カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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バクエット・ド・パクス(10)

他国に入っただけなのに(11)

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アンナは上体を起こし、身体感覚とその操作状態をチェックする。
どうやら遅延と問題もなく、ハックしていた運転手の身体から戻ってこれたようだ。

『全部じゃあないが、答えは機械』

その言葉を彼女は自らの脳髄の中でも反芻した。

“旅”というイベントの正体は、“旅の一行”相互間で行われる国々の代理戦争だ。
しかし、過去数度の旅では結局、国同士が衝突するコトもなかったワケではない。
ましてや、国などいざ知らずの連中がコレに乗じて、問題を起こすというのもありうる。

ソレらを回避するため、彼女はFBU本部に近づく公共交通や民間業者の大多数を監視していた。
そして今回、当たりではないが“パクスからの一行”を偶然、車で拾うコトに成功したのだった。

「まあ、機械ではないな」

彼女は一人そう呟いた。
生身の肉体の彼女だったが、FBU捜査局局長代行というポストまで到達するのに、コレまでの人生を機械以上に機械らしく動いてきた。

しかし今回、彼女は一矢報いたつもりだった。
“旅の一行”への介入は、アチラからにせよコチラからにせよ一応は禁じられている。

だが『結果的に巻き込まれたらご愁傷さま』だ。
タクシーを“操縦し誤って”も、仕方なかっただろう。
だが、そうはしなかった。

U.J.Iの発展はひとえに“廃都”からの技術簒奪と、徹底した合理主義の賜物だ。
そしてその合理主義にコレまで通り従えば、正解は“タクシーの操縦し誤り”だ。
ソレはアンナの前任者やそのまた前任者も、連綿と行ってきたことに違いない。

彼女はこの点に対し、ささやかな抵抗を行ったのだった。
そしてその抵抗が、衰退しつつあるU.J.Iを救うコトを願って。


◇◇◇


ミサトは、FBU本部を見上げていた。

「どうかしましたか、ミサトさん♪」

カトリーヌが声をかける。

「ミサトさん?」

再度の声かけに、ようやくミサトは反応した。

「いや、無駄にデカい建物だなと」

「そうですか。じゃあ、行きましょう♪」

カトリーヌとノワールが歩きだす。
ソレに続こうとするブレーズの服の端を引っ張り、ミサトが問いかけた。

「さっきの運転手だが、機械ってコト以外に、なんかなかったか?」

「?」

首を傾げるブレーズ。

「いや、何もないならいいんだが」

「機械の“中身”、ですか?」

えらくブレーズがハッキリと言った。

「……ああ。ソレに関してだ」

「……………っぽかったです」

「え?」

いつも通りの声質に戻ったブレーズに、ミサトが耳を近づける。

「『違う人』っぽかったです」

「ああ、やっぱり」

「何かわかったんですか?」

「いや、とりあえず考えを整理してからにするよ。皆に伝えるのは」
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