131 / 307
南山城国(10)
忌村(11)
しおりを挟む
覗き穴の向こうでは、“奴ら”の三体が突っ伏していた。
サイズ感から見て、大人二人に子供一人だ。
その三体はお互いに向かい合うようにして、膝を抱えて額を地面に付けるかのようにうずくまっていた。
しかしその額……というか首は、およそ人間にはあるまじき角度で直角以上に曲がり、天を向いてうねうねと伸びていたが。
一通り順番にその光景を見て、最後に通りの見張りを龍之介と交代した遠藤が穴を覗いた。
「うへぇ、おぞましいね。何だろう、いったい」
「同じ姿形でも、外を人間のように歩いてる時のソレと、今のように首が変な方向に曲がっててハッキリと“人っぽいけど人じゃない”のを見せられるのとでは、生理的ショックが違いますね」
「そうだね、カオルちゃん。天井に額をこすりつけてるのは何ともおぞましいよ」
「え。ソコまで首が伸びてるんですか」
カオルが覗き役を替わる。
カオルが覗いた時には人の頭一つ分、余分に長い程度だった奴らの首が、今では天井につっかえて折り返すように伸びきっていた。
「うええ、何なんだよホントに」
「ろくろ首というか何と言うか……。首を長くして何かを待っているのか、或いは芋虫がツノをだすように、ある種の怯えの表現か。何にしても、問題はその相手だろうけど」
ソレを聞いて、カオルは覗き穴から目を離して龍之介の方に近づいた。
龍之介の頭の上から、同じように外の通りを窺う。
龍之介は思わぬ密着に少し照れくさくなったが、今はソレどころではないと頭を振った。
「特に何も起こってないよねぇ」
「……あの、カオルさん」
「はい?」
「“しおく”って何ですか?」
「ん?」
「さっき、遠藤さんと話されてたじゃあないですか。“せいりてきしおく”って」
「ああ、生理的ショックね。まあ……生々しい気持ち悪さ、っての?」
「ふーん、なるほど」
そんな龍之介とカオルの上から、次は童仙が頭をだして外の様子を窺った。
「……皆さん、来たようです」
全員がその声に外を確認する。
「え? どこどこ?」
「皆さんがこの村に入る前に、私に教えてくださったアレですよ。少し見方を調整しないと背景に溶け込んで見えなくなる、アレです」
皆がソレを聞いて思いだした。
空を仰ぐ。
通りの先、遥か向こうの山の上、件の物体が頭をもたげていた。
村に入る直前、空を覆うかのように飛来した、空よりも赤い蝶だ。
「アレって、私たちの出発した方に向かって飛んで行ってなかった? また同じトコから姿を現したけど」
「この村域内の空間はねじ曲がっているからね。もしくは、あの蝶は天体現象のようなスケールのものなのかも」
「一周してきた? まさかぁ」
遠藤の推測にカオルがいつもの剛胆な調子で返す。
そうこうしているウチに、またも“蝶”が羽を広げてコチラに飛来する動きを見せた。
サイズ感から見て、大人二人に子供一人だ。
その三体はお互いに向かい合うようにして、膝を抱えて額を地面に付けるかのようにうずくまっていた。
しかしその額……というか首は、およそ人間にはあるまじき角度で直角以上に曲がり、天を向いてうねうねと伸びていたが。
一通り順番にその光景を見て、最後に通りの見張りを龍之介と交代した遠藤が穴を覗いた。
「うへぇ、おぞましいね。何だろう、いったい」
「同じ姿形でも、外を人間のように歩いてる時のソレと、今のように首が変な方向に曲がっててハッキリと“人っぽいけど人じゃない”のを見せられるのとでは、生理的ショックが違いますね」
「そうだね、カオルちゃん。天井に額をこすりつけてるのは何ともおぞましいよ」
「え。ソコまで首が伸びてるんですか」
カオルが覗き役を替わる。
カオルが覗いた時には人の頭一つ分、余分に長い程度だった奴らの首が、今では天井につっかえて折り返すように伸びきっていた。
「うええ、何なんだよホントに」
「ろくろ首というか何と言うか……。首を長くして何かを待っているのか、或いは芋虫がツノをだすように、ある種の怯えの表現か。何にしても、問題はその相手だろうけど」
ソレを聞いて、カオルは覗き穴から目を離して龍之介の方に近づいた。
龍之介の頭の上から、同じように外の通りを窺う。
龍之介は思わぬ密着に少し照れくさくなったが、今はソレどころではないと頭を振った。
「特に何も起こってないよねぇ」
「……あの、カオルさん」
「はい?」
「“しおく”って何ですか?」
「ん?」
「さっき、遠藤さんと話されてたじゃあないですか。“せいりてきしおく”って」
「ああ、生理的ショックね。まあ……生々しい気持ち悪さ、っての?」
「ふーん、なるほど」
そんな龍之介とカオルの上から、次は童仙が頭をだして外の様子を窺った。
「……皆さん、来たようです」
全員がその声に外を確認する。
「え? どこどこ?」
「皆さんがこの村に入る前に、私に教えてくださったアレですよ。少し見方を調整しないと背景に溶け込んで見えなくなる、アレです」
皆がソレを聞いて思いだした。
空を仰ぐ。
通りの先、遥か向こうの山の上、件の物体が頭をもたげていた。
村に入る直前、空を覆うかのように飛来した、空よりも赤い蝶だ。
「アレって、私たちの出発した方に向かって飛んで行ってなかった? また同じトコから姿を現したけど」
「この村域内の空間はねじ曲がっているからね。もしくは、あの蝶は天体現象のようなスケールのものなのかも」
「一周してきた? まさかぁ」
遠藤の推測にカオルがいつもの剛胆な調子で返す。
そうこうしているウチに、またも“蝶”が羽を広げてコチラに飛来する動きを見せた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦国鍛冶屋のスローライフ!?
山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。
神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。
生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。
直道、6歳。
近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。
その後、小田原へ。
北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、
たくさんのものを作った。
仕事? したくない。
でも、趣味と食欲のためなら、
人生、悪くない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる