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ラスト・コンテクスト Part1
大文字の夜に(8)
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数分前――
「……始まったようですね」
童仙が祭壇の前で、“鍵”の争奪戦の開催を告げる、銃声や魔術の炸裂音を聞きながら言った。
「そのようね。大丈夫? その子」
「いつも無理をなされる方でしてね。でも、大丈夫そうです」
童仙はメイの問いかけに、カオルへと目を落としながら答えた。
童仙の腕の中でカオルは、気を失っている。
「……意識を取り戻したら、ゴメンって伝えておいてくれるかしら? “ゼルテーネ”を攻撃するつもりはなかったのだけれど」
「貴女の先程のが、攻撃だったとは思っていませんよ。でも、伝えておきます。ソレと」
メイは一瞬早く気づけたが、動けなかった。
瞬きの間に、童仙はメイの首元へと刃を当てていた。
そしてもう一人の童仙は、変わらずカオルを腕に抱えている。
「おっと、動かないでください、“まれびと”殿」
ツヅキは銃に伸びている手を静止させた。
ウィーの顔の前には、龍之介が切っ先を突きつけている。
「……今回は、服装のハンデはないようですねぇ」
「……」
龍之介の頬が少し赤くなるが、その瞳は変わらずウィーを見つめ続ける。
ウィーは感情を表にださず、微笑みながら言った。
「照れちゃいますよぉ」
ツヅキは唾を飲み込むと、童仙に問いかけた。
「どうするつもりだ?」
「“まれびと”殿。次の一手を撃たないでいてくれて感謝します」
童仙はツヅキにそうとだけ返し、メイに対して続ける。
「そして、先程の貴女の科白、貴方がたがまるで先に進まれるかのような言い方でしたが、残念ながら先に進むのは私たちです」
童仙の身体の線は“ブレて”いた。
前にも見た、分身の術だ。
「今回はあまり『無意識』に任せていないので、刃の制御を失ってはいませんが」
童仙が続ける。
「このような会話に発展するコトなく、貴方がたを斬り伏せるのは簡単でした。貴女だけは、心を読む能力で一手早く私の意志に気づいていたようですが」
メイが童仙に鋭い視線を投射しつつ言う。
「ええ。その子に感謝ね、貴方たちは。その子のせいでココまで魔力的に疲弊していなければ、私は貴方に対応していたハズだから」
「そうですね」
「どうして斬り伏せなかった?」
「貴方がたが私たちに劣らず……“フェア”、というのですか? だったからですよ、“まれびと”殿。私たちも、アチラ側で繰り広げられているような争奪戦ではなく、このような詰まらない場で、相手国を組み伏せたとあっては我が国に示しがつきませんから」
森の奥からは、変わらず炸裂音が響いてくる。
「とは言え、私たちが先に進ませていただきます。コレは“貸し”です。一分間、私たちより遅く祭壇を離れてください」
「構わないが、俺たちがその通りにするっていう保証はないぜ」
「その通りにされますよ。貴方がたは“フェア”ですから」
童仙と龍之介が刀を納める。
童仙は一人に戻ると、カオルを背負った。
カオルは、意識を取り戻していた。
「童仙さん、ごめん」
「大丈夫ですよ、カオル殿。彼女からも」
童仙がカオルをメイに向けた。
「大丈夫かしら? “ゼルテーネ”である貴女を攻撃するつもりはなかったわ。ゴメンなさい」
「……私から売ったケンカですから。本気で買ってくださって、ありがとうございました」
カオルは銃を掴むと、童仙と龍之介に『100℃弾』を撃った。
「私たちは、味方同士であれば非常に良い仲間になれたかもしれませんね」
童仙が言う。
メイが、ツヅキとウィーに支えられながら立ち上がった。
「忘れてください。ソレでは」
南山城国の一行は、森の中へと消えた。
「……始まったようですね」
童仙が祭壇の前で、“鍵”の争奪戦の開催を告げる、銃声や魔術の炸裂音を聞きながら言った。
「そのようね。大丈夫? その子」
「いつも無理をなされる方でしてね。でも、大丈夫そうです」
童仙はメイの問いかけに、カオルへと目を落としながら答えた。
童仙の腕の中でカオルは、気を失っている。
「……意識を取り戻したら、ゴメンって伝えておいてくれるかしら? “ゼルテーネ”を攻撃するつもりはなかったのだけれど」
「貴女の先程のが、攻撃だったとは思っていませんよ。でも、伝えておきます。ソレと」
メイは一瞬早く気づけたが、動けなかった。
瞬きの間に、童仙はメイの首元へと刃を当てていた。
そしてもう一人の童仙は、変わらずカオルを腕に抱えている。
「おっと、動かないでください、“まれびと”殿」
ツヅキは銃に伸びている手を静止させた。
ウィーの顔の前には、龍之介が切っ先を突きつけている。
「……今回は、服装のハンデはないようですねぇ」
「……」
龍之介の頬が少し赤くなるが、その瞳は変わらずウィーを見つめ続ける。
ウィーは感情を表にださず、微笑みながら言った。
「照れちゃいますよぉ」
ツヅキは唾を飲み込むと、童仙に問いかけた。
「どうするつもりだ?」
「“まれびと”殿。次の一手を撃たないでいてくれて感謝します」
童仙はツヅキにそうとだけ返し、メイに対して続ける。
「そして、先程の貴女の科白、貴方がたがまるで先に進まれるかのような言い方でしたが、残念ながら先に進むのは私たちです」
童仙の身体の線は“ブレて”いた。
前にも見た、分身の術だ。
「今回はあまり『無意識』に任せていないので、刃の制御を失ってはいませんが」
童仙が続ける。
「このような会話に発展するコトなく、貴方がたを斬り伏せるのは簡単でした。貴女だけは、心を読む能力で一手早く私の意志に気づいていたようですが」
メイが童仙に鋭い視線を投射しつつ言う。
「ええ。その子に感謝ね、貴方たちは。その子のせいでココまで魔力的に疲弊していなければ、私は貴方に対応していたハズだから」
「そうですね」
「どうして斬り伏せなかった?」
「貴方がたが私たちに劣らず……“フェア”、というのですか? だったからですよ、“まれびと”殿。私たちも、アチラ側で繰り広げられているような争奪戦ではなく、このような詰まらない場で、相手国を組み伏せたとあっては我が国に示しがつきませんから」
森の奥からは、変わらず炸裂音が響いてくる。
「とは言え、私たちが先に進ませていただきます。コレは“貸し”です。一分間、私たちより遅く祭壇を離れてください」
「構わないが、俺たちがその通りにするっていう保証はないぜ」
「その通りにされますよ。貴方がたは“フェア”ですから」
童仙と龍之介が刀を納める。
童仙は一人に戻ると、カオルを背負った。
カオルは、意識を取り戻していた。
「童仙さん、ごめん」
「大丈夫ですよ、カオル殿。彼女からも」
童仙がカオルをメイに向けた。
「大丈夫かしら? “ゼルテーネ”である貴女を攻撃するつもりはなかったわ。ゴメンなさい」
「……私から売ったケンカですから。本気で買ってくださって、ありがとうございました」
カオルは銃を掴むと、童仙と龍之介に『100℃弾』を撃った。
「私たちは、味方同士であれば非常に良い仲間になれたかもしれませんね」
童仙が言う。
メイが、ツヅキとウィーに支えられながら立ち上がった。
「忘れてください。ソレでは」
南山城国の一行は、森の中へと消えた。
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