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ラスト・コンテクスト Part1
大文字の夜に(31)
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「ヴェルメロスさんのこの灯り、良いですねえ。水銀灯でしたっけぇ?」
「そうですね。確か、そんな名前でした」
ウィーが爪で灯りをチンチンと叩く。
答えたアサヒも、目の端で灯りを捉えていた。
水銀灯は直視には向かない。
メイド、ウィーの屋台には、アサヒとブレーズが座っている。
ウィーは屋台の中、フライパンで卵を焼いていた。
「よ~おアサヒちゃん、ウィーお姉ちゃんのメニューはどうだい?」
「ちょっ、ムサシさん。飲みすぎじゃあないですか?」
アサヒの肩に手を回し、ムサシが絡んでくる。
ムサシはアサヒの問いに、笑って背中を叩いて答え、屋台を覗き込んだ。
「なんだあ? サニーサイドアップかあ?」
「そうなんですぅ。アサヒさん、卵料理がお好きというコトで」
「おいコラ、絡むなムサシ!」
ドン!とムサシが背中にチョップを受ける。
カトリーヌだった。
「ムサシって……呼び捨てかよ! てかソレ以前に痛えなあ! 馬鹿力なんだよアンタ!」
「うるさいぞお~♪ どーせアンタもおかわりでしょうがあ~♪」
片手にジョッキを持ったカトリーヌが、両手の人差し指をムサシに向けてグルグルする。
「…………さん、……すぎ……よ」
「その通りですねえブレーズさん。はい、お二人にはこぉーれ」
ウィーが二人に煎茶碗を差しだす。
「おーありがとう“サケ”……ってちゃうやないかーい♪」
「うわっ、火の香りがするぜ。火薬の方な。……冗談だよ」
ウィーに睨まれたムサシが訂正する。
アサヒが問うた。
「“火薬の方”って、何ですか?」
「“火香”じゃあないって、ジョークだよ。つまり“火香”の効いた煎茶で美味えってコト」
「“火香”って、乾燥の温度が一定以上だったお茶につく、香ばしい匂いですよね」
「ソレですねえ。特にその煎茶は“元火”っていう良いヤツですぅ」
ウィーがアサヒとブレーズにも差しだす。
「うわ、スゴい香りですね!」
「……!」
ブレーズもアサヒの感嘆に勢いよく頷く。
二人は顔を見合わせて、飲みながらお互いの感覚を肯定しあった。
「おっ。何だお前ららぶら」
「おら♪ 帰るぞムサシ♪」
ムサシは半ば首を絞められるように、カトリーヌに連れていかれた。
「ソレで、アサヒさんの過去話というか、世界の話の続きを聞きたいですねえ」
「僕の過去は……あの世界は楽しいコトなんてなくて……」
ブレーズが心配そうに見つめる。
「ふーん。じゃあ、卵の好みはコチラの世界にきてからですかぁ?」
「そうですね」
「なるほど~。なら、まだまだコチラの世界に楽しいコトが見つかりますよぉ。ね、ブレーズさん」
ブレーズは先程以上に、勢いよく頷いた。
「二人は気が合いそうですねぇ」
「…は、カトリーヌさんが……だったのを、……きましたから」
「の割には、そのカトリーヌさんばりにブレーズさんが共感してませんかぁ?」
「………コトは……」
「何言ってるかわからねえぞお前ら」
二人の後ろに、次はツヅキが立っていた。
「あら、ツヅキさぁん」
「おう、宴も酣だから、皆一回集まろうってさ」
「ムサシさんですか?」
「いや、アサヒ君。ジュディさんとノワールさんだ。あの二人、モデルみたいにシュッとした外見とは裏腹に、意外と飲む上に、豪快だな。キミら二人も呼んでこいってさ」
「私はお呼びじゃあないんですかねぇ」
「バーロー。だからオレが来たんだよ」
「ですよねぇ。おっと、ちょっと待ってくださいねえ」
ウィーがフライパンを一振りし、アサヒとブレーズの皿に目玉焼きを投げ入れる。
「なんだ、美味そうだな。オレも欲しいんだが」
「もう間に合いませんねぇ」
ウィーはエプロンを脱ぎながら言った。
「残念。ほらほら持って行くぞ」
ツヅキが二人を促す。
皆が集まる光の方へ、四人は向かった。
「そうですね。確か、そんな名前でした」
ウィーが爪で灯りをチンチンと叩く。
答えたアサヒも、目の端で灯りを捉えていた。
水銀灯は直視には向かない。
メイド、ウィーの屋台には、アサヒとブレーズが座っている。
ウィーは屋台の中、フライパンで卵を焼いていた。
「よ~おアサヒちゃん、ウィーお姉ちゃんのメニューはどうだい?」
「ちょっ、ムサシさん。飲みすぎじゃあないですか?」
アサヒの肩に手を回し、ムサシが絡んでくる。
ムサシはアサヒの問いに、笑って背中を叩いて答え、屋台を覗き込んだ。
「なんだあ? サニーサイドアップかあ?」
「そうなんですぅ。アサヒさん、卵料理がお好きというコトで」
「おいコラ、絡むなムサシ!」
ドン!とムサシが背中にチョップを受ける。
カトリーヌだった。
「ムサシって……呼び捨てかよ! てかソレ以前に痛えなあ! 馬鹿力なんだよアンタ!」
「うるさいぞお~♪ どーせアンタもおかわりでしょうがあ~♪」
片手にジョッキを持ったカトリーヌが、両手の人差し指をムサシに向けてグルグルする。
「…………さん、……すぎ……よ」
「その通りですねえブレーズさん。はい、お二人にはこぉーれ」
ウィーが二人に煎茶碗を差しだす。
「おーありがとう“サケ”……ってちゃうやないかーい♪」
「うわっ、火の香りがするぜ。火薬の方な。……冗談だよ」
ウィーに睨まれたムサシが訂正する。
アサヒが問うた。
「“火薬の方”って、何ですか?」
「“火香”じゃあないって、ジョークだよ。つまり“火香”の効いた煎茶で美味えってコト」
「“火香”って、乾燥の温度が一定以上だったお茶につく、香ばしい匂いですよね」
「ソレですねえ。特にその煎茶は“元火”っていう良いヤツですぅ」
ウィーがアサヒとブレーズにも差しだす。
「うわ、スゴい香りですね!」
「……!」
ブレーズもアサヒの感嘆に勢いよく頷く。
二人は顔を見合わせて、飲みながらお互いの感覚を肯定しあった。
「おっ。何だお前ららぶら」
「おら♪ 帰るぞムサシ♪」
ムサシは半ば首を絞められるように、カトリーヌに連れていかれた。
「ソレで、アサヒさんの過去話というか、世界の話の続きを聞きたいですねえ」
「僕の過去は……あの世界は楽しいコトなんてなくて……」
ブレーズが心配そうに見つめる。
「ふーん。じゃあ、卵の好みはコチラの世界にきてからですかぁ?」
「そうですね」
「なるほど~。なら、まだまだコチラの世界に楽しいコトが見つかりますよぉ。ね、ブレーズさん」
ブレーズは先程以上に、勢いよく頷いた。
「二人は気が合いそうですねぇ」
「…は、カトリーヌさんが……だったのを、……きましたから」
「の割には、そのカトリーヌさんばりにブレーズさんが共感してませんかぁ?」
「………コトは……」
「何言ってるかわからねえぞお前ら」
二人の後ろに、次はツヅキが立っていた。
「あら、ツヅキさぁん」
「おう、宴も酣だから、皆一回集まろうってさ」
「ムサシさんですか?」
「いや、アサヒ君。ジュディさんとノワールさんだ。あの二人、モデルみたいにシュッとした外見とは裏腹に、意外と飲む上に、豪快だな。キミら二人も呼んでこいってさ」
「私はお呼びじゃあないんですかねぇ」
「バーロー。だからオレが来たんだよ」
「ですよねぇ。おっと、ちょっと待ってくださいねえ」
ウィーがフライパンを一振りし、アサヒとブレーズの皿に目玉焼きを投げ入れる。
「なんだ、美味そうだな。オレも欲しいんだが」
「もう間に合いませんねぇ」
ウィーはエプロンを脱ぎながら言った。
「残念。ほらほら持って行くぞ」
ツヅキが二人を促す。
皆が集まる光の方へ、四人は向かった。
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