こうの山の上、件の物体が頭をもたげていた。
村に入る直前、空を覆うかのように飛来した、空よりも赤い蝶だ。

「アレって、私たちの出発した方に向かって飛んで行ってなかった? また同じトコから姿を現したけど」

「この村域内の空間はねじ曲がっているからね。もしくは、あの蝶は天体現象のようなスケールのものなのかも」

「一周してきた? まさかぁ」

遠藤の推測にカオルがいつもの剛胆な調子で返す。
そうこうしているウチに、またも“蝶”が羽を広げてコチラに飛来する動きを見せた。
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