カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
267 / 307
ラスト・コンテクスト Part2

プリマキナ・オルソグナス(9)

しおりを挟む
「童仙さん!」

カップとブレーズ、アサヒが童仙の落下した方へと走っていった。

「くそっ! だがとにかく、俺たちの内ほとんどは森まで到達したぞ! おーい急げ!」

フランシスが広場の中央、まだコチラに向かって走ってきている途中のジュディとヴェルメロス一行に叫ぶ。
その向こうで“蜘蛛”は、遠藤とカオルに相対しながらも、何かコレまでにない体勢を取りつつあった。

「あ……マズいかも」

ツヅキは真っ先に、ソレを見てポツリと呟いた。


◇◇◇


カオルは吹き飛ばされた童仙の名を呼び、振り向いたままの状態だった。
遠藤は相手から目を離すコトなく、しかし背後のカオルに言う。

「カオルちゃん、とりあえずだが、ミサイルも迎撃したコトだし僕の武器だけではアレに対抗できそうにない。僕らもどの方向でもいいが、森の中にもう逃げるべきじゃああるまいか」

「そ、そうですね。賛成。賛成です」

カオルが前を向き直す。
目の前の巨体が、前脚を伸ばして後ろ足を曲げ始めた。

(「えっと、何て言うんだっけコレ。この猫みたいなポーズ、ヨガで……。あ、そのまんま『猫のポーズ』だ」)

そのような状況ではないが、そんなコトがカオルの脳裏によぎった。
次の瞬間には、風が強く吹き、蜘蛛の姿はなかった。

「え? ……え!?」

カオルが一瞬前の記憶を呼び戻す。
ソレが戻ってくる前に、遠藤は今の記憶を反芻していた。

蜘蛛は自分たちを飛び越えていった。
遠藤とカオルが最後に見たのは、遥か頭上の蜘蛛の腹のみだった。


◇◇◇


蜘蛛から見て右方向真横の森の縁にいたノワール、龍之介、カトリーヌはその姿をまともに見ていた。

「ちょっとちょっと……アレはマズいんじゃあないですかねぇ……!」

カトリーヌの声にも、いつもの余裕はない。
ノワールと龍之介は固唾を呑んでその光景を見つめるしかなかった。


◇◇◇


森へと走っているヴェルメロスの一行とジュディは、前方で待ち受ける皆の顔色が変わるのを見た。

「どうした?」

思わずオクルスが走りながら言う。
次の瞬間、突風が背後から吹き抜けた。
一瞬、空も暗くなる。

「何!?」

レインスは疑問を呈しながら振り向く。
ララも続いた。

後方にいたはずの蜘蛛がいない。
慌てて前方を向き直した。


◇◇◇


視界の中の蜘蛛がどんどん大きくなってくる。

森の中にいた大勢は、その現実感のない光景から目が覚めるまで少しの間を要した。
そしてソレは、彼らの次の一手を遅らせるのに充分だった。

巨大な蜘蛛が、自らの六本脚の角度を獣の走る時のソレのように変えて突っ込んでくる。
あと数秒で。

「ミサトさん! アサヒくんも聞こえるか! 全員に『50℃弾』だッ!」

「防御ができる人は全員防御魔法を! ソレ以外の人は攻撃して!」

ツヅキとメイが叫ぶ。
皆はそれぞれの役割に急いだ。
敵は自らの最高速度に到達し、森ごと皆に激突する態勢を取った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...